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料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


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第三話:潰れたお米と黒い甘泥

 「うう、今度こそ本当に、本当にクビになっちゃった……」


 私はシイルさんから貰ったピカピカのプラチナ推薦状を抱きしめ、トボトボと街道を歩いていた。


 私の失敗泥スープのせいで、エリート魔導師様たちが本気の魔法で肉を奪い合うなんて、思い出すだけで恐ろしさに身震いがする。


 ギルドの迅速すぎる手配によって、私が次に送り込まれたのは、森の奥深くを拠点とするエルフだけの精鋭パーティー『碧翠の円卓』だった。


 「……人間か。ガイルやシイルが揃って絶賛するから連れてこさせたが、酷く怯えた小娘だな」


 出迎えてくれたのは、見上げるほどに美しい、白銀の長い髪を持った弓兵の青年――リーダーのセレノさんだった。エルフ特有の冷徹で神秘的な瞳で一瞥され、私はすっかり縮こまってしまう。


 エルフはベジタリアンで、肉や油を極端に嫌い、普段は木の実や薄味のサラダしか口にしないらしい。高潔で美意識の高い彼らの前で、私の壊滅的な料理下手を発見されたら、今度こそ不敬罪で森の肥やしにされてしまう。


 そして、運命の夕食の時間がやってきた。


 私の目の前には、本日三度目となる【絶望的な大惨事】が完成していた。


 「どうしよう……お米を全部ドロドロに潰しちゃった……!」


 みんなのために、エルフの口に合うようなあっさりとした「お粥」を作ろうとしたのだ。


 けれど、じいちゃんに習った怪しい薬草の効能を思い出して、魔力を安定させるという『聖樹の黒甘豆』を一緒に煮込んでいたら、火力を間違えてお米が水分を吸い尽くし、ドロドロの塊になってしまった。


 焦ってスプーンでかき混ぜたら、お米の粒が完全に潰れて、ただの不気味な白いネバネバの塊に変貌してしまったのだ。


 見た目が悪すぎる。怒られる。


 パニックになった私は、失敗を隠すために、一緒に煮込んでいた『聖樹の黒甘豆』をすり潰して作ったドロドロの黒いペーストを丸め、その潰れたお米の塊で包んで丸い球体を作った。


 「あぅ……、見た目は可愛いけど、手順はめちゃくちゃな謎の泥団子になっちゃった……」


 私がその丸い塊を前に半泣きでオロオロしていると、森の見回りを終えたセレノさんたち『碧翠の円卓』の面々が、音もなく戻ってきた。


 「調理師、食事の用意はできたか。……む、これは何だ? 我らエルフの歴史において、このような奇妙な形の食べ物は見たことがない」


 セレノさんが美しい眉をひそめ、皿の上の白い球体を見つめる。


 「ひゃいっ!? ごめんなさい! 普通のお粥を作ろうとしたのに、お米をドロドロに潰しちゃって、見た目が悪いから魔力安定の黒甘豆の泥ペーストで包んで誤魔化したんです! 完全な失敗作です、すぐに捨てますっ!」


 私が涙目で皿を下げようとした瞬間、セレノさんの細く美しい指先が、私の手元から白い球体をすっと奪い取った。


 「待ちなさい。我らエルフは自然の恵みを無駄にすることを嫌う。君がどんなに不器用だろうと、作られたものを捨てるのは高潔ではない。私が毒見をしよう」


 セレノさんは私の静止を無視し、潰れたお米の塊を美しく、躊躇なく口へ運んだ。


 (終わった、高貴なエルフ様を私の失敗団子で怒らせちゃった……!)


 私はギュッと目を瞑り、森から永久追放される未来を覚悟した。


 しかし、数秒経っても、冷たい声は聞こえてこない。

 恐る恐る目を開けると――セレノさんが、食べかけの団子を手にしたまま、エルフ特有の長い耳を真っ赤に染めてガタガタと震えていた。


 「……セ、セレノさま……?」


 「――信じられない。我らエルフの数千年の歴史が、今、覆った……っ!」


 セレノさんの冷徹だった瞳が、見たこともないほど潤み、熱く輝いている。


 「口に入れた瞬間、外側の白い塊が驚くほどモチモチとした至高の食感で吸い付き……その奥から、黒甘豆の優しく、どこまでも深い神秘的な甘みが精神を包み込んでいく。我らエルフが追い求め続けた、究極の『平穏』がここにある! 身体が、魂が、この甘美なモチモチを求めて震えている……!」


 「ええっ!? セレノ様、本当ですか!?」


 他のエルフの美女や美少年たちも驚愕しながら、我先にと皿に手を伸ばした。


 「ああ……っ! ひと口食べただけで、張り詰めていた精神が完全に癒やされていく! 冷えていた魔力細胞が、極上の甘みで優しく満たされていくぞ!」


「外側はモチモチ、中側はしっとり……! なんという神聖な調和だ! 彼女は精霊に愛された『奇跡の聖菓子師』か!?」


 「……ふぇぇ?」


 呆然とする私を置き去りにして、お皿の上の大惨事団子は一瞬で消え失せた。


 セレノさんは息を荒くし、美しい顔をこれでもかと私に近づけて、私の両手をそっと包み込んだ。


 「ルリ……君は、見たこともない手順で我らの精神を極限の平穏へと導く、至宝の調理師だったのだな。あえて手順を崩すことで、素材の魔力を限界まで引き出すとは……。君を侮った私は本当に愚かだった」


 「ち、違います、本当にただお米を潰しちゃっただけで――」


 「謙遜する君も愛おしい。今日から君は我がパーティーの最高の宝だ。我らが全力で君の身の安全と、その可愛い笑顔を保証しよう」


 「ひぇぇぇ……っ!?」


 こうして、私の三度目の「大失敗作」は、孤高のエルフたちの理性とプライドを優しく、過保護に狂わせてしまったのだった。


 クビを覚悟していたはずの私は、なぜか翌日から、エルフたちによる想像を絶する「過保護な甘やかし生活」に巻き込まれていくことになる。

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