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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
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第40話

 地下保管庫では相変わらず札の書き換えが続いていた。


 試験結果。

 補水間隔。

 使用箱。


 机の上には紙が増え続けている。


「市場向けなら使えそうですな」


 若い職人が木枠箱を見ながら言った。


「全部ではありませんが」


「葉物中心ですね」


 フェルドが頷く。


「香料や一部薬草も候補になります」


 その言葉に、年配の職人が小さく顎を撫でた。


「薬師連中は興味持つかもしれませんな」


「薬師?」

 私は思わず聞き返した。


 職人は頷く。

「薬草扱う者達ですわ。市場にも店があります」

「乾き過ぎたり傷んだりすると価値が落ちますからな」


 別の職人も続けた。

「特に葉物は違いが出やすい」


 私は少し驚く。


 薬草を採る人。

 運ぶ人。

 売る人。


 何となく一括りに考えていたけれど、当然そんな単純な話じゃないらしい。


「香料商もでしょうね」


 リゼが机へ薬草袋を並べながら言う。


「神殿向けは品質を見られますので」


「確かに」


 フェルドも紙に何かを書き足した。


「少量高価な品なら採算も取りやすい」


「市場の西側に薬師通りがありますが」


 若い職人が思い出したように言う。


「朝方には薬草の匂いでいっぱいになりますな」


「あそこは神殿関係も出入りしますね」


 リゼが頷く。


「香料商も何軒かあります」


 私は少しだけその光景を想像する。

 最近は城の中ばかりだったから忘れかけていた。


 この国には市場があって、店があって。

 それを生業にしている人達がいる。


 机の上の箱も、

 結局はそういう場所へ届かなければ意味がない。


「使い勝手も見ないといけませんしな」


 年配の職人が木箱の蓋を開閉する。


「毎日水足すのを嫌がるかもしれん」

「箱が重いと言われる可能性もあります」

「管理が面倒なら使われませんね」


 次々と話が続いていく。


 効果がある事と使われる事は違う。

 私は何となく机の上の試作箱を見る。


 ここ数日、皆で試して、失敗して、少しずつ形にしてきた。


 でも、それだけでは足りないらしい。

 頑張って作った物が、そのまま使われる訳じゃない。


 むしろ使う人の方が大事なのかもしれない。


「春乃様?」


 リゼの声で顔を上げる。


「あ、すみません」


「何か気になる事でも?」


 少し考えてから答える。


「作るより、使ってもらう方が難しいんですね」


 一瞬だけ職人達が顔を見合わせた。

 そして年配の職人が笑う。


「その通りですな」

「良い物と売れる物は別ですわ」


 地下保管庫に小さな笑いが広がった。

 フェルドも珍しく否定せず、そのまま紙に線を引いている。


「まずは薬師と香料商でしょうか」


「市場側の意見は聞いておくべきだな」

 レオルドが頷いた。


 机の上には試作箱。

 その周囲には札と記録紙。


 フェルドの紙には、新しく「薬師」「香料商」と書き加えられていた。

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