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料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


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第二話:泥のようなスープの大惨事

 「ひぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」


 私はガイルさんの最高級推薦状を抱きしめたまま、森の街道を涙目で猛ダッシュしていた。


『バカの集まり』の拠点を、文字通りの異臭テロ容疑で追い出されてから三日。金文字の推薦状という恐ろしい威力を持った紙切れのせいで、私は休む間もなく次の配属先へと放り込まれてしまったのだ。


 今度の雇い主は、帝国エリート魔導師団の選り抜きで構成された最高峰パーティー『白銀の天秤』。


 リーダーのシイルさんは、眼鏡の奥の切れ者そうな瞳をこれでもかと冷たく細め、私の推薦状を胡散臭そうに見つめていた。


 「『国家を揺るがす天才戦術調理師』……? フン、脳筋のガイルが書きそうな大袈裟な戯言だ。我が魔導師団は繊細な魔力のコントロールを至上とする。君のような薄汚れた娘に、我らの高貴な胃袋を満足させられるとは思えんがね」


 (う、薄汚れててすみません……! でも本当にまともな料理は作れないんです!)


 そう叫びたかったけれど、エリート様たちの威圧感に喉が完全にすくんでしまい、私はまたしても真実を言い出せないまま、遠征の夜を迎えてしまった。


 そして、運命の調理時間がやってくる。


 私の目の前には、本日二度目となる【絶望的な大惨事】が鎮座していた。


 「どうしよう……。またやっちゃった……!」


 みんなのために普通の、本当にごく普通のイノシシ肉と野菜のスープを作ろうとしたのだ。


 けれど、魔導師様たちが使う高級な魔導コンロの火力を調節し間違えてしまい、一瞬で大鍋の底を真っ黒に焦げ付かせてしまった。


 おまけに、焦りすぎてお肉の血抜きを完全に忘れたため、鍋の中からは焦げ臭さと生臭さが混ざり合った、この世の終わりみたいな異臭が漂い始めている。


 バレたら今度こそ一発で不敬罪だ。


 パニックになった私は、じいちゃんの形見のリュックをひっくり返した。


(何か、何かこの最悪な臭いを消せる薬草はないの!?)


 掴み取ったのは、じいちゃんが「絶対に素手で触るな」と言っていた、強烈な刺激臭を放つ黄色い根っこと、嗅ぐだけで涙が出る茶色い謎の種。私はそれを石でめちゃくちゃにすり潰し、泥のようになった真っ黒な大鍋の中へ、焦ってありったけブチ込んだ。


 「あぅぅ……、もっと酷いことになっちゃった……」


 完成したのは、黄色みがかった茶色いドロドロの液体。

 見た目は完全に「ただの泥水」で、しかもツンと鋭い刺激臭が鼻を刺し、目を潤ませる。


 私が鍋の横で頭を抱えてガタガタと震えていると、夜間の魔力調査を終えたシイルさんたち『白銀の天秤』の面々が、冷徹な足取りで戻ってきた。


 「おい、調理師。食事の用意は……む? なんだこの、鼻の奥を暴力的に刺激する不快な臭気は。君は一体、何を煮込んでいるんだ?」


 シイルさんが眼鏡を指で押し上げ、激しい嫌悪感を露わにする。


 「ひっ……! ごめんなさい! 火加減を間違えて焦がして、お肉の血抜きも忘れて、臭い消しにじいちゃんの怪しい薬草をドバドバ入れちゃったんです! 見た目も泥みたいだし、絶対に食べられません! すぐに土に埋めて隠しますっ!」


 私が涙目で大鍋を隠そうとした、その時だった。


 シイルさんが「待て」と冷たく制し、魔法で木のスプーンを手元に引き寄せた。


 「ふん、言い訳は見苦しい。どれほど出来損ないの泥スープか、私の鋭敏な味覚で証明して即座に解雇してやろう」


 シイルさんは私の謝罪を無視し、ドロドロの黄色い液体(※ただのスパイスカレー)をすくい、躊躇なく口に運んだ。


 (終わった、エリート魔導師様を毒殺しちゃった……!)


