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初雪が降る前に  作者: 天ノ風カイト


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2/5

前編 『初雪が降る前に』

私は、大切な彼に逢いに、街の中心部にやって来た。

それは、二人り並んで街を歩くため・・・・。

並んで歩く二人を祝福してくれる様な、真っ白な雪を見たいから・・・・。

真っ白な雪は、街の明かりを反射して、この街を、きっと美しい夢のような世界に輝かせる。


その時を、私はアナタと一緒に過ごしたい・・・・。


 『初雪が降る前に、アナタに逢いたい・・・・。』


 薄曇りの空の下で私は繰り返しそう思いながら赤い実を風に揺らすナナカマドの街路樹が横に立ち並んでいる歩道の上で脚を早める。

気象予報が、今日の18時頃には平地でも雪が積もると予想したこの日。

私の小さな計画は、少し遅れて進行していたのだけれど・・・。

きっとこの後、全ての辻褄を合わせる事が出来て・・・・その後は、甘い安らぎの時間が待っている・・・・筈・・・。


だから・・・・。

その時。


2人で街を歩くその時。


穏やかな風が吹いて、冷え込みがキツイ良く晴れたこの日。



 『初雪が降る前に、アナタに逢いたい・・・・。』






 16時55分、私は地下鉄駅の改札を抜けた。

乗り合わせた知りもしない人々の間をすり抜け、追い越しながら、私は急ぎ地下通路を抜ける。

アナタに逢うため・・・。

ううん・・・違う・・・。

少しでも早く、アナタの近くに行くため。私は急ぎ、地上を目指す。

もう直ぐ、私はソコに着く。

地下通路の途中。アナタがまだ仕事をしている筈のオフィスビルに程近い地上への出口へと続く階段に向かって、私は通路横の扉を押し開く。

途端。さっき迄の通路とは明らかに違う、冷えた空気が足元から這い上がる。

外に通じるこの通路の先には、ストレートで地上へと続く階段が見えていた、

私は高校の制服のスカートを揺らし、黒いストッキングと焦げ茶色のブーツに包んだ両脚で、地上から地下へと下りてくる冷えた外気を蹴飛ばしながら、地上への階段の前へと身体を運ぶ・・・。

そして、その勢いのまま、ブーツの底で階段をコツコツと鳴らしながら、早足にそれを駆け上がった。

上目遣いに見る出口の向こう。

そこには、地下鉄に乗り込む前にはまだ明るかった筈の空が、暗くなっているのが見えた。

少しだが、星も出ているのが見える。

『寒そう・・・・。』

ここに向かう前だって寒かったには変わりは無い筈なのだけれど・・・。

一度地下鉄に乗った事で暖かな場所に馴れた身体は、又、この身を取り巻くで有ろう冷たい空気を察し、幾分緊張してきた。

地下へ向う数人の人とすれ違う。

出口は間近。

私は、階段を駆け上がりながら、右手に持っていた鞄を左手に持ち替え、それで空いた右手を使って首に軽く巻き付けていた、ダークブラウンに白のチェック柄のマフラーを巻き直す。

寒さに備えた心は、唇をキュッと結ばせた。


 「はぁ・・・。」

吐いた息がしらむ。

無意識に私は、自分の過去の吐息の行方を目で追っていた。

『学校から出た時よりも、寒くなってる・・・・。』

暗い空を見上げる。

大きな通りの開けた空は、都市の中心部とは思えない程に大きく広がっていた。

街の明かりが空の雲を照らしている。

乾いた空気に響く、白い煙を吐き出しながら行き交う多くの車の音。

私の周りを通り過ぎる人々の足音・・・。

観光で来たのであろう人々が、信号待ちしながら大きな声で楽しそうに話している異国の言葉・・・。

ここに来ると、私は何時も、自分の通っている高校は街の中心部からは結構離れているのだと気付かされる。

『もう何度目かな・・・・ここで、こんな気持になるのは?』

私は一人、密かに幸せを噛み締め、そう思う。

それは、ウキウキするとか、ワクワクするとか・・・ドキドキするとかとも違っていて、その幸せは、きっと私と同世代の多くの高校生女子が抱く想いとも違っているのを、私は知っていた。

