第47話
乾いた砂の匂いとは違う草の香りが、朝の風に混じって流れてくる。
通りを一つ曲がると、その匂いはさらに濃くなった。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
店先には木箱や棚が並び、その上には様々な薬草が置かれていた。
細く束ねられた葉。
乾燥させた花。
見た事もない根。
色も形もばらばらだ。
地下保管庫で見ていた薬草と同じはずなのに、並び方が違うだけで印象も変わって見える。
通りには人の姿も多かった。
店主らしい者。
荷を運ぶ者。
足を止めて商品を見ている者。
朝の売り場は思っていたより忙しい。
声を張り上げる者は少ないけれど、通り全体が絶えず動いていた。
「薬草だけじゃないんですね」
私は店先に並んだ小瓶を見る。
「香料もあります」
リゼが答えた。
「調合材料や染料を扱う店もありますので」
よく見ると花や葉だけではない。
粉末の入った袋や、小さな陶器瓶まで並んでいた。
その前では客が袋の口を開き、香りを確かめている。
別の店では店主が葉を指先で崩しながら説明していた。
足を止める者もいれば、そのまま通り過ぎる者もいる。
「おや」
聞き覚えのある声がする。
振り向くと、一軒の店先にダリムが立っていた。
「本当に来られましたか」
木箱を整理していた手を止め、こちらを見る。
「おはようございます」
私が頭を下げると、ダリムも穏やかに頷いた。
「おはようございます」
地下保管庫で会った時と変わらない。
ただ今日は店先に立つ商人の顔に見えた。
「この時間は少し慌ただしくてな」
そう言いながら周囲へ視線を向ける。
実際、店先では何人もの客が足を止めていた。
袋を覗く者。
値を聞く者。
その横を荷車が通り過ぎていく。
「おい、サイード」
ダリムが店の奥へ声を掛ける。
奥から現れたのは一人の青年。
二十代後半くらいだろうか。
薬草袋を抱えたまま、こちらへ軽く会釈する。
「息子です」
「どうも。サイードです」
それだけ言うと、青年は再び棚の方へ向かった。
袋を並べ、客に声を掛ける。
慣れた動きだった。
ダリムもそれを気にする様子はない。
「この時間は皆忙しいですからな」
苦笑しながら言う。
通りの先では別の店にも人が集まっていた。
荷車が止まり、木箱も降ろされている。
まだ見ていない店も多そうだった。




