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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい
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第4話

 その夜、私はほとんど眠れなかった。


 理由は単純。


 寒い。


「……無理ぃ……」


 毛布を頭まで被りながら呻く。


 いや、毛布自体は悪くない。


 むしろ厚手だし、この世界では高級品なのかもしれない。


 でも寒いものは寒い。


 石造りの部屋って、こんなに冷えるの?


 隙間風が普通に侵入してくるんだけど。


 窓際とか冷気の暴力なんだけど。


「文明ぃ……」


 エアコン。


 電気毛布。


 湯たんぽ。


 こたつ。


 人類はなぜそれらを発明したのか、今なら心の底から理解できる。


 睡眠を諦め、私はベッドから起き上がった。


 部屋の中は暗い。


 蝋燭の火だけが揺れている。


 ……スマホのライト、恋しいな。


 充電切れたら終わるから使いたくないけど。


「……ん?」


 その時、窓の外に小さな明かりが見えた。


 揺れている。


 誰かいるのだろうか。


 なんとなく気になって、私は窓辺へ近づいた。


 外は中庭だった。


 白い息を吐きながら、数人の人影が動いている。


 使用人、だろうか。


 みんな厚着をして、薪を運んでいた。


 夜中なのに。


「……大変そう」


 ぼそりと呟く。


 すると。


 ひゅう、と冷たい風が吹き込んだ。


「さむっ!?」


 反射的に身を縮める。


「…もうやだ。暖かい部屋がほしぃ」


 その言葉と同時に。


 ふわり、と部屋の空気が暖かくなった。


「……あ」


 暖房。


 昨日と同じだ。


 私の周囲だけ、ほんのり暖かい。


「……もしかして」


 私は恐る恐る、ほんのり光る両手を見つめた。


「エアコン……」


 ぶわっ、と暖気が広がった。


「うわっ!?」


 慌てて口を押さえる。


 今度は前より強い。


 まるで本当に暖房をつけた部屋みたいだった。


 冷えていた空気が、一気に和らぐ。


「……すご」


 思わず呟く。


 いや、本当にエアコンだこれ。


 すると。


 こんこん、と扉が叩かれた。


「ひっ」


 びくっと肩が跳ねた。


「……聖女様?」


 フェルドの声だった。


「今、何か……」


 しまった。


 暖気が廊下まで漏れた?


「……ど、どうぞ」


 恐る恐る返事をする。


 扉が開き、フェルドが入ってきた瞬間。


「これは……!」


 彼は絶句した。


 まあそうなる。


 ついさっきまで極寒だった部屋が、春先みたいな気温になっているのだから。


「まさか、これほどとは……」


「えっと、私もよく分かってないんですけど」


「素晴らしい……!」


 フェルドが感動したように両手を握る。


 その反応に、私は少し引いた。


 いや、エアコンだよ?


 現代日本だと一般家庭レベルなんだけど。


「……失礼ですが」


 フェルドが恐る恐る