第36話
最初の確認は、一刻ほど経ってから行われた。
城壁沿いの日陰に並べられた箱の前には、再び人が集まっている。
布に触れた職人が、すぐ眉を寄せた。
「……やはり乾きますな」
指先で軽く押された布は、もうほとんど湿り気を残していなかった。
「少水量は特に早いですね」
フェルドが紙に記録を書き込む。
「風で飛ばされています」
「壁際でもこれか」
レオルドが箱を見下ろす。
私は思わず布に触れる。
少し前まで濡れていたはずなのに、
もう乾き始めていた。
「思ったより早い……」
「暑季ですからね」
リゼが静かに言う。
「今日はまだ風がありますので、余計に乾きやすいかと」
その横では、別の職人が木枠箱を開けていた。
薬草袋が取り出される。
「……こっちはまだ香り残っとるな」
「通常袋よりは保っていますね」
フェルドが近付く。
私も横から覗き込んだ。
正直、違いはまだよく分からない。
でも職人達は袋を開けた瞬間、すぐ反応していた。
「湿気が籠もり過ぎてもおらん」
「風抜けが丁度良いんでしょうな」
「ただ長距離は無理だ」
レオルドが木枠を持ち上げる。
「揺れで隙間が広がる」
「街道だと砂も入ります」
リゼも頷いた。
良い部分はある。でも問題も残る。
机上ではなく、
実際に置いてみるとすぐ分かる事ばかりだった。
「蝋布側はどうです?」
フェルドが別の箱へ視線を向ける。
年配の職人が蓋を開け、小さく唸った。
「……熱持っとるな」
私は思わずそちらを見る。
箱の内側に触れた職人が、すぐ手を離した。
「布自体が熱を抱え込んどる」
「通気が落ちていますからね」
フェルドが静かに言う。
「水分は多少残りますが、その分熱も逃がしにくい」
「密閉寄りにすると今度は熱が籠もるか」
レオルドが腕を組んだ。
次々と問題が出る。
けれど、完全に駄目という訳でもないらしかった。
「地下側はまだ確認早いですか?」
リゼが尋ねる。
「いえ、一度見ましょう」
フェルドが紙を閉じる。
その時、若い職人がふと周囲を見回した。
「しかし今日はまだ作業しやすい方ですな」
「風のお陰か?」
「熱気が籠もり切っとらんの」
そんな会話が自然に交わされる。
私は額の汗を拭った。
暑いものは普通に暑い。
日本の夏より乾いている分、
まだ息苦しさは少ない気もする。
でも、快適とは程遠かった。
「春乃様、大丈夫ですか?」
リゼがこちらを見る。
「あ、はい。ちょっと暑いだけで」
「顔色は悪くありませんね」
「それはまあ……」
自分でも不思議だった。
暑さは感じるし、汗もかく。
なのに、周囲の人達ほど消耗している感覚がない。
水桶を運んでいた職人達の方が、
余程息を上げていた。
働いている差の違いなのか、申し訳なくなる。
「地下側、確認します」
フェルドが箱を持ち上げる。
職人達も次々と動き出した。
城壁沿いの日陰には、
乾き始めた布と、並べられた試作箱だけが残される。
風が吹く度、札が小さく揺れていた。




