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料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


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第四話:過保護なエルフたちと死に水の恐怖

 「ルリ、あまり無理をしてはいけないよ」


 翌朝。エルフの拠点である美しいキャンプ地で、私は朝から完全にパニックに陥っていた。


 「ほら、椅子に座って私の特製ハーブティーを飲みなさい」


 リーダーのセレノさんが、白銀の長い髪を揺らして優しく微笑む。その瞳には、甘く深い慈愛が満ちていた。


 「少し顔色が悪いようだ。昨日の神聖な調合で、魔力を使い果たしてしまったのだろう?」


 「ひゃいっ!? す、すみませんセレノさま!」


 昨晩、お米をドロドロに潰して黒い豆ペーストで包むという、最大の大惨事をやらかしたはずなのに。


 なぜかエルフの面々は、私のことを世界に一つしかない壊れ物のように、過保護に甘やかしてくるのだ。


 「ひゃいっ!? す、すみませんセレノさま! ありがとうございます!」


 翌朝。


 エルフの拠点である美しい木漏れ日のキャンプ地で、私は朝から完全にパニックに陥っていた。


 昨晩、私は大惨事をやらかしたはずだった。


 お米をドロドロに潰し、黒い豆ペーストで包むという大失敗だ。


 なのに、翌朝の彼らの対応は完全におかしかった。


 リーダーのセレノさんを筆頭に、エルフの面々が私をちやほやしてくるのだ。


 まるで、世界に一つしかない壊れ物を扱うかのような、それはそれは過保護な甘やかし方だった。


 「次こそは、今日こそは絶対に失敗しないちゃんとしたお粥を作らなきゃ!」


 そう意気込んで私が大鍋に近づこうとするだけで、美形エルフたちがサッと私の前に立ちはだかって進路を塞いでしまう。


 彼らの動きはあまりにも俊敏で優雅で、私が右に動けば右へ、左に動けば左へ、完璧なフォーメーションでガードされてしまうのだ。


 しかも全員が、まるで至高の聖女を保護するかのような、優しくも真剣な眼差しを私に向けている。


 「いけないよ、ルリ。君のその繊細な指先を、これ以上汚させるわけにはいかない」


 セレノさんは私の手をそっと包み込み、真剣な目で私を見つめた。


 「昨晩の『神の団子』は、君の魂を削るものだったはずだ。これからは、私たちが君の身の回りの世話を全て行う。それが我らの義務だ」


 セレノさんが、白銀の長い髪をさらりと揺らしながら私の手をそっと包み込む。


 その指先は驚くほど滑らかで温かく、瞳には昨日までの冷徹さが嘘のように、甘く、深い慈愛が満ちていた。見つめられているだけで、あまりの美貌に眩暈がしそうだ。


 「そ、そんな! 私は調理師として雇われた身ですから、働かないとギルドからも怒られますし、何よりまたすぐにクビに――」


 「クビ? 冗談を言わないでくれ。君のような至宝を手放すなど、エルフの誇りが許さない」


 セレノさんは美しく眉をひそめ、大真面目な顔で首を振った。


 「むしろ、我らが君に仕えるべきなくらいだ」


 「ええっ!?」


 「ほら、君のために新しい衣服と道具を用意したんだ。受け取ってくれるかい?」


 セレノさんが優しく微笑みながらパチンと指を鳴らすと、後ろに控えていたエルフの美女や美少年たちが、恭しく大きな木箱を運んできた。


 蓋を開けると、そこには見たこともないほど繊細な刺繍が施された、純白の美しい調理服エプロンドレスが入っていた。


 触れるだけでも恐れ多いほどの滑らかな生地で、淡い緑色の魔力の光がかすかに揺らめいている。


 「これは世界樹の繊維で織られた、最高級の調理服だよ」


 セレノさんは純白のドレスを掲げ、優しく微笑んだ。


 「汚れを弾き、炎も通さない。君の身を守る優れものだ」


 「ふぇぇ……っ!?」


 あまりの高級品に怯える私を他所に、セレノさんはさらにピカピカの調理器具を差し出す。


 「そして、これが大地の精霊の加護が宿ったミキサーだ。これなら、君のあの神技のようなお米の破砕も、より完璧に行えるだろう?」


 「ふぇぇぇ……っ!?」


 私はその眩しすぎる高級なプレゼントの数々に、感動するどころか、完全に背筋が凍りついた。


 じいちゃんが昔、お酒を飲みながら言っていた不吉な言葉を思い出したのだ。


『ルリ、人間な、死ぬ前が一番周囲に優しくされるんだ。それを死に水って言うんだぞ。身に合わない贅沢をさせられ始めたら、裏で何か恐ろしい陰謀が動いている終わりだと思え』と。


 (間違いないわ……! これ、クビか処刑にされる前の最後の優しさ(死に水)よ……!)


 私の脳裏に最悪の結末が浮かぶ。


 (昨日のネバネバ泥団子は、実は彼らの歴史的なタブーだったんだわ! 裏ではめちゃくちゃ激怒されているに決まってる!)


 周りのエルフたちの笑顔が、急に恐ろしく見えてきた。


 (今は油断させているだけよ。一気に森の肥やしにするために、泳がされているんだわ……!)


 恐怖のあまり、私の膝はガタガタと震え、涙がボロボロと溢れそうになる。


 しかし、そんな私の絶望の表情を見て、エルフたちはまたしても盛大な勘違いの方向へと突っ走っていった。


 「見ろ、ルリが我らの贈り物に、言葉を失うほど目を潤ませて感動しているぞ……!」


「なんて純粋で健気な子かしら。これほどの神聖な技を持ちながら、決して驕らず、涙を流して感謝するなんて……!」


「ああ、今すぐ抱きしめて守ってあげたい。ルリ、今日の魔物探索は僕たちが百パーセント安全を確保するから、君はのんびり木陰でお昼寝でもしていてね」


 「ち、違います、本当にただ怯えているだけで、お昼寝なんてしたら余計に処刑が――」


 「分かっているよ、ルリ。君のその謙虚な姿勢、本当に愛おしい」


 セレノさんは私の手を握る力をごりごりと強めた。その目は全く笑っていない。


 「私たちが君を不安にさせていたのなら謝ろう」


 「ひ、ひゃい……」


 「さあ、心を落ち着かせるためにも、昨日のあの『モチモチの神の団子』を、また作っていただけないだろうか?」


 セレノさんが、まるで天の女神に祈りを捧げるかのような真剣な眼差しで、私の手を握る力を強める。


 周りのエルフたちも、ごくりと唾を飲み込みながら、期待に満ちたキラキラした目で私をじっと凝視していた。


 (ひぃぃ、やっぱり怒ってる……!)


 私の背中に冷や汗が流れる。


 (遠回しに『同じものを作って許しを請え』って脅されてるんだわ!)


 ここで首を横に振る選択肢なんてない。


 (拒否したら、一瞬で消される……!)


 私は涙を拭い、生き残るために必死の覚悟を決めて調理場へと向かった。


「死に水」の恐怖に怯え、頭を真っ白にしながら、私はまたしても手順をめちゃくちゃに間違えた大惨事の調理を開始してしまうのだった。

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