55話
翌日。
砂嵐は夜の内に通り過ぎたらしい。
窓を開けると、乾いた風が部屋へ流れ込んできた。
空はよく晴れていて、昨日はあれほど鳴っていた風の音も、今はほとんど聞こえない。
朝食を終えた後、私はリゼと共に地下保管庫へ向かっていた。
城の中はどこか慌ただしい。
廊下では使用人達が掃除をしているし、中庭では砂を片付ける人影も見えた。
「やっぱり大変なんですね」
窓の外を見ながら呟く。
「今回はまだ軽い方です」
リゼはそう答えた。
「王も朝から各所の確認作業に追われています」
砂嵐の被害確認だろうか。
城だけでなく街の様子も見なければならないはずだ。
そんな話をしている内に地下保管庫へ着く。
扉を開くと、ひんやりとした空気が流れてきた。
「おはようございます」
中では既にフェルド達が動いていた。
机には記録紙が並び、試作箱も幾つか開けられている。
「おはようございます」
フェルドが顔を上げる。
その横では若い職人が布を広げていた。
「何かあったんですか?」
机に近付きながら尋ねる。
「昨日の砂嵐です」
フェルドは一枚の紙を手に取った。
「地下保管庫の試験だけでは分からない事もありますので」
そう言いながら、机の端に置かれた札を示す。
外気下用。見覚えのある文字だった。
「以前から幾つか外でも試していたんです」
職人が布を持ち上げる。
「地下だけじゃ比較になりませんからな」
布の表面には細かな砂が付いていた。
ぱたぱたと払うと、砂粒が机へ落ちる。
「薬草はどうだったんですか?」
「そちらは問題ありません」
別の職人が箱を開いた。
中の薬草は見慣れたままだ。
少なくとも素人目には変わって見えない。
「ですが」
若い職人が布を摘まむ。
「こっちは少し気になりますな」
「砂ですか?」
「ええ」
布を光へ透かした。
「洗えば済みますが、売り場で毎回となると面倒です」
別の職人も頷く。
「交換前提になるかもしれませんな」
「市場で使うなら、その辺も考えなければなりませんね」
フェルドはそう言いながら紙に書き足している。
砂嵐。
昨日は部屋で風の音を聞いていただけだった。
外のいたる所では、ちゃんと影響が残っている。
机の上には試作箱が並んでいる。
薬草を守れた事。
布へ砂が付いた事。
それぞれが記録されていく。
「では別の布も試しましょうか」
フェルドが紙を捲る。
「厚さの違う物もありましたね」
「ありますな」
職人が頷いた。
「前に作った物を持ってきましょう」
そう言って保管棚へ向かっていく。
地下保管庫には再び作業の音が戻った。
紙を捲る音。
木箱の蓋を開ける音。
誰かが次の試験の話をしている声。
市場も今頃は片付けが終わっているのだろうか。
そんな事を思いながら、並んだ試作箱に視線を向けた。




