第42話
翌日の昼過ぎ。
地下保管庫に降りると、フェルド達は集まっていた。
机の上には試作箱と薬草袋が並べられている。
ここ数日見慣れた光景だ。
ただ、一つだけ違う。
見慣れない男性が立っていた。
年齢は五十前後だろうか。
日に焼けた肌に、落ち着いた色の長衣。
腰には小さな革袋が幾つも吊るされている。
「来ましたか」
フェルドがこちらを見る。
「市場で薬師を営んでいる方です」
「どうも」
男は軽く頭を下げた。
堅苦しい様子はない。
けれど、その視線は既に机の上に向いていた。
「話は聞いております」
そう言いながら近付く。
私は試作箱を見るのかと思った。
けれど違った。
薬師は机へ置かれた薬草袋を一つ手に取る。
紐を解き袋を開く。
そして指先で葉を摘まんだ。
軽く潰し鼻に近付ける。
今度は別の袋を開いた。
同じように葉へ触れる。
香りを確かめる。
色を見る。
また別の袋。
また別の袋。
しばらく誰も話さなかった。
地下保管庫には薬草を擦る微かな音だけが続く。
私は何を見ているのかよく分からない。
色だろうか。香りだろうか。
違いがあるようにも見えるし、無いようにも見える。
「こっちは地下保管ですか」
薬師が顔を上げる。
「ええ」
フェルドが頷いた。
「こちらは外気下です」
薬師は二つの袋を並べる。
もう一度葉に触れた。
少し考えるように視線を落とす。
「……ふむ」
小さく漏れた声に、職人達の視線が集まる。
「何か違いますか?」
若い職人が尋ねた。
薬師はすぐには答えない。
代わりに別の葉を摘み、今度は袋ごと見比べ始めた。
「分かりませんか?」
思わず聞くと、薬師は少し笑う。
「毎日見ておりますので」
そう言って葉を指先で転がす。
「ただ、もう少し見せてください」
再び袋に視線を落とす。
私は改めて薬草を見る。
やっぱりよく分からない。
けれど薬師にとっては違うらしい。
職人達も黙って様子を見守っていた。
「葉物は差が出やすいですからな」
薬師がようやく口を開く。
「ですが、それがどの程度かは別の話です」
レオルドが腕を組む。
フェルドは何も言わず紙へ記録を書き足していた。
薬師は今度、初めて木枠箱へ手を伸ばす。
蓋を開ける。
布へ触れる。
札を見る。
そして再び薬草袋へ視線を戻した。
「なるほど」
今度は箱ではなく、薬草の方を見ながら呟く。
地下保管庫の空気は静かだった。通気路から流れ込んだ風が吊るされた薬草束を小さく揺らす。
薬師はもう一度袋を開き、葉を指先で確かめていた。




