59話
「昨日の砂嵐は、大丈夫だったか」
レオルドが口を開く。
「はい。部屋にいたので」
風の音は凄かったけれど、不安になるような事はなかった。
「そうか」
「城の皆さんは大変そうでしたけど」
「ああ。砂嵐の後は何かと忙しい」
「皆さん、慣れてるんですね」
「慣れはする」
小さく笑うが、どこか疲れが見える。
「だが、毎回面倒だ」
「やっぱりそうなんですか?」
「掃いても掃いても砂は入る」
机の上の書類に視線を向け、
「壊れた物がないかも見なければならん」
「それは……確かに大変ですね」
「だから無事に過ぎれば皆ほっとする」
そう言うと肩の力を抜いたように溜息を吐いた。
「私もようやく一息つけた」
静かな時間が流れる。
レオルドは水に口を付けると、こちらを見据えて、
「掃除を手伝おう、などとは考えなくていい」
「え?」
思わず目を丸くする。
「……少し思ってました」
「客人に箒は持たせん」
きっぱりと言われる。
「でも、何もしないのも落ち着かなくて」
「今まで通り」
穏やかに言葉を続ける。
「この国を見ていてくれれば、それでいい」
「……はい」
執務室には、また静かな時間が流れ始めた。
窓の外では夕暮れの光が城壁を赤く染めている。
「そういえば」
レオルドがふと思い出したように口を開く。
「食事は口に合っているか」
「はい。どれも美味しいです」
「それなら良かった」
短いやり取りだった。
「以前とは食生活も違うだろうと思っていた」
「違いましたね。でも、意外と慣れました」
「嫌いな物はなかったか?」
「今のところは特に」
少し考えてから首を振る。
「何でも食べられる方なので」
「それは助かる」
王というより、客人を気遣うような口ぶりだった。
「皆さんにも良くしてもらってますし」
「不自由はないか」
「はい」
今度は迷わず答えられた。
最初の頃なら少し考えてしまっていたかもしれない。
今はこの城での暮らしにも少しずつ馴染んでいる。
「それなら何よりだ」
レオルドは静かに頷いた。
少し間が空く。
「今日はもうお仕事は終わりなんですか?」
「いや」
首を横に振る。
「急ぎが済んだだけだ」
「やっぱりあるんですね」
「ああ。まだ少し残っている」
それ以上、聞く事はしなかった。
「お忙しいのにありがとうございます」
「構わん」
レオルドは穏やかに答える。
「話くらいはできる」
最初の頃は何を話せばいいのかも分からなかったのに、今ではこうして他愛のない話をしていることが少し不思議だった。




