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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
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60話

「そういえば、最近の体調はどうだ」


 レオルドが水に口を付けた後、ふとこちらを見る。


「体調、ですか?」


 少し意外な質問だった。


「ああ。こちらへ来てからしばらく経つ。暑さにも少しは慣れただろうか?」


 言われてみれば、最初の頃のように毎日暑さで疲れを感じることはなくなっていた。


「暑さも慣れてきましたし、今はもう大丈夫ですよ」

「それなら良かった」


 小さく頷く。


「無理をしている様子も無さそうだな」

「無理、ですか?」


「以前、能力の検証をした時だったか。力を使うと疲れていただろう」


 その言葉で思い出す。


 部屋の温度を大きく下げようとした時や、水を急激に冷やそうとした時は、身体がひどく重くなっていた。


「あの頃よりは平気です」


 少し考えながら答える。


「最近は使おうと意識しない方が、疲れないと気が付きました」


「そうか」


 安心したような声だった。


「慣れたのかもしれんな」

「そうなんでしょうか」


 自分でも分からない。


「ただ、結局何なのかは分からないままです」


 思わず苦笑する。


「向こうには無かったですし、こちらにも無いんですよね?」


「少なくともこちらでは聞いたことがない」

「やっぱり、そうですよね」


 便利だからこそ目立つ。


 目立てば良くない事を考える人が出てくるかもしれないと言っていた。それなら今のままでいい。


 そう思う一方で、能力について何も分からないままなのも少しだけ落ち着かなかった。


「……でも」


 ふと、最近考えていたことが口をつく。


「能力のことより、この国のことを考えてる時間の方が増えた気がします」


「ほう?」


「市場へ行ったり、皆さんと話したりして」


 気付けば、この国で暮らす人達の姿を思い返すことが多くなっていた。


「一つ、お聞きしてもいいですか」

「構わん」


「この国の人達って、何を楽しみに暮らしているんですか?」


 レオルドは一瞬だけ目を瞬かせると、小さく笑った。


「急な質問だな」

「すみません」


 自分でも少し変だと思う。


「街に行った時も思ったんですけど、皆さん忙しそうだし暮らしも大変なのに楽しそうだな、って」


 生活は厳しいと何度も聞いてきた。

 でも市場で見た人達は、それだけじゃなかった。


「だから少し気になって」


 レオルドは静かに頷く。


「答えは人それぞれだ」


「人それぞれ……ですか」


「あぁ、そうだ。家族のために働く者もいる。商売が上手くいくことを励みにする者もいる。次の収穫を楽しみにしている者もいる」


 穏やかな口調だった。


「子どもの成長を楽しみにしている者もいれば、友人と酒を飲む日を待つ者もいる」


 向こうの世界と、少し似ている。

 そんなことを思った。


「ただ」


 レオルドは窓の外へ目を向ける。


「この国は厳しい土地だ」


 砂漠。暑さ。水不足。砂嵐。

 ここへ来てから見聞きしたことが頭を過ぎる。


「だからこそ、小さな楽しみを大切にする者は多い」


 その言葉は静かだった。


「明日も無事に店を開けること。家族と食卓を囲めること。子どもが元気に走り回ること。それだけで十分だと言う者も少なくない」


 私は黙って耳を傾ける。

 そこまで言って肩を竦めた。


「結局は皆違う」


 確かに、その通りだった。

 向こうの世界でも同じだ。


 仕事が好きな人もいれば、休日だけを楽しみにしている人もいた。


「春乃はどうだ」

「え?」


「こちらへ来てから、何か楽しみは出来たか」


 思わず言葉に詰まる。

 そんなことは考えたこともなかった。


 何もしていないから少しでも役に立ちたい。

 そんなことばかり考えていた気がする。


「……まだ、分かりません」


 ようやくそう答える。


「急いで見つける必要もない」


 穏やかな声だった。


「城の中だけでは見えんものもあるからな」


 その一言で、春乃は自然と窓の外へ目を向ける。

 この国のことを、まだ何も知らない。


 城の外には、まだ知らない暮らしがある。


 それを少し見てみたい。


 そんな気持ちが、胸のどこかで静かに芽生え始めていた。

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