 私はギュッと目を瞑り、国家反逆罪で首をはねられる未来を覚悟した。


 しかし、一秒、二秒経っても、怒声も魔法の詠唱も聞こえてこない。


 恐る恐る目を開けると――シイルさんが、スプーンを口に咥えたまま、眼鏡をガタガタと震わせて硬直していた。


 「……し、シイルさま……?」


 「――お、おい、シイル!? しっかりしろ、毒か!?」


 周りの魔導師たちが慌てて杖を構える。だが、シイルさんはそれを片手で制した。その切れ者の瞳は、見たこともないほどギラギラと血走っている。


 「……静かにしろ。味覚の、概念が、崩壊する……っ!」


 シイルさんは狂ったようにスプーンを動かし始めた。


 「口に入れた瞬間、全身の毛穴が吹き飛ぶような未知の衝撃が駆け巡り……その直後、肉の脂と野菜の甘みが怒涛の濁流となって押し寄せる! 辛い、痛いほどに辛いのに、脳がもっと寄こせと絶叫している! スプーンが、スプーンが止まらん!!」


 「な、なんだと!? あの味にうるさいシイルが!?」


 他の魔導師たちも困惑しながら、我先にと大鍋にスプーンを突っ込んだ。


 「な、何だこれはぁぁ!? ひと口食べただけで、今日使い果たしたはずの魔力回路が、一瞬で限界突破して全回復していくぞ!?」


「脳の細胞が激しく覚醒していく! 詠唱速度がいつもの三倍になるぞ! なんだこの聖なる泥スープは!」


 「……ふぇ?」


 唖然とする私を置き去りにして、大鍋のカレーは一瞬で一滴残らず消え失せた。


 シイルさんは息を荒くし、額に汗を浮かべながら私の両肩を掴んだ。その顔には先ほどの冷徹さは微塵もなく、熱狂的な信者のような目をしている。


 「ルリ……君は、見たこともない魔導調合の比率で、魔導師の脳を強制覚醒させる『伝説の聖熱調理師』だったのか。あえて泥のような外見で我らを試し、口にした瞬間に至高の魔力バフをかけるとは……。君を侮った私の目は節穴だった。安心しろ、君は我が魔導師団が国家の法を捻じ曲げてでも守る。一生、我らの側でその神技を振るってくれ!」


 「ち、違います、本当にただの失敗で――」


 「謙遜は罪だ! さあ、明日からも毎食この『聖熱の泥スープ』を作るんだ!」


 こうして、私の二度目の「大失敗作」は、エリート魔導師たちの理性とプライドを粉々に狂わせてしまったのだった。


 それから数日。


 毎食のように「泥スープ」を要求する『白銀の天秤』だったけれど、やはり致命的な問題が発生した。


 あまりの美味しさと強烈な魔力回復効果のせいで、プライドの高いエリート魔導師たちが「俺の取り分が少ない!」「お前はさっき肉を二個食った!」と、大鍋の前で本気の攻撃魔法を撃ち合う大内紛を起こしてしまったのだ。結果としてキャンプ地は半壊した。


 「ルリ、すまない……っ! 君の料理はあまりにも強大すぎた。我が魔導師団の理性をしても、君の神技の前ではただの餓鬼に成り下がる。これ以上の身内の血の決闘(※ただの食い意地の張り合い)を防ぐため、涙を飲んで君を解放する……!」


 シイルさんは眼鏡を涙で濡らしながら、さらに輝きを増したプラチナの推薦状を私に手渡した。


 「やっぱり私の作った失敗泥スープのせいで、また怒られてクビになっちゃったんだ……」


 私はやっぱり激しく落ち込みながら、荷物をまとめて次のパーティーの元へと旅立つことになった。私の料理下手による大惨事の旅路は、まだまだ始まったばかりだった。

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