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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
試行

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第45話

 ダリムの姿が階段の向こうへ消えると、地下保管庫には再び作業の音が戻った。


「売り場か」


 年配の職人が腕を組む。


「言われてみりゃ確かに気になりますな」

「客がどう見るか、ですか」


 若い職人も頷く。


「俺らはどうしても作る側ですからな」


 机の上には試験結果の紙と試作箱が並んでいる。


 数日前は問題点ばかりを探していた。

 今は、どこなら使えるかを話している。


 少しずつだが話は前へ進んでいた。


「ただ」


 フェルドが紙を整える。


「ダリム殿の指摘は無視出来ません」


 記録紙へ手を置く。


「薬師の評価は得られました。ですが実際に売る場では、また別の要素が出るでしょう」


「後は使う側ですな」

「商人もおりますし」


 職人達も口々に頷いた。

 しばらく話が続いた後、帰り支度が始まる。


「では失礼します」

「何かあればまた呼んでくだされ」


 工具箱が閉じられ、木箱が抱えられていく。

 地下保管庫は少しずつ静かになった。


 やがて残ったのは、私とリゼ、それからフェルドとレオルドだけだった。


 フェルドは積み上げた記録紙へ視線を落とす。


「先程ダリム殿も言っていたように」


 紙を軽く整えながら続けた。


「売り場での見え方は、ここでは確認出来ません」


「客目線か」

 レオルドが腕を組む。


「ええ」


 フェルドは頷いた。


「こちらが良いと思っている点と、客が価値を感じる点が同じとは限りません」


 私は机の上の薬草を見る。

 同じ物を見ているはずなのに、

 薬師と客では見ている所が違うらしい。


「薬師の人と、お客さんでも見る所が違うんですね」


「そういう事です」


 フェルドが答えた。


「ですので、一度確認する価値はあるかと」


 その言葉に、私はふと先程の話を思い出す。


 朝の売り場。

 薬師通り。


「薬師通り……」


 小さく呟くと、リゼがこちらを見た。


「気になりますか?」


「少しだけ」


 正直に答える。


「皆がそんなに言うので」


 するとリゼは小さく微笑んだ。


「でしたら、私がご一緒しましょうか」


 あまりにも自然な口調だった。


「売り場を見るだけでしたら問題ありません」


 私は思わずレオルドを見る。

 レオルドは何も言わず、まずリゼに視線を向けた。


「任せられるか」


「はい」


 リゼは迷わず頷く。


「薬師通りであれば案内も出来ます」


 それを聞いたレオルドは短く答えた。


「なら構わん」


 思ったよりあっさり許可が出る。


 その事に少し驚いていると、レオルドは机の上の試作箱に視線を向けた。


「見る価値はあるだろう」


 フェルドも異論は無いらしい。


「準備はこちらで進めておきましょう」


 そう言いながら記録紙をまとめていく。


 試験結果。

 補水間隔。

 用途ごとの分類。


 積み上がった紙束の横で薬草袋が静かに置かれていた。


 薬師通り。

 まだ見た事のない売り場。


 どんな場所なのだろう。

 その名前だけが、帰り道になっても頭の片隅に残り続けていた。

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