第46話
翌朝。
部屋の扉を開けると、既にリゼが待っていた。
「おはようございます。春乃様」
「おはようございます」
いつも通りの穏やかな挨拶だった。
ただ今日は少しだけ状況が違う。
「準備はよろしいですか?」
そう言われて思い出したのは、薬師通り。
売り場の見学だ。
「はい」
頷くと、リゼも小さく微笑んだ。
「では参りましょう」
王宮の廊下を歩く。
窓の外では朝の日差しが石壁を照らしていた。
まだ昼ほどではない。
それでも暑さの気配は既にある。
城門を抜けると、乾いた風が頬を撫でた。
思わず肩に巻いた布を押さえる。
以前歩いた時と同じ街並みのはずなのに、今日は少し見える物が違っていた。
荷を運ぶ人。
水袋を抱えた子供。
店先へ木箱を並べる商人。
朝だからだろうか。
やはり人の流れが多い。
「今日は荷車が多いように感じます」
そう口にした時も、一台の荷車が横を通り過ぎていく。
「薬草を運ぶ者もおりますから」
リゼも視線を向ける。
水場の近くでは既に列が出来ていた。
荷車も何台か通り過ぎていく。
その一台に積まれていたのは麻袋だった。
「薬草ですか?」
「そうですね」
リゼが頷く。
「売り場へ運んでいるのでしょう」
前回は暑さや街並みばかり見ていた。
でも今日は違う。
薬草。
荷車。
木箱。
気付けば、そんな物ばかりに目が向いていた。
通りを進むにつれ、人の姿も少しずつ変わっていく。
肩に袋を提げた者。
小さな木箱を抱えた者。
束ねた植物を背負った者。
商人というより、何かを扱う職人に近い印象だった。
「この辺りからです」
リゼが前方を示す。
私は顔を上げた。
建物の並びは大きく変わらない。
石壁。
日除けの布。
風の塔。
けれど空気の匂いが違った。
乾いた砂の匂いに混じって、草の香りが流れてくる。
香辛料とも少し違う。
もっと青い匂いだ。
風が吹く度、その匂いは少しずつ濃くなっていく。
通りの先からは人の声も聞こえていた。
乾いた砂の匂いとは違う草の香りが、朝の風に混じって流れてくる。




