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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
試行

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第53話

 地下保管庫では紙を捲る音が響いていた。


 机の上には記録紙が積まれている。


 箱の間には札が立てられ、以前は空いていた場所にも試作箱が並んでいた。


 保管方法ごとに場所も分けられているらしい。


 最初に見た時は、ただ箱が並んでいるようにしか見えなかった。


 今では何を試しているのか分からなくても、色々な事を確かめているのだと伝わってくる。


「こちらは失敗例です」


 保管庫へ入るなり、フェルドが箱を引き寄せた。

 札には赤い印が付いている。


「蓋が完全に閉まっていませんでした」

「それだけで変わるんですか?」

「ええ」


 箱が開かれる。

 中の薬草は少し色が褪せていた。


「こちらと比べると分かりやすいでしょう」


 隣の箱も開かれる。

 見比べると葉の色が微妙に違っていた。

 大きな差ではない。


 けれど同じ日に入れた物だと言われれば納得する程度には違う。


「まだ始まったばかりですが」


 薬草を戻す。


「差は出ています」


 市場へ行く前の自分なら、これだけで十分だと思ったかもしれない。


 実際に結果が出ているなら良い技術だ。

 そんな風に考えていたと思う。


 けれど今日見た市場は違った。


 良い葉だと分かっていても、別の葉を選ぶ客がいた。

 品質の良し悪しだけで選んでいた訳ではなかった。


 レオルド達が言っていた事を思い出す。

 技術に価値がある事と、広まる事は別。


 あの時は話として聞いていた。

 今はその意味が少しだけ実感として分かる気がした。


「当面は継続ですね」


 フェルドは記録紙を整える。


「まだ確認したい事があります」


「長い話になりそうだな」

 レオルドが腕を組む。


「研究とはそういうものです」

「聞いた俺が悪かった」


 即座に返された答えに、レオルドが肩を竦めた。

 どうやらいつものやり取りらしい。


「試験項目も増えました」


 フェルドは記録紙へ視線を落とす。


「比較出来る事も増えています」

「まだ先は長そうですね」

「ええ」


 フェルドは頷いた。やはり焦っている様子はない。

 結果を急ぐより、確かめる事を優先しているようだ。


「何か思い付いたら、また聞かせてください」

「はい」

「では本日はここまでです」


 記録紙を抱え、片付けを始める。

 どうやら今日の作業は終わりらしい。


 私達も地下保管庫を後にした。

 ひんやりとした空気を抜け、階段を上る。


 地上へ出ると昼の光が眩しかった。

 思わず目を細めると、肩に掛けた布が風に揺れた。


「少し風がありますね」


「そうですね」


 隣でリゼも空を見上げる。


「ここ数日は少し強いようです」


 言われてみればそうだったかもしれない。

 乾いた風が頬を撫でていく。


「行きましょうか」

「はい」


 頷いて歩き出す。

 背後で地下保管庫の扉が静かに閉まった。


 乾いた風が、もう一度頬を撫でた。

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