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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
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第43話

 薬師はもう一度袋を開き、葉を指先で確かめていた。

 しばらくして、ようやく顔を上げる。


「差は出ていますな」


 保管庫の空気が少しだけ動いた。

 職人達も自然と薬師へ視線を向ける。


「地下側ですか?」


 フェルドが尋ねた。


「ええ」


 薬師は机へ並べられた袋を指差した。


「特に葉物ですな」


 そう言いながら一つの袋を持ち上げる。


「色も残っておりますし、香りも飛び切っておりません」


 今度は別の袋を開く。


「こちらも悪くはありませんが、比べると分かります」


 職人達が順番に覗き込む。


「やはり違いますか」


「毎日見ている者なら分かりますな」


 薬師は頷いた。


「客によっては見ただけで選びます」


 私は改めて薬草を見る。

 まだ自分には大きな違いは分からない。

 けれど、それを仕事にしている人には見えるらしい。


「薬効はどうでしょう」


 フェルドが紙へ視線を落としたまま尋ねる。


「そこは断言出来ません」


 薬師は正直に首を振った。


「ですが、少なくとも売り場での印象は良くなるでしょうな」


「高価な物ほどですか」


 レオルドが腕を組む。


「ええ」


 薬師は迷わず頷いた。


「逆に安価な物は厳しいでしょう」


 木枠箱に手を置く。


「水を使い、布も替える。そうすると手間も掛かる。安い薬草では割に合いません」


 その言葉に職人達も小さく頷いていた。

 ここまで出ていた結論と大きく変わらない。

 ただ、実際に売る側の口から聞くと重みが違った。


「やはり用途は限られますか」


 フェルドが記録を書き足す。


「ですが十分価値はあります」


 薬師はそう続けた。


「葉物や香料は見た目も値になりますので」


 そこで初めて、少し表情を緩めた。


「正直、実際の売り場で見比べればもっと分かりやすいでしょうな」


「そんなに違うものなんですか?」


 気付けば口にしていた。

 薬師は少し意外そうにこちらを見る。


「毎日見ている者には、ですな」


 そう言って薬草袋を指先で示す。


「見慣れぬ方には分かりにくいでしょう」


 そう言って小さく笑った。


「朝一番なら特に違いますな。香りも立ちます」

「隊商が持ち込む品もありますし」

「神殿向けも見られます」


 職人達の言葉も続く。


 私は少しだけ想像する。


 薬師通り。朝の売り場。並ぶ薬草。


 城下を歩いた事はある。

 けれど、薬草を扱う者達が集まる場所はまだ見た事がなかった。


「ああ、失礼」


 薬師がふと思い出したように言った。


「まだ名乗っておりませんでしたな」


 軽く頭を下げる。


「ダリムと申します」


「春乃です」


 慌てて頭を下げ返す。

 するとダリムは少し目を細めた。


「失礼ですが」


 一瞬だけ視線がこちらへ向く。


「城勤めの方ですかな」


 思わず肩が強張る。


「随分日に焼けておられんので」


 何でもないような口調だった。

 けれど、その言葉だけで胸の奥が少しざわつく。


「ダリム殿」


 フェルドが静かに声を挟む。


「ああ、失礼」


 ダリムは苦笑した。


「職業柄、つい見てしまうもので」


 それ以上は聞かなかった。

 話はそのまま薬草へと戻っていく。

 しばらくして、ダリムは袋の口を閉じた。


「今日は良い物を見せていただきました」


 立ち上がりながら、机の上へ視線を巡らせる。


「まだ改良の余地はありますが、試す価値は十分あるでしょう」


 職人達も小さく頷いた。


 私は並べられた試作箱と薬草袋を見る。

 売り場に並んだ時、どれほど違って見えるのだろう。


 その光景は、思っていたより長く頭の片隅に残り続けていた。

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