6-1 逆襲、そして
6:そして
6-1:逆襲、そして
タイジは、目の前で優雅にお茶を飲んでいる貴婦人に、ため息をついた。
そして、呆れた声で言った。
「それでは、罪をお認めになるんですね?」
「認めるも何も、そうお調べになられたのなら、私には何も言うことなどありませんもの」
婦人はまるで他人事のように振舞っている。どうにも事の重大さが分かっていないようだ。
「いいですか。あなたは、次期国王の妻になる人を誘拐しようとしたんですよ?」
すると、やっと婦人は表情に強張りをみせて言った。
「何をおっしゃっているのです? あのような小国の娘が、あの方の妃になどなれるはずもありませんわ」
「ええ。もちろん、すぐにではありません。しかし、あと数年後に、嫡子が産まれれば、正式に妃となることでしょう」
婦人は少しの間、何かを考えていたが、顔を上げると言った。
「しかし、今は単なる小娘ですわ。何の問題もありません」
タイジはやれやれと頭を掻いた。
「ああ、留置場に入っていただく前に、あなたとお話されたいという方がいます。・・・どうぞ」
扉を開けたタイジに婦人は
「私、入れてよろしいとは言ってませんわよ。・・・あら、あなたは」
そう言って、扉から入ってきた人物を見た。
「確か・・・シオンの侍女でしたかしら」
「ティサと申します」
ティサは婦人の前に立つと、優雅に礼をした。
婦人はティサに会釈で返すと、言った。
「それで、何のお話?」
「三年前の仮面舞踏会の事です」
ティサのその言葉に婦人は眉を顰めた。
「・・・随分と昔の事を話されるのね」
「そうですね。今までお聞きする機会がなかったものですから」
ティサはにこりと微笑んで続けた。
「あなたはシオン様に協力すると言っておきながら、リストにはアシム様のお名前を消された物をお渡しになりました。また、アシム様にも同様にシオン様のお名前のない物を。何故そのような事を?」
婦人はあさっての方向を向きながら、さもつまらなそうな表情で言った。
「記憶にないわ」
ティサはその様子を気にせず続ける。
「真夜中にアシム様は、父親の急病の知らせを聞き、帰られました。しかし、それは嘘でした。それもあなたが行ったことですね?」
婦人は眉を顰めてティサを見た。
「どこにそんな証拠が?」
「あなたは、あの舞踏会の夜、シオン様がどなたかと消えられた事に、大変怒っていらっしゃいましたよね。私、覚えてますの。あなたがシオン様を探されて、私にも尋ねられましたわ」
「そうだったかしら?」
婦人は目を細めて、手にしている紅茶を眺めた。
「そして、あなたは会場から帰られた方を受付で聞いていましたわ。そして、シオン様の名前もなく、そしてお気づきになった。アシム様の名前もないことに。そして、あなたはアシム様を探すよう屋敷の者に伝えた。・・・もう一度お聞きしますわ。何故そのような事を?」
婦人はお茶を一口飲んだが、その後も口をつぐんだ。
「何もおっしゃられないようでしたら、私の考えをお話致しますわ」
ティサは少し声を強めに言った。
「あなたは許せなかったのですわ。シオン様が地位のあるお方と結ばれることが。常にちやほやされて育ったあなたは、皆がシオン様を褒め称えるのが嫌だった。つまり、あなたはシオン様に嫉妬をしていたのです」
「嫉妬ですって?」
「ええ。シオン様が、あなたよりずっとお美しいから」
「はい?」
「私、姫様に仕えるようになってから、ずっと不思議に思っていましたの。何故、姫様はご自分の美貌を理解されていないのだろうかと。何故、鏡を見ることが好きではないのだろうかと。何故、あまり笑顔をお見せにならないのだろうかと。姫様はおっしゃいましたわ。だって、私、笑うと気持ちが悪いから、と。一体、そのような事を誰に言われたのかと尋ねました。そうしたら、あなたのお名前をおっしゃられましたわ」
そこまで一気にティサは話してから、婦人が口を挟む間を与えず言った。
「私、やっとあなたに言える事が出来ますわ。よぉくお聞きになってください」
すでに婦人は怒りを滲ませた視線で、ティサの事を捉えている。しかし、ティサは少しも怯まずに言った。
「今まで姫様に言われたこと、すべてあなたにお返し致しますわ。あなたの事を綺麗だとおっしゃられる方は、すべて社交辞令ですわ。あなたの城の方々もお付の方々も、皆、あなたが国の王女だから、仕方なくおっしゃられているのです」
「・・・なんですって」
「あなたには、もっとよく見える鏡を使う事をおすすめいたしますわ。そうすれば、ご自分のお顔がどんなに不細工かがお分かりになることでしょう。ああ、笑顔になられても、あなたの場合、一向に美しくなどはなりませんから、お好きなだけ笑って結構ですわ。不細工は笑っても不細工ですもの」