私の中の幸せな気持ち・・・満たされる事を知っている気持ちは・・・・キュンっと切なく・・・・そして・・・ほっと暖かくしてくれるのだ。


『悠一さんの、働く街・・・。』


私はそこに来た。


『一週間振り・・・・悠一さんの働く街!』

私は、心の中でこの街に挨拶をした。


 地下鉄の出口を抜けた後、私はその近くで少しの間、辺りを見上げながら立ち止まって居た。

それから少しすると、私が向かおうとしている方角の交差点の歩行者用の信号が青に変わったのを、信号機の色を音で知らせる音楽が切り替わった事で、私は気が付いた。

それと同時に、動き出した同じ方角に向う人々の群れを追う様に、私も歩き出す。

横断歩道を渡っていると、右折してくる車のヘッドライトがアスファルトに描かれた太いゼブラ模様を浮き上がらせ、私の足元を幾分明るく照らしてくれた。

この道を、真っ直ぐに2区画行って、その後に右に1区画行った所に、悠一さんの働くオフィスビルが在る。

横断歩道を渡り切ると直ぐ、私は顔を上げ、目を細めた・・・。



 『初雪が降る前に、アナタに逢いたい・・・・。』


 薄曇りの空の下、私は繰り返しそう思いながら、赤い実を風に揺らすナナカマドの街路樹が横に立ち並んでいる歩道の上で、脚を早める。

気象予報が、今日の18時頃には平地でも雪が積もると予想したこの日。

私の小さな計画は、少し遅れて進行していたのだけれど・・・。

きっとこの後、全ての辻褄を合わせる事が出来て・・・・その後は、甘い安らぎの時間が待っている・・・・筈・・・。



 風が穏やかな今日は、ビル風も無く、歩き易い。

季節や時間帯などその日に寄っては、酷い向かい風を受ける事もあるけれど、今日はとても楽。

私の足取りは、更に軽くなり、周りに人が居なければ数年ぶりのスキップをしてしまいそう。

『もう直ぐ逢える・・・・もう直ぐ逢える・・・・・・逢えるかな?』

自分の舞い上がる気持ちに追いついた私の心と思考が、私に疑問を投げ掛ける・・・。

「直ぐは無理かも・・・・悠一さん・・・きっとまだ仕事してるよね。」

気付けば独り言を呟いて居た自分。

私は早足で歩きながら、自分の周囲の人達に目をやる。

『大丈夫だった・・・誰にも訊かれてない。』

ちょっとだけ、恥ずかしくなるも、私は直ぐに気を取り直し、この先にある交差点の信号機に取り付けられた住所表示を見上げた。

悠一さんの働いている場所へは、そこを右に曲がればもう直ぐそこ。

交差点の信号で少し待たされて居る間、私は、そこからもう見えている目的地のオフィスビルに視線を移す。

ビルの窓の多くには明かりが灯っていて、まだ多くの人達が働いている様子が窺える。

私はスマートフォンを取り出して、時間を確かめる。

時刻は17時12分。

多くのサラリーマンにとっての定時は過ぎていた。

『学生とは、違うよね・・・。』そう思った私は、それでもクラブ活動をしている人達には、まだ学校に残って何かしらの活動をしているだろうけどと思い直し、独り自分を慰める様に小さな笑顔を作った。

と、同時に道路の向こう側の歩行者用の信号が赤から青に切り替わり、一瞬気後れした私を追い抜く様に周りの人々が一斉に歩き出した。

ハッとした私も、直ぐに歩き出し、反対の歩道からこちらに向かってきた人々と交差する。

悠一さんの働くオフィスビルは、もう目と鼻の先。

『今日は何処で待とうかな・・・・』

初冬の夜の冷えは、ある意味真冬の冷えよりも辛く感じるので、私はここ迄来てから今更の事を考え始めた。

ちょっと前なら、外で立ったまま彼を待って居られたけれど・・・・今日はどうだろう?

