第41話
地下保管庫では少しずつ片付けが始まっていた。
広げられていた薬草袋がまとめられ、確認の終わった箱には札が括り直されていく。
職人達も工具を片付け始めていた。
「結局、地下保管と近距離運用向けですな」
年配の職人が木箱を持ち上げながら言う。
「今のところは」
フェルドも紙を整えながら頷いた。
机の上には何枚もの記録紙が積み上がっている。
試験結果。
使用水量。
補水間隔。
数日前には何も無かったのに、気付けばかなりの量になっていた。
「市場向けなら十分可能性ありますが」
若い職人が続ける。
「使う側がどう見るかですな」
「そこですね」
フェルドが紙束の一枚を抜き出した。
「実際の利用者の意見は確認しておきたい」
箱を使う人。
薬草を扱う人。
ここ数日ずっと箱や布を見ていたせいか、改めて言われると少し不思議な感じがする。
「市場の薬師ですか?」
リゼが尋ねる。
「ええ」
フェルドは頷いた。
「葉薬草の管理に慣れている者が望ましいでしょう」
「神殿付きではなく?」
「神殿側は後でも構いません」
紙へ何かを書き足しながら続ける。
「まずは普段から売買している者の意見を聞きたい」
職人達も異論は無いらしい。
木箱を運びながら小さく頷いている。
「毎日触る者の方が分かりますからな」
「結局は現場ですわ」
その時、若い職人がふと木枠箱へ視線を落とした。
「保つかどうかだけじゃありませんし」
「と、言いますと?」
フェルドが顔を上げる。
「薬師が売るなら、どのくらい値が変わるかです」
箱を軽く叩く。
「半日保つとして、それで買う人が増えるのか」
「ああ……」
私は思わず声を漏らした。
確かにそうだ。保てるようになったとしても、
利益にならなければ続かない。
「扱う手間に見合うか、ですね」
リゼも静かに頷く。
「売値が上がるなら導入するでしょうし、変わらないなら従来のままでしょう」
「保存だけではなく商売の話になるな」
レオルドが腕を組む。
「だからこそ市場側の意見が必要です」
フェルドはそう言って紙へ線を引いた。
私は並べられた試作箱を見る。
ここまでずっと保てるかどうかを考えていた。
市場で売る、まで考えなければならないらしい。
誰が買うのか。
どれだけ価値が変わるのか。
箱一つの話だったはずなのに、
気が付けば色んな人の生活に繋がっていた。
「では、私の方で話を通しておきます」
フェルドが記録紙を揃えながら言った。
「市場側の都合もありますので」
「任せた」
レオルドが短く返す。
地下保管庫の中は、先程より随分静かになっていた。
残っているのは積み上げられた箱と記録紙、それから吊るされた薬草束くらいだ。
通気路から流れ込んだ風が、机の端へ置かれた札を小さく揺らす。
フェルドの紙には、新しく一行だけ書き加えられていた。
――薬師への意見確認。




