第38話
地下保管庫の机には開かれた薬草袋が並んでいた。
外気下。
地下保管。
木枠型。
蝋布型。
札を見なくても何となく違いが分かり始めている。
「葉物は差が出ますな」
年配の職人が、細い薬草束を指先で摘まむ。
「香りが飛びやすい」
「乾き過ぎると薬効も落ちます」
リゼが頷いた。
机に並べられた葉薬草は、確かに地下側の方が色も残って見える。
「逆にこっちは問題ありませんな」
別の職人が、太い根のような薬草を持ち上げる。
「多少熱入っても保つ」
「通常袋でも十分か」
レオルドが腕を組む。
フェルドは紙に薬草名を書き分け始めていた。
「向き不向きがありますね」
「全部へ同じ運用は無理そうですか?」
私が尋ねるとフェルドは小さく頷いた。
「保存対象によって必要条件が違います」
彼は葉薬草へ視線を向ける。
「こちらは熱と乾燥に弱い。ですが通気を止め過ぎると傷む」
今度は根薬草へ紙先を移した。
「逆にこちらは多少雑でも保つ」
「なら高価な物だけ絞った方が良さそうですな」
職人が静かに言う。
「全てに使うには水も手間も掛かり過ぎる」
地下保管庫の空気は地上よりましとはいえ、布に触れれば少しずつ乾き始めているのが分かった。
水桶だって無限じゃない。
「花系は厳しいかもしれませんね」
リゼが小さく眉を寄せる。
机へ置かれた薄紫色の乾燥花は、既に少し香りが飛び始めていた。
「湿気でも駄目になりますので」
「扱い難いな」
レオルドが低く言う。
「ですが王都向け需要はあります」
フェルドが紙をめくった。
「神殿香料や調合用ですね」
私は机の上を見る。
薬草といっても全部同じじゃない。
向いている物。
向いていない物。
保ちやすい物。
すぐ駄目になる物。
今更ながら、そんな当たり前の事に気付き始めていた。
「近距離限定なら葉物系は使えそうですな」
若い職人が木枠箱を持ち上げる。
「市場搬入くらいなら」
「地下保管から朝方に出せば、昼前には届きますね」
リゼも続けた。
「長距離隊商向きではありませんが」
全部は変わらない。
ただ、今までより少しだけ保てる物は出始めている。
フェルドの紙には、用途ごとの条件が細かく書き足されていった。
葉薬草。
花系。
根薬草。
地下保管向き。
短距離向き。
通常保管可。
その横で、職人が木枠箱の布を張り直している。
「水、足しますか?」
「いや、地下ならまだ持つでしょう」
布に触れた職人が首を振った。
「外より随分遅い」
地下通気路から流れる風が、吊るされた薬草束を小さく揺らす。
乾いた草の匂いが、静かな保管庫の中へゆっくり広がっていた。




