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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
試行

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第35話

 城壁側へ出た瞬間、熱気が肌に張り付いた。


「うわ……」


 思わず声が漏れる。


 執務室の中も暑かった。

 けれど外は別だった。


 白い石壁が陽射しを照り返し、吹き抜ける風まで熱を含んでいる。


「昼を越えた後は特に熱が残ります」


 水桶を持ったリゼが言う。


「壁際は夜まで空気が重い事もありますので」


 城壁沿いの日陰には、既に簡易の台が並べられていた。


 木箱。

 通常袋。

 試作容器。


 札には設置場所や水量が細かく書かれている。


「外気下通常保管」

「外気下・少水量」

「外気下・蝋布使用」


「こちら、風通りますな」


 年配の職人が布を押さえながら周囲を見回した。


「だが壁熱が近い」

「もう少し離しますか?」


 若い職人が木箱を抱え直す。

 フェルドは箱の位置を見比べながら、小さく頷いた。


「離し過ぎると今度は砂が入ります。中間で試しましょう」


 木箱が並べ替えられていく。

 その横で、リゼが布に少量ずつ水を含ませていた。

 濡れた部分はすぐ色を変える。

 けれど乾くのも早い。


「……もう乾いてません?」

「風が強いので」


 リゼが布に触れながら答える。

「水量が少ないと、先に布だけ乾きます」


「増やせば保ちますが、水を使い過ぎる」

 フェルドが紙へ何かを書き足した。


 職人の一人が、木枠型の箱を軽く揺する。

 内側で薬草袋が擦れる音がした。


「揺れると隙間が広がりますな」


「布固定を増やしますか?」


「増やすと今度は出し入れが面倒なんな」


 次々と問題が出てくる。

 けれど誰も手を止めなかった。


 布を張り直し、

 紐を結び直し、

 箱を持ち上げて位置を変える。


 その間にも、熱風が乾いた布を揺らし続けていた。


「春乃様、こちらお願いします」


 呼ばれて振り向くと、若い職人が木箱を押さえている。


「蓋、少し持っていていただけますか」

「あ、はい」


 私は慌てて箱に手を添えた。

 木材は思った以上に熱を持っている。


「昼間は木自体が熱を吸いますからな」


 職人が苦笑する。


「荷も箱も、全部熱くなる」


 そう言いながら、内側の布位置を細かく調整していく。


 その横では、レオルドが湿布構造の箱を持ち上げる。


「やはり重いか」


「駱駝に積むなら数を減らす必要がありますな」

「近距離専用ならありかもしれませんが」


 話しながら、職人達は実際に箱を持ち上げ、重さを確かめている。


 会議ではなく、現場で決めている空気だった。


 私は箱へ触れたまま、城壁の向こうを見る。

 遠くの景色が熱で揺れていた。


 この暑さの中を、荷を積んで移動する。


 薬草だけじゃない。

 水も、食べ物も、全部。


「……大変ですね」


 気付けばそう零れていた。

 すると年配の職人が、箱を閉じながら小さく笑う。


「だから皆、少しでも保たせよう足掻いとるんですわ」


 紐が締められる。

 札が括られる。

 並べ終えられた箱は、城壁沿いの日陰へ順番に置かれていった。


 フェルドは配置を書き込んだ紙を確認し、最後に外気下用の札へ視線を落とす。


「……これで比較は始められそうですね」


 その時、乾いた風が吹き抜け、布の端が小さく翻った。

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