表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

第八話:勘違いの逆輸入と、飯盒とゴブリンの協定

 勇者は引きつった顔のまま、握りしめた剣を地面に落とした。


 硬い岩肌に金属がぶつかる鋭い音が、狭い洞窟の壁に何度も反響する。


 冷え切った空気が、その音だけで切り裂かれたかのようだった。


 「お、おい……何なんだ、あれは」


 魔法使いの青年が、小刻みに震える指先をこちらへ向けた。


 彼の背後では、鎧の隙間から赤い血を滲ませた戦士が、息も絶え絶えに横たわっている。


 浅い呼吸を繰り返すたびに、胸当てが小さく上下した。


 彼らの目には、私がゴブリンの軍勢を背後に従える、何か邪悪な存在に見えているのだろう。


 私のすぐ後ろでは、緑色の肌をした不気味な生き物たちが、一列に並んでいる。


 その口元は白く汚れ、一匹残らず目を血走らせていた。


 手には、ちぎれた鰹節の破片がいくつか付着している。


 彼らの視線は、私の手元にあるアルマイト製の四角い容器に釘付けだった。


 「怪我がひどいですね。動かないでください」


 私は腰のベルトから飯盒を外し、ゆっくりと地面に置いた。


 金属が擦れるかすかな音に反応して、先頭の大きなゴブリンが素早く動く。


 無理もない。


 私の後ろには、おにぎりを口いっぱいに頬張ったゴブリンたちが、目を血走らせて整列しているのだから。



「ギギッ!」


 一匹のゴブリンが素早く動き、私の代わりに蓋を開ける。その従順な態度を見て、勇者たちが一斉に息を呑んだ。


 「ひぃっ……! 魔物を手懐ける高位の召喚術師か!?」


「違いますよ、ただの料理人です」


 私は苦笑しながら、飯盒の中に残ったおにぎりを取り出した。まだ微かに温かい。


 鰹節の香りが、血生臭い空気の漂う空間に広がっていく。


 勇者の鼻裂がぴくりと動いた。


 三日間の絶望と飢えは、彼らの理性を限界まで削っていたはずだ。


「それを……どうするつもりだ。俺たちを呪う薬か?」


「ただのご飯です。お腹が空いているでしょう」


 私は一歩踏み出し、勇者の目の前に白い三角を差し出した。


 勇者は警戒の目を崩さなかったが、おにぎりから漂う出汁の香りに、生唾を飲み込む音が聞こえた。


「だ、騙されんぞ……」


「毒は入っていません。ほら、この子たちもこんなに元気ですし」


 後ろを振り返ると、リーダー格のゴブリンが「早く食え」と言わんばかりに、自分の胸をドンドンと叩いていた。


 その目は、早く次の米を炊けと私を急かしているようでもある。


 勇者は覚悟を決めたように目を閉じ、おにぎりを受け取った。


 そして、泥のついた手でそれを口へと運ぶ。


 「――っ!?」


 一口齧った瞬間、勇者の目が大きく見開かれた。


「何だ、この旨味は……! それに、この中心にある赤いものは……!」


「梅干しです」


 酸っぱさに顔を歪めながらも、勇者は猛烈な勢いで残りを口に押し込み始めた。


 噛むたびに、彼の青白かった顔に赤みが戻っていく。


 「おい、嘘だろ……。傷が、癒えていく……?」


 寝そべっていた戦士が、信じられないといった声を漏らした。


 勇者の体から、微かに白い光が立ち上っている。


 ただの塩分とクエン酸の補給なのだが、極限状態の肉体には、それがどんな回復魔法よりも劇的に作用したらしい。


 「す、凄い……。魔力が満ちてくる……」


 魔法使いも、残されたもう一つのおにぎりを奪い合うようにして食べ始めた。


 ゴブリンたちは、その様子をじっと見つめていた。


 一触即発の空気が、おにぎりという奇妙な媒介によって、急速に弛緩していく。


「さあ、動けるようになったら、ここを出ましょう」


 私は立ち上がり、ゴブリンたちに向き直った。


「みんな、この人たちを出口まで運ぶのを手伝って」


 ゴブリンたちは不満げに「ギギ」と鳴いたが、私が飯盒を叩いて「戻ったらまた作りますから」と言うと、一斉に背筋を伸ばした。


 彼らは負傷した戦士を、まるで高級な荷物を扱うように慎重に担ぎ上げる。


 「本当に……俺たちを助けてくれるのか?」


 勇者がまだ信じられないという風に私を見た。


「もちろんです。お弁当は、みんなで食べるから美味しいんですよ」


 私は微笑み、暗い洞窟の先にある出口の光を目指して歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