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料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


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第六話:白羽の矢と、ピクニックの終わりの大惨事(前編)

 「えっ……私が、救助要請の助っ人ですか!?」


 冒険者ギルドの受付で、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 目の前では、受付嬢のミリーさんが、今にも泣き出しそうな顔で私の両手を握りしめている。


 「お願い、ルリちゃん! ある高ランクパーティーが『昏き黒岩の洞窟』の奥で食料難と怪我人で動けなくなっちゃったの! でも、今動ける腕利きのパーティーが誰もいなくて……」


 ミリーさんは縋るような目で私を見つめた。


 「でも、あの『黒狼の牙』や『魔導の灯火』を立て続けに(物理的に)解散、じゃなくて解放した、S級専属の天才調理師のルリちゃんなら、きっと何か凄い秘策があると思って!」


 「ごはん……ですか? ごはんなら、私でも作れますけど……」


 「本当!? ありがとう、国のためにその神技で彼らを救ってあげて!」


 (えええ……まあ、お腹が空いて動けないなら、お弁当を届けてあげればいいのかな?)


 事の重大さをミリ単位も理解していない私は、二つ返事で引き受けてしまった。


 急いで宿に戻り、リュックに荷物を詰め込む。


 おじいちゃんの家にあった、旅に欠かせない『お米』。


 それから、強烈な酸味を持つ真っ赤な『梅干し』に、出汁にもなる『鰹節』。


 仕上げに、腰に使い古した『飯盒はんごう』をぶら下げれば、救任特使(自称:お弁当配達員)の準備は完了だ。


 「よしっ! 困っている人がいるんだから、急がなきゃ!」


 出発した一日目は、まさに最高だった。


 「ふんふふ~ん♪ 今日のお昼は何にしようかなー!」


 青い空、白い雲。


 私は鼻歌混じりに、完全にピクニック気分で街道を歩いていた。

 

 外で食べるご飯のことを考えるだけで、足取りも軽い。


 だが――。


 「うう……足が痛い。お腹空いた。じいちゃんの嘘つき……」


 三日目。


 私は泥のように疲れ果て、完全に足を引きずっていた。


 歩いて三日。


 言葉にすれば簡単だが、ひたすら歩き続けるのは地獄だった。


 街道を外れ、目指す『昏き黒岩の洞窟』が見えてくる頃には、私の体力と精神力は完全にゼロ。

 

 愚痴しか出てこない。


 「這うようにして、やっと洞窟に着いた……。早く中に入って、あの人たちを見つけてご飯作って、私は帰って寝るんだ……」


 フラフラになりながら、薄暗い洞窟の一歩を踏み出した、その瞬間だった。


 「ギギッ!?」


「ギャウギャウ!」


 「ひゃいっ!?」


 目の前の暗闇から、緑色の醜悪な小鬼――ゴブリンの群れが、一斉に飛び出してきたのだ。

 

 その数、十匹以上。


 手には錆びた短剣や棍棒を握りしめている。


 (う、嘘でしょ!? 入って速攻で大ピンチ!?)


 「ご、ごめんなさい! 悪気はなかったんです! 命だけは助けてぇぇ!」


 私はその場にリュックを放り出し、頭を抱えてガタガタと震え上がった。


 脳裏に「おじいちゃん、今までありがとう」の文字が灯る。


 しかし。


 キィィ……。


 ぐぅぅぅぅぅ~~……。


 静まり返った洞窟の入り口に、妙に情けない、盛大な『お腹の虫の音』が木霊した。


 「……え?」


 恐る恐る顔を上げると、目の前のゴブリンたちが、自分の貧相なお腹を痛そうにさすりながら、私のリュックをジロジロと睨みつけていた。


 「ギギ……(腹減った……)」


「ガウ、ギギッ!(そこの人間、食い物持ってるな?)」


 彼らの目は、凶暴な捕食者のそれではなく、完全に「飢えに苦しむ哀れな生き物」の目だった。


 (あ……みんなも、お腹が空いて動けないんだ……)


 先ほどまでの恐怖が、一瞬で親近感(とお節介焼きの血)へと変わる。


 私はゴブリンたちに向けて、必死に両手を振った。


 「あのっ! 私、武器は持ってないです! でも、お腹が空いてるなら、美味しいご飯を作れます! だから、ご飯をあげる代わりに、私を逃がしてくれませんか!?」


 「ギギ……?(ご飯……?)」


 ゴブリンたちは顔を見合わせ、半信半疑のまま、手に持った短剣を少しだけ下げた。


 生き残りをかけた、前代未聞の「ゴブリンとの調理交渉」が、ここに幕を開けたのだった。


 (よし、お腹ペコペコの時は、やっぱりあれだよね……!)


 私は飯盒を取り出すと、震える手で火を起こす準備を始めた。


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