第十九話 新しい仲間たち
サン・セバスチャンの冒険者ギルドに、ルリがやって来たのは昼過ぎだった。
商隊と別れて二日。
ルリは早くも次の仕事を探していた。
「こんにちは!」
元気よく扉を開ける。
昼時のギルドは比較的空いていた。
受付にいた女性が顔を上げる。
「こんにちは、ご用は?」
ルリは鞄をごそごそと漁る。
「あった」
所属ギルドで渡された紹介状を取り出し、差し出した。
受付嬢ナンシーは封を開く。
そして紹介文を読み――
「あなた、調理人ね」
「はい!」
ルリは元気よく頷いた。
「はい、料理には自信があります」
ルリは自慢げに答える。
ナンシーは帳簿をパラパラと捲り、一点を指で押さえた。
「いいわ。明日の昼過ぎに来てちょうだい」
「はい」
「丁度その時間に、新人パーティーが来るの」
「新人さんですか?」
ナンシーは苦笑した。
「新人というか……問題児の寄せ集めね」
「問題児?」
「全員駆け出し」
ナンシーは一度言葉を切る。
「それで――全員癖が強い臆病なの」
「へ?」
「先日もスライムに脅されて逃げ帰ったの」
「どうしてですか?」
「私が聞きたい」
ナンシーは本気で疲れた顔をした。
「護衛も探索も、最初はいいけど、魔物に遭遇すると、怯えちゃうの」
「大変ですね」
「ええ。本当に」
ナンシーは帳簿を閉じた。
「でも、みんな悪い子じゃないの」
「はい」
「だから誰も引き取ってくれない」
「あれ?」
「料理担当もいなくて困っていたところなのよ」
ルリは胸を張った。
「それなら大丈夫です!」
「そう?」
「お料理なら任せてください!」
ナンシーは少しだけ不安そうな顔をした。
なぜだろう。
胸を張るルリを見ていると、嫌な予感がした。
翌日、ギルドに着いたルリを待っていたのは、見知らぬ少年だった。
小柄な身体に不釣り合いなほど大きな剣を背負い、腕を組んで立っている。
「遅刻だぜ」
「まだ約束の時間前ですよ?」
ルリは首を傾げた。
「え」
アレンが固まる。
「え?」
後ろの受付からナンシーが顔を出した。
「三十分前よ」
「……」
「……」
「俺は早く来ただけだぜ」
ナンシーが手を叩いた。
「アレン、ノア、レオ、それにユウ。こっちへ来て」
「はい」
「おう」
「フッ……」
「は、はいぃ……」
四人の少年が集まってくる。
ルリは目を瞬いた。
「えっ……」
思わずナンシーを見た。
「彼らですか?」
「ええ」
ナンシーは頷く。
「彼らが、あなたの新しい仲間よ」
「みんな私より、年下」
ルリは驚いた。
「じゃあ順番にアレンから自己紹介して」
ナンシーが言った。
「アレンだ」
小柄な少年が胸を張る。
「剣士だぜ」
「よろしくお願いします」
「ちなみに今日はここへ来る途中で犬に吠えられた」
「それ自己紹介に必要ですか?」
「怖かったんだよ」
「ノアです」
眼鏡の少年が頭を下げた。
「魔法使いです」
「よろしくお願いします」
「ちなみにこの建物、老朽化で倒壊する危険性はありませんか?」
「ありません」
「フッ……」
「名前を」
「レオ」
「以上?」
「以上だ」
「短いですね」
「本名を明かすのは危険だからな」
「明かしてますよね?」
「ゆ、ユウです……」
「神官です……」
「よろしくお願いします」
「あの……」
「はい?」
「怒ってませんか……?」
「怒ってません」
「よかったですぅ……」
「じゃあ最後はあなたね」
ナンシーが言った。
「はい」
ルリはぺこりと頭を下げた。
「ルリです」
「料理人です」
一瞬、沈黙。
アレンが首を傾げる。
「料理人?」
「料理人です」
「冒険者じゃなくて?」
「料理人です」
「料理人なのか」
「料理人です」
ノアが不安そうに手を挙げた。
「えっと……戦えますか?」
「戦えません」
「へ?」
「でもご飯は作れます」
「ああ……」
レオが腕を組む。
「なるほど」
「なるほど?」
「兵站担当か」
「へいたん?」
「食事係だ」
「はい」
ユウが少し嬉しそうな顔をした。
「ご飯作ってくれるんですか?」
「作ります」
「やったぁ……」
各自己紹介が済んだ。
「なら、明日また来て下さい。新しい依頼を提示します」
ナンシーが皆に告げた。
ギルドを出ると、昼下がりの広場は人で賑わっていた。
噴水の縁に腰掛ける。
アレンはオレンジジュース。
ノアはリンゴジュース。
レオは何故か葡萄ジュース。
ユウは両手でコップを持っていた。
ルリはたい焼きを食べている。
吹き抜ける風が心地良かった。
しばらく誰も喋らない。
アレンがオレンジジュースを飲む。
ノアが周囲を警戒するように見回す。
レオは意味もなく噴水の向こう側を睨んでいる。
ユウは小さくストローを吸った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「みなさん仲良しですね」
ルリが言った。
「どこが?」
四人の声が揃った。
レオが質問して来た。
「ルリは何で冒険者になったんだ?」
「冒険者ではありません」
「え?」
「料理人です」
「料理人?」
「料理人です」
また、一同沈黙。
暫くして、ルリが切り出す。
「明日の依頼、何でしょうね」
「危険なのは嫌だな」
アレンが即答した。
「危険じゃない依頼なんてあるの?」
ノアが言う。
「うわぁ……」
ユウの顔が青くなる。
「そ、そんな声出すなよ」
アレンが慌てた。
また沈黙が続く。
噴水の水音だけが聞こえる。
レオが葡萄ジュースを飲んだ。
「フッ……」
「何ですか?」
ノアが聞く。
「恐らく俺たちの実力を試す依頼だろう」
「やめてください」
「もしかすると古代遺跡」
「やめてください」
「あるいは魔王軍の斥候」
「やめてください!」
ユウが半泣きになった。
「まだ何も決まってませんよ?」
ルリはたい焼きを食べながら言った。
「ルリは平気なのか?」
アレンが聞く。
「はい」
「なんで?」
「依頼が危険なら、お弁当を多めに作ります」
四人は黙った。
夕暮れ。
噴水の水音が広場に響く。
行き交う人々の足音。
市の喧騒も、どこか遠く聞こえた。
アレンは空になったコップを見つめている。
ノアは何かを考え込んでいた。
レオは意味もなく腕を組み、ユウは眠そうに目を擦っている。
ルリは最後の一口を食べた。
「ごちそうさまでした」
ルリが言った。
夕暮れの風が広場を吹き抜ける。
行き交う人々の足音。
遠くの市の賑わい。
明日から、新しい旅が始まる。




