第54話
翌朝。
目を覚ますと、風の音が聞こえた。
ごう、と低い音がどこか遠くで響いている。
身支度を整え、部屋を出る。
廊下を歩いていると、使用人達が何かを運んでいた。
細長い木板。
丸められた布。
籠に入った道具。
誰も慌ててはいない。
それでも朝から人の出入りは多かった。
「おはようございます」
食堂へ向かう途中、リゼと合流する。
「おはようございます」
軽く頭を下げる。
歩きながら、運ばれていく木板に視線を向けた。
「朝から忙しそうですね」
「そうですね」
リゼも廊下の先を見るが、詳しい説明は無かった。
朝食を終えた後も、城の中はどこか普段と違う。
中庭に出ると、昨日まで影を作っていた日除け布は半分ほど巻き取られていた。
脚立の上では使用人が留め具を外している。
外された布は下で待つ別の使用人に手渡され、そのまま手際よく畳まれていく。
壁際には椅子や机も集められていた。
通路では戸や扉を確認している人もいる。
誰かが指示を飛ばしている訳ではない。
けれど皆がなにかの準備を進めていた。
「何かあるんですか?」
気になって尋ねる。
リゼは中庭の向こうへ視線を向けた。
「今日は風が強いでしょう?」
言われて耳を澄ませる。
確かに朝から風の音は続いていた。
「この風なら昼頃には来そうですね」
「何が来るんですか?」
「砂嵐です」
まるで雨の話でもするような口調だった。
「皆さん慣れているんですね」
「毎年ありますから」
リゼは巻き取られていく日除け布を見る。
「ただ、今回は少し早い気がします」
「そうなんですか?」
「風が強いので」
日除け布は既に半分以上片付けられていた。
城外の高い通路へ出ると、街の屋根が見渡せた。
屋上で布を固定している人影。
戸板を運ぶ人影。
通りを急ぐ荷車。
遠くて声は聞こえない。
「市場もですか?」
「今日は早めに閉める店が多いと思います」
思わず市場の方角へ目を向ける。
昨日歩いた薬草通りを思い出す。
薬草を並べる人。
客と話す店主。
行き交う荷車。
昨日見た通りも今頃は片付けを始めているのだろうか。
ごう、と風が鳴る。
朝よりも音が大きい。
何となく空を見るが雲はない。
けれど遠くの地平線だけが白く霞んでいた。
「そろそろ戻りましょうか」
リゼも同じ方向を見ていた。
「もうですか?」
「砂が入り始めると厄介ですから」
そう言って髪を押さえる。
「目も開けづらくなりますし、服の掃除も大変になります」
ごう、と再び風が吹く。
今度は頬へ細かな粒が当たった。
思わず目を細める。
遠くの霞みは、先程より少しだけ広がっているように見えた。




