第48話
「少し歩いてみますか」
ダリムが通りの奥へ顎を向ける。
私とリゼは頷き、その後を歩いた。
薬師通りは思っていたより広い。
似たような店が並んでいるようでいて、それぞれ扱う品も少しずつ違っていた。
葉物が多い店。
香料が並ぶ店。
花ばかり扱う店。
客層も違うらしい。
「いつものを頼むよ」
店先で女性が声を掛ける。
「はいよ」
店主は並んだ袋を見比べると、一つを持ち上げた。
「今日はこっちですな」
「じゃあそれをくださいな」
女性は中身を確かめもせず銅貨を渡す。
私は思わず足を止めた。
「あまり見ないんですね」
てっきり香りや色を確認するのかと思った。
「買う物が決まっていたのでしょうな」
ダリムが答える。
女性は袋を受け取り、そのまま人混みの向こうへ消えていった。
「見なくても分かるものなんですね」
思わず呟く。
薬草だから、もっと見比べるものだと思っていた。
その時だった。
「親父」
声のした方を見ると、サイードが店先を指していた。
「呼んでる客が来たぞ」
元いた店先では男がこちらを見て手を振っている。
「ああ」
小さく頷くと、向き直った。
「すみませんな。少々手が離せなくなりました」
「いえ」
リゼが答えると、ダリムは苦笑する。
「サイード」
「なんだ?」
「案内を頼めるか」
「いいけど……親父の客じゃないのか?」
ダリムは私とリゼへ視線を向けた。
「構いませんかな?」
「そちらが構わないのでしたら、私は問題ありません」
リゼは落ち着いた口調で答えた。
「じゃあ頼んだぞ」
そう伝えると、店へ戻っていく。
サイードはその背中を見送ってから、振り返ってくる。
「じゃあ行きましょうか」
そう言って歩き出しかけて、ふと首を傾げる。
「で、何を見たいんです?」
「何を?」
「親父は薬草そのものを見るのが好きなんですけど」
少し笑う。
「客を見るのと、薬草を見るのじゃ結構違うんで」
私は少し考えた。
「むしろお客さんの方、ですかね」
「客?」
「薬草の事はまだよく分からないので」
通りに視線を向ける。
「皆さんが何を見て買っているのか気になります」
「ああ」
サイードは納得したように頷いた。
「それなら分かりやすいですね」
肩に布を掛け直す。
「じゃあ客を見ましょうか」
また少し歩いて、別の店先を見ていると若い男が袋を開き、何度も香りを確かめていた。
今度は随分慎重だ。
隣に並んだ別の袋とも比べている。
「あれは香料用ですね」
サイードが言う。
「香りが大事な人は時間を掛けてますよ」
「全然違いますね」
「使い方が違いますから」
そう言いながら男の方へ視線を向ける。
「逆に値段しか見ない人もいますし」
空になった袋を肩へ掛けたまま肩を竦めた。
「状態が良くても売れない時は売れません」
「厳しいですね」
思わずそう返すと、サイードは少し笑った。
「商売ですから」
値札を見ている者もいる。
袋を開いている者もいる。
店主に何か尋ねている者もいた。
同じ通りなのに、皆やっている事が違う。
通りの向こうでは、別の客が店先で足を止めていた。
同じ薬草なのに、不思議だった。