悠一さんの仕事が何時に終わるかは、全く分からない。

直ぐに逢えるかも知れないし・・・・数時間待つ事になるかも知れない・・・・。

それなのに、今日、自分が逢いに来る事をメールで伝えもしないで、ここに来た。

『悠一さんは社会人なんだし・・・・学生気分の私の思いをそのまま伝えてばかりじゃ・・・・。』

迷惑じゃないのかな?

そんなふうに思ったから・・・。

メールを送れなかった・・・。


年の差・・・・。


 恋にそんな事は関係ないと思って居た。

関係ないと思ったから悠一さんと付き合った。

『18年・・・・。』

それが私と悠一さんとの人生の時間差・・・・・詰まり歳の差。

付き合おうと思った時、悠一さんはその事をとても気にしていた。

けれど、私はまるで気にしなかった。

いや・・・、気にはして居たのだけれど、それは悠一さんが落ち着いた大人だと言う事を示している様に思って居たので、私はそれを良い意味でしか思ってなかった。


 彼が働くビルの入り口に近づいた私は、一度立ち止まり、何処で悠一さんを待とうかと辺りを見渡した。

『あんまり近くじゃ、まずいよね・・・。』

仕事帰りのサラリーマンを待っていた女子高校生・・・・・端から見たらどう思われてしまうだろう?

私は純粋に悠一さんの彼女って思っている。けれど・・・・、他人が見たら援交とか・・・JKビジネスの何かとかって思わてしまうかも・・・・。

『それで困るのは・・・私じゃない・・・・。』

悠一さんだ。

そう思った私は、少し離れた所で悠一さんを待つ事にしようと思い、とりあえずは、反対車線に渡って向こう側の歩道からビルの入り口を見る事にした。


 道路を挟んだ反対側の歩道から、悠一さんの働くオフィスビルの入り口を見続けてから、20分ぐらいは経っただろうか? 

『会社員の残業なんて・・・きっと毎日の様にあって、そして・・・何時に帰れるかも分からないんだね。』

歩道の横に在る、何かの設備が入っているらしい金属製の大きな箱の様な物に私は脚を休める為に寄り掛かりながら、時間を持て余して居た。

ここに来る前のハイテンションは、長い待ち時間や、冷えていく外気に体温を奪われてた事で、落ち込んでしまいそうになる。

「はぁ~・・・寒い・・・。」

吐いた息が白くなり、緩やかな風に流されて行く・・・。

私はそれを目で追いながら、昨日と比べると、10度以上低くなると予想されていた今日の気象予想を思い出した。

「耐えられるかな・・・私。」

ちょっと心配になる。

でも・・・・「この寒さが・・・・初雪を降らせてくれるんだから・・・・。」


だから・・・・『我慢しなきゃ・・・・・。』



 それから暫くして、私はどれぐらい悠一さんを待っているだろうかと思い、制服の上着のポケットからスマートフォンを取り出して時間を見た。

時刻は17時52分と表示されている・・・。

悠一さんの仕事の定時は17時30分。

既に、定時の就業時間は過ぎていた。


『カイロぐらい入れてくるんだった・・・。』

私は、この寒い今日の夜。

初雪が降る筈の夜を、昨日の夜の気象情報を見た時から、悠一さんと二人並んで街を歩くのを楽しみにしていたのに、ちゃんと準備をして来なかった自分の甘さを後悔する。

真冬でも無いのに、ストッキングで守られている筈の脚は冷え、その寒さが全身に行き渡るのを感じる。

思わずブルっと身体が震えた。

「ホントに寒いよぉ・・・。」

少しでも暖を取ろうと、私は口の前に両手を持っていき擦り合わせ、はぁ~っと白くなる息を吹き掛ける。

『早く悠一さんの手で、この冷たくなった手を包んでもらって、暖めて欲しい・・・・。』

私はその時を想い、キュっと目を閉じる。

でも・・・その時は、後、何分待てばやってくるのだろう?

