57話
地下保管庫を出ると、ひんやりとした空気が少しずつ遠ざかり、城の廊下に差し込む陽射しが目に入った。
近くの倉庫では何人もの人が出入りしている。
運び出された木箱が並び、その横で中身を確かめる者。
砂を払い落としたり記録札を書き直している者もいた。
昨日の砂嵐の影響だろう。
しばらく歩き続けるが、特に会話は無かった。
気まずい訳ではないが、リゼも何か言うことはない。
室内に戻り、階段を上る途中だった。
「あ、リゼ様」
向こうから来た使用人が足を止める。
「昨日はありがとうございました」
「いえ。あの後は大丈夫でしたか?」
リゼは軽く返事を返した。
「おかげさまで助かりました」
「お役に立てたなら何よりです」
短いやり取りだった。
けれど、慣れたやり取りだった。
「どうかされましたか?」
視線に気付いたのか、リゼがこちらを見る。
「いえ」
少し考える。
「リゼさんって、やっぱり顔が広いですよね」
「そうでしょうか」
本人はあまり自覚が無いらしい。
「皆さん普通に話しかけてきますし」
「長くおりますから」
そう言われてみれば、そんな雰囲気は感じていた。
「どれくらい長いんですか?」
「小さい頃からです」
「じゃあ、レオルドさん達とも昔からなんですね」
「はい」
リゼは頷いた。
「王には昔助けていただきましたので」
さらりと言われた言葉に思わず顔を上げる。
「そうだったんですか」
そういえば、二人が話している時には不思議と遠慮のようなものが少なかった。
王と侍女というよりも、もっと長い時間を共有してきた相手のように見える事も。
「だからずっとここに?」
気付けばそう聞いていた。
リゼは少しだけ考える。
「恩返し、という訳ではありません」
その答えは少し意外だった。
「違うんですか?」
「感謝はありますが、それだけでは長くは続きません」
そう前置きしてから続ける。
「ここが私の居場所でしたので」
その言葉には続きが無かった。
それで十分な理由なのだろうと思った。
でもどこか私には遠い話のように聞こえる。
「……そう、なんですね」
「随分前の話です」
リゼはそう言って前を向く。
それ以上は続かなかった。
だからこちらも無理には聞かない。
しばらく並んで歩く。
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
頷きながら歩き出す。
王に助けられた。
それだけ言って、リゼは前を向いたままだった。
私はその背中を見ながら、少しだけ歩幅を速めた。