「・・・あなた、ご自分が何をおっしゃったのか分かってらっしゃるの?」
婦人の持つカップがカチャカチャと音を立てた。
「ええ、もちろん。ずっと言いたかった事ですもの。それとも、もう一度初めから繰り返しましょうか?」
ティサは心持ち、顎を上に上げて言った。婦人はカップをテーブルに置いて立ち上がった。
「あなた、覚悟なさることね。私が誰だか分かっていらっしゃらないようだわ」
「分かっていらっしゃらないのは、あなたの方ですわ」
ティサは婦人の怒りを受け止めたまま、はっきりとした口調で言った。
「オランドールからしたら、あなたの国など取るに足らないものですのよ。もう少し各国の情勢を勉強された方がよろしいですわ。ですから、金輪際、うちの大事な姫様にお近づきにならないでください。何かおっしゃいたい事があるのなら、私がお伺い致しますわ。私はあなたのくだらない嘘などには、踊らされませんから」
そして、怒りで口をぱくぱくさせている婦人の前で礼をした。
「・・・それでは、この辺で失礼致しますわ。ごきげんよう、メーサ様」
にっこりと微笑んで退室しようとしたティサに、メーサはカップを投げつけた。
それは、ティサに当たる事無く、タイジの手で叩き落とされた。
「どうしてくれる。こっちの仕事を増やしてくれるなよ」
そうタイジが情けない声を出して、ティサに言った。
ティサがちらりと振り返ると、メーサは尚も投げつける物を探していたところを、別の騎士に取り押さえられていた。
「だって、好きな事を言っていいって言ったのは、あなただわ」
ティサはそう口を尖らせて言った。
ティサが、メーサが怪しいと発言した事で、タイジはメーサの行動を調査した。そして、彼女が盗賊団と接触していたことが判明したのだった。
タイジがそのお礼をすると、そこでティサが
「では、ひとつだけお願いがありますの」
と可愛らしくお願いされた事を聞き入れたタイジだったが、あの時の自分に、そんな事は止めろと伝えにいきたい気持ちになった。
「・・・言い過ぎだろ」
「あら、まだ言い足りないくらいですわ」
少し、女性不信に陥ったタイジであった。
◆ ◆ ◆
数年後の夏のある日、シオンは嘆きの塔で、あの絵本を開いて読んでいた。
絵本を読み終え、最後のページにある、拙い筆で書かれた「アシム」という文字を指でなぞる。
あの後、城の家系図を調べてみた結果、祖先の名にリサ妃が刻まれていた。
リサ妃は嫡子を産んでいたのだ。
シオンは夜空を見上げた。
彼女もまた、愛する人の迎えがあったのだ。
朧月に祈りを捧げたのだろうか。この絵本のように。
扉の開く音がした。
「やはり、ここにいたのか」
シオンは夜空を見上げたまま言った。
「残念ね。今夜は、朧月じゃないわ」
部屋に入ってきたシオンの愛する人もまた、夜空を見上げて言った。
「そうだな。・・・そろそろ戻ろう。冷えるのはよくないのだろう?」
そうして、窓を閉めると、シオンに手を差し伸べた。
シオンはその手を取ると、立ち上がった。
「ここが、君のお気に入りな事は分かっているが、そろそろ階段を登り降りするのは、止めてくれないかな。俺のためにも、この子のためにも」
そういって彼はシオンの大きくなったお腹をさすった。
二人の姿を窓から満月が覗いていた。
(完)
今作風とは、かけ離れた作者のあとがきです。ご注意です。
めいです。お久しぶりです。半年以上ロムりました。
はじめましてのあなた、どうもお初っす。
アビス読んだ人、まったく違うタッチです。
同じの期待してたら、裏切られまくりです。
と、あとがきで書いても意味ナシ。
今作、真面目に書いたつもり。
ハーレークイーンを読みますた。
影響されまくり。
なんだか後半、砂吐きでした。
現実にこんなにチュッチュしてるカッポー見たら、通報します。
カマ持って追いかけます。あ、通報されるの私の方になりました。
最後のメーサを問い詰める役を、シオンにやらせてみたら、なんだかシオンのイメージじゃなかったので、ティサに代わりをやってもらいました。
という訳で(どんな訳?)またいつかどこかでお会いできたら幸いです。
↓嘆きの塔の歌を作詞しました。(なんで?)シオンが仮面の男を想う気持ちです。
あなたには会いたい人がいますか
目を瞑るといつでもよみがえることが出来るけど
会えない人はあなたにはいますか
ささやく声も そっと抱きしめてくれたそのぬくもりも
笑った目元も 濡れた髪も 真剣なまなざしも
すべてが時間とともに 遠く薄れてゆく
思い出という名前には させたくないのに
ただあなたに会いたいだけ なぜそれが出来ない
月に伸ばした 祈りをこめて その手を限りなく空へ
ただ確かにあなたはいた その形が見える
空を眺めた 涙で滲む 今夜も朧月夜
A hazy moon.