いっそ、もうここで待つのは諦めて、悠一さんに自分が待っている事を伝えて、どこか近くのコンビニか、カフェや喫茶店にでも入って、そこで待ち合わせしようかな?

そう思った私は、左のポケットの中に手を入れ、そこからスマートフォンを取り出し、メールのアイコンをタッチした。

それから少しの間、暗さに馴れた目には眩しくも思えた画面を見詰めていた・・・。


『でも・・・やっぱり、ビックリさせたいな・・・・悠一さんのこと。』


私は、もう少し・・・・もう少しだけ、悠一さんの仕事が終わるのを待つ事にする。

脚が寒さに震え出したけれど・・・・。

『せっかく、ここ迄待ったんだし・・・。』

そう思い、私は取り出したスマートフォンをポケットの中に戻し、悠一さんの姿を見付けようと視線をビルの出入り口へと戻す。


「あ・・・・・!」


その時。

ビルの出入り口から出て来た、悠一さんの姿を見付けた。

『悠一さんだ!』

私は、本当は彼を呼び止めたかったのだけれど、こんな場所で大声で彼を呼び止めてはいけないと思った。

それで心の中だけで彼の名を呼んだけれど、実際には何もしないで、ただ彼の姿を目で追って居た。

『お仕事、終わったんだ!』

私はそう思い、彼が歩く歩道の反対側の歩道から、彼の歩く方に向かって歩き出す。

『おかしいな・・・帰りの地下鉄駅の入り口とは、反対側に歩いてるけど・・・?』

私は、悠一さんの行動を少し疑問に思った。

『でも・・・帰りにどこか寄るつもりなのかも。』

そう考えた私は、彼が同僚や知り合いに見られないで済みそうな距離まで職場から離れるのを待ってから、近づく事にする。

そうして、1分程の間、道の反対側から彼を尾行する様にして彼の少し後ろを歩いていた私は、もう少しで差し掛かる交差点で彼の歩く方へと渡ろうと思い、その信号のタイミングを気にしていた。

すると、丁度良い感じで、横を走っている車側の信号が黄色に変わった。

私はその交差点で横断歩道を渡り、悠一さんの後ろから近づく事にする。

『良いタイミング!私達の恋を、恋愛の神様が応援してくれてるって事だよね!?』

やっぱり彼は、こちらには渡って来ないみたい。

まだ、この通りを真っ直ぐ行くつもり?

でもこれは、最高のサプライズのチャンス!

横断歩道を渡る私は、街の残響にブーツの足音を溶け込ませる様にしながら、彼の元へと近づく。


そして、その瞬間が訪れる!!



「悠一さーん!」


その声に、彼は少し驚きながら振り返った。




振り返る彼のその視界から、近くを歩く他人の影に、とっさに自分を隠す様にした私も振り返る。


私が悠一さんに声を掛けようとしたこの時、サラサラと上下に舞う黒髪をなびかせ、小走りで駆け寄るスーツ姿の見知らぬ若い女性が、親しげな笑顔をして、彼に声を掛けたのだ。

彼女は、呆気にとられた私の横をすり抜けて、悠一さんの元へと駆け寄った。

「もう・・・歩くの早いですよ・・・待っててって言ったのにぃ!」

私は振り返る事が出来ずに、背中でその声を聞いた。


 いったい、何が起こっているの?


 理解出来ない・・・・。


 さっき迄の寒さとは明らかに違う冷たい空気が私を包み込むのを感じた私は、文字どうり凍り付いた様に動けなくなってしまって居た・・・・。


12月の始め。冬空の下・・・・。

都会の中に在る、とある交差点での事だった。


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