↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
料理下手な私が、手違いでS級パーティーの調理師になりました。  作者: La Mistral


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/21

第十八話 珍道中、無事到着

 御者は黙っていた。


 ルリは、ひと仕事終えた達成感に浸り、遠い空を眺めている。


 隊列は女性の村外れまで来ていた。


 見た目には、さほど荒らされた形跡は無かった。


 畑は荒れているが、踏み荒らされた様子はない。


 家々も戸を閉ざしたまま静まり返っている。


 人の気配だけが無かった。


 先頭を進むペドロが馬を止める。


「妙だな」


 誰かが唾を飲み込んだ。


 魔物に襲われた村なら、壊された家や血痕があってもおかしくない。


 だが、そうしたものが見当たらない。


 まるで村人だけが消えたようだった。


 女性は馬車から身を乗り出した。


「お父さん……?」


 返事はない。


 風が吹き抜ける。


 軒先に吊るされた風車が、かたりと音を立てた。


 ペドロは振り返る。


「商隊はここで待機だ」


「隊長?」


「俺たちで様子を見る。無闇に動くな」


 御者たちは頷いた。


 商人たちにとって荷は命だ。


 護衛の真似事をするより、隊列を守る方が重要だった。


 ルリは首を傾げる。


「村に入らないんですか?」


「俺たちは商隊だからな」


 御者が答えた。


「届け物はここまでだ。後は護衛の仕事さ」


 ルリは「なるほど」と頷いた。


 だが、その直後。 


 ぐうぅぅぅ。


 静かな村外れに、妙に大きな音が響いた。


 ルリは御者を見た。


 御者は空を見た。


「……違うぞ」


「まだ何も言ってません」


 ルリは水路脇の草叢に、見つけた。


 声の主が手を振る。


 ルリも手を振る。


 ルリは御者の顔を見る。


 御者は気づいてない。空を眺めている。


 草叢に向かって、ルリが微笑む。


 ゴブリンがお辞儀をして、草叢の中へ消えて行った。


 御者は馬を進めた。


 村の家並みが近づいてくる。


 女性は前を見つめたまま、小さく息を吐いた。


 ルリはまだ、草叢の方を見ていた。


「どうした?」


 御者が尋ねる。


「ううん」


 ルリは首を振る。


「なんでもありません」


 そう言って笑った。


 馬車はゆっくりと村へ向かう。


「先を急ぐぞ」


 ペドロが隊列に号令をかける。


「ハッ、ハッ」


 先頭の御者が、馬を促す。


 女性が隊列に手を振る。


 お辞儀をした。


 ゆっくりと隊列が動き出す。


 ルリは振り返った。


 村外れに立つ女性が、こちらへ手を振っている。


 ルリも大きく手を振り返した。


 やがて距離が開いていく。


 女性は最後に深く頭を下げた。


 商隊は再び街道を進み始める。


 ルリはまた、鼻歌を歌い始めた。


「ルルル、ラララ♪」


「ルリちゃんは歌が好きだね」


 御者が笑った。


「はい」


 ルリも笑う。


 街道には人影が増えていた。


 旅人や荷車が行き交う。


 商隊全体に安堵感が漂っていた。


 目的地は、もう近い。


 城壁が見えて来た。


 街道沿いには露店が立ち並び、人で賑わっている。


 食べ物。


 服。


 陶器。


 花。


 様々な品が並び、旅人たちは足を止めて買い物や食事を楽しんでいた。


 隊列はデコボコした街道を進み、城門へ向かう。


 門前で兵士に停められると、ペドロが通行証と商売鑑札を差し出した。


 兵士は確認を終えると、大きく手を振る。


「通れ」


 商隊は城門を潜った。


 中はさらに賑やかだった。


 露店の数も増え、細い路地には人が溢れている。


 呼び込みの声。


 笑い声。


 荷車の軋む音。


 久しぶりの活気に満ちた町だった。


「うわぁ、凄い」


「わぁ……」


 ルリは露店を見ながら目を輝かせた。


 焼き菓子。


 果物。


 串焼き。


 どれも美味しそうに見える。


「あっ」


 立ち止まる。


「どうした?」


 御者が振り返る。


「お魚の形のお菓子です」


「ほう」


「かわいい」


「買うか?」


「いえ、お仕事中です」


 そう言った直後、


 ルリの視線がお菓子から離れなかった。


 商隊は城に到着した時点で解散。


 ペドロたち護衛は報酬を受け取り、それぞれ次の仕事へ。


 商人たちも本来なら自由行動。


 ルリも同じ。


 もう誰にも雇われていない。


 翌朝。


 商人たちが市の準備をしていると、


 ルリが勝手に現れる。


「おはようございます」


「お、おう?」


「朝ご飯できてます」


「なんで?」


「お世話になったから作っているだけです。報酬を貰うつもりも有りませ」


「ルリちゃん、ありがとうな」


 商人たちは、それぞれ市に店を構えた。


 布地を並べる者。


 陶器を並べる者。


 乾物を売る者。


 朝から威勢の良い声が飛び交う。


 その中の一角では、薬を扱う商人が店を開いていた。


 並べられているのは、魔女マグダレーナが調合した貼り薬と飲み薬。


「マグダレーナ印の薬だ!」


 誰かが声を上げる。


 その瞬間、人々が一斉に集まった。


 肩こりに効く。


 腰痛に効く。


 古傷にも効く。


 旅人から兵士まで評判は高い。


 店主が値札を並べ終える頃には、すでに長い列ができていた。


 そして――


 昼を待たずして完売した。


「毎度ありがとうございます!」


 店主の威勢の良い声が、市場に響く。


 その裏手では――


「みなさん焼けましたよー」


 ルリが七輪の前で声を上げる。


 網の上では干物が香ばしく焼けていた。


「おお、待ってました!」


 商人たちが次々と集まってくる。


「まずは朝飯だな」


「腹が減っては商売にならん」


「干物だ!」


「今日は焦がしてません!」


 ルリが胸を張る。


「そこは威張るところじゃないぞ」


 誰かが笑った。


 午後。


 商人の一人が荷を並べながら口を開いた。


「おい、聞いたか。今朝着いた商隊の話」


「ああ、聞いた聞いた」


 別の商人が頷く。


「パラス峠を越えてきた連中だろ」


「そうそう」


「全員、見るも無惨な顔だったらしいな」


「なんでもキングミツバチの群れに追い回されたとか」


「護衛も御者も関係なく刺されたそうだぜ」


「ありゃ災難だ」


 商人たちは苦笑する。


 さらに別の男が声を潜めた。


「聞いた話じゃ、洞窟で野営したんだと」


「あそこか」


「夜中に誰かが焚き火を大きくしすぎてな」


「蜂の巣を刺激したらしい」


「馬鹿だな」


「その結果、全員顔が倍になったそうだ」


「倍で済めばいいがな」


「今も治療院で寝込んでるらしいぜ」


 一同、顔を見合わせた。


 そして――


 誰からともなく視線がルリへ向く。


 ルリは食事の後片付けを済ませ、食器を洗っていた。


 鼻歌が漏れている。


 呑気だった。


 商人たちはしばらく黙る。


「……俺たち、運が良かったんだな」


「だな」


「本当にな」


 誰も否定しなかった。


 それから暫くして……


 最後の日の陽が陰る。


 旅の縁も終わろうとしていた。


 調理器具を終い、ルリは七輪の火を落とした。


 掌に雫が落ちる。


 一滴、二滴。


 ルリは俯いたまま、鼻水を啜る。


「ルリちゃん、今日はありがとうな」


「……」


「明日も朝飯作りに来るのか?」


「……来ません」


「そうか」


 おじさんは小さく笑った。


「じゃあ、本当に最後だな」


 そしてルリは、


 返事をしない。


 鼻をすすっている。


 おじさんもそれ以上は言わない。


 しばらく二人で市場の片付けを眺める。


 そんな静かな時間があってもいい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。