第44話
ダリムは閉じた薬草袋を机に戻した。
職人達もそれぞれ頷き合っている。
「薬師から見ても悪くなさそうですな」
年配の職人が腕を組む。
「少なくとも葉物には使えそうです」
ダリムも頷いた。
「全部には向きませんがな」
「そこは最初から分かっていた事です」
フェルドが紙を整える。
「使い道が確認出来ただけでも十分でしょう」
机の上には試験結果の紙と試作箱が並んでいる。
数日前は問題点を探していた。
今は、どこなら使えるかを話している。
少しずつだが、前へ進んでいるのは確かだった。
「ただ」
ダリムが薬草袋を軽く持ち上げる。
「売場に並べた時の印象までは、ここでは分かりません」
職人達も顔を上げた。
「印象?」
私が思わず聞く。
「客の目線です」
ダリムは答えた。
「我々は薬草を見る」
袋の中の葉を指先で示す。
「色。香り。状態。そういう所を見る訳です」
今度は木箱へ視線を向けた。
「ですが客は違う」
「どう違うんですかい?」
若い職人が尋ねる。
「まず目に入った物を見る」
ダリムは笑った。
「詳しい知識が無くとも、『何となく良さそうだ』と思う事はありますからな」
私は少しだけ頷く。
確かに自分もそうだ。
薬草の事は分からない。
でも並んでいたら、見た目の良い方を選ぶ気がする。
「そればかりは実際に見なければ分かりません」
ダリムは薬草袋を置いた。
「売り場に並べて初めて分かる事もある」
その言葉にフェルドが小さく考え込む。
「……確かに」
紙へ落としていた視線を上げる。
「こちらが良いと思っている点と、客が見る点は一致しないかもしれません」
「ええ」
ダリムも頷いた。
「だから面白いんですがな」
地下保管庫へ小さな笑いが広がった。
しばし雑談が続いた後、ダリムは腰の革袋を整える。
「長居をしてしまいましたな」
「本日は助かりました」
フェルドが頭を下げる。
「こちらこそ」
ダリムは軽く手を振った。
そして出口へ向かいながら、ふと思い出したように振り返る。
「もし本当に売り場での反応を見るつもりなら」
その場の全員が顔を上げた。
「一度見に来られると早いかもしれませんな」
地下保管庫に短い沈黙が落ちる。
ダリムは特に続きを待つ事もなく、肩を竦めた。
「百聞は一見に如かず、です」
そう言い残し、そのまま階段の方へ消えていく。
残されたのは試作箱と薬草袋、積み重なった記録紙。
私は何となくフェルドを見る。
フェルドは何も言わなかった。
ただ、少しだけ考えるような顔で階段の方へ視線を向けていた。




