第50話
薬草もまた、暮らしの中にある商品の一つでしかないかもしれない。
そんな事を考えながら通りを歩く。
店先では客と店主が言葉を交わしている。
荷車が通り過ぎる。
別の店では袋が積み上げられ、別の店では木箱が開かれていた。
薬草通りという名前を聞いた時は、もっと特別な場所を想像していた。
けれど実際は違う。
そこにあったのは人の暮らしだった。
「面白いですか?」
不意に声を掛けられる。
顔を上げると、サイードがこちらを見ていた。
「はい」
素直に頷く。
「思っていたのと少し違ったので」
「違った?」
「もっと特別な場所かと思っていました」
通りへ視線を向ける。
「でも、皆さん普通に買い物をしていて」
言いながら少し迷う。
上手く説明出来ない。
「薬草を売っている場所というより」
通りを行き交う人々を見る。
「皆さんの暮らしがある場所なんだな、と」
サイードは、ぱちっ、と瞬きをした。
それから少しだけ考え込む。
「変な事を言いますね」
思わず苦笑した。
「そうかもしれません」
自分でも少しそう思う。
しばらく歩いた後、サイードがぽつりと呟く。
「そういう風に言う人、あまり見た事がないです」
「そうなんですか?」
「ええ」
通りに視線を向ける。
「初めて来る人は珍しくありません」
けれど、と続けた。
「大体は薬草や値段を見るんですよ」
店先を見ていた目がこちらへ向く。
「あなたは少し違う気がします」
「違う?」
「そういえば」
少し首を傾げる。
「あなたはどちらのご出身なんですか?」
一瞬だけ心臓が跳ねた。
隣ではリゼが静かにこちらを見ている。
「どうしてですか?」
出来るだけ自然に聞き返す。
「いえ」
慌てた様子もなく肩を竦める。
「薬草や客を見るというより」
少し言葉を探した。
「この風景を、まるで珍しいものを見るように見ていたんです」
思わず言葉に詰まった。
ダリムにも不思議そうな顔をされた。
理由は違う。
けれど、どちらも私を少し不思議に思ったらしい。
「変な意味じゃないんです」
サイードは苦笑した。
「ただ少し、個人的に気になっただけで」
「……そうですか」
何とかそれだけ返す。
通りでは相変わらず人が行き交っていた。
客が足を止める。
店主が袋を差し出す。
誰かが値段を尋ねる。
この街の人達にとって当たり前の光景なのだろう。
けれど私には、まだ少し新しく見えていた。




