第39話
地下保管庫の机には、用途ごとに分けられた札が増え始めていた。
葉薬草。
乾燥花。
香料系。
その横には、水量や補水間隔まで細かく書き込まれている。
「地下保管だけなら、そこまで難しくはありません」
フェルドが紙を見ながら言う。
「問題は運び出した後ですね」
職人の一人が木枠箱を閉じる。
「市場まで持って行く間にも乾きますからな」
「朝方に出すとして、昼前には入れ替え必要か」
レオルドが札を見下ろした。
「長く置き過ぎれば意味が薄れる」
私は並べられた箱を見る。
地下では多少保っていた布も、外へ出せばまた乾き始める。
結局、
ずっと水を足し続ける訳にもいかない。
「補水役を付けるんですか?」
「可能なら、ですが」
フェルドが小さく息を吐く。
「人手にも限界があります」
その横で、年配の職人が布を指先で摘まんだ。
「交換も必要ですな」
「傷んでます?」
「砂噛んどります」
布表面には細かな擦れ跡が増え始めていた。
「外運用するなら消耗は避けられませんね」
リゼも布へ触れながら言う。
「洗浄だけでも水を使います」
地下保管庫の中には、静かな作業音が続いていた。
札を書き換える音。
布を張り直す音。
木箱を動かす音。
試作品を作って終わりじゃない。
使い続ければ、維持する手間が増えていく。
「全部へ回すのは厳しいな」
レオルドが腕を組む。
「ええ」
フェルドも頷いた。
「市場向けの高価値品限定なら現実的ですが、一般流通まで広げるには負担が大き過ぎます」
「街中だけでも変われば十分でしょう」
若い職人が木枠箱を持ち上げる。
「今まで半日で駄目になってた物が、昼まで保つだけでも違う」
その言葉に、私は小さく視線を上げた。
半日。
またその単位だ。
前の世界なら、短いとしか思わなかった時間。
でも、ここでは売れる量や運べる距離を変える時間。
「隊商向きではないですな」
年配の職人が苦笑する。
「水運びながら水使うようなもんです」
周囲から小さく笑いが漏れた。
フェルドも紙に線を引きながら、小さく頷く。
「長距離は従来通り乾燥中心。
こちらは都市近郊運用向けでしょうね」
用途が少しずつ整理されていく。
万能ではない。
全部も変えられない。
それでも地下保管庫の机には、実際に使えそうな条件だけが少しずつ残り始めていた。
通気路から流れ込む風が、積み上げられた札の端を静かに揺らす。




