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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
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第37話

 地下保管庫へ降りる階段は、外気とはまるで空気が違っていた。


 石段を下りる度に、肌に張り付いていた熱が少しずつ薄れていく。


「……涼しい」


 思わずそう漏らすと、前を歩いていたリゼが小さく振り返った。


「地上よりは、ですが」


 確かに暑さ自体は残っている。

 けれど外みたいな熱気の重さがない。

 息が少し楽だった。


 地下保管庫は、石造りの広い空間だった。


 壁際には木箱や麻袋が並び、乾燥用らしい薬草束まで吊るされている。


 奥の方では、冷気という程ではない空気が静かに留まっていた。


「通気路がありますので」


 フェルドが壁上部へ視線を向ける。

 細長い隙間が幾つも掘られていた。


「熱気を多少逃がしています」


「完全には冷えんがな」


 後ろから職人が続ける。


「地上よりは随分ましですわ」


 外気下用の箱が机に並べ直されていく。

 職人達は慣れた様子で札を確認し、それぞれの条件ごとに分け始めていた。


「……布、まだ湿ってる」


 私は思わず木箱に近付く。


 城壁側ではかなり乾いていた布が、地下側はまだ少し湿り気を残していた。


「蒸発速度が落ちていますね」


 フェルドが紙に記録を書き込む。


「風が弱い分、水の持ちは良い」


「地下保管との併用前提なら悪くないかもしれません」


 リゼも布へ触れながら頷いた。


 年配の職人が木枠箱を開ける。

 薬草袋が取り出され、順番に机に並べられていった。


「こっちは香りもまだ残っとる」


「乾き過ぎてもおらんな」


 私は横からそっと袋に顔を近付ける。


「あ……」


 少しだけ分かった気がした。

 外気下側より、青っぽい匂いが残っている。


「違いますか?」


 リゼがこちらを見る。


「えっと……こっちの方が、草の匂い強い気がします」


「十分違いが出ていますね」


 フェルドが静かに頷いた。


「地下側は熱変化が緩やかですから」


 その横では、蝋布箱も開かれていた。


「……こっちは熱残っとるな」


 職人が眉を寄せる。


「地下でも抜け切らんか」


「通気不足ですね」


 フェルドが箱内部に触れた。


「湿度保持自体は悪くありません。ですが熱が逃げにくい」


「密閉寄りの限界か」


 レオルドが低く呟く。


 問題点は、地下に移しても消えなかった。

 ただ、外よりましなのも確かだった。


「街中保管なら使い道はありそうですな」


 若い職人が木枠箱を見ながら言う。


「長距離じゃなく、近場運搬なら」


「地下保管から短距離搬出か」


 レオルドが腕を組む。


「市場向けなら可能性はあるな」


 私は並べられた箱を見る。


 劇的に冷える訳じゃない。

 長距離輸送もまだ厳しい。


 それでも、条件を選べば使える場所はありそうだった。


 地下通気路から風が流れ込み、机に置かれた札の端を静かに揺らした。

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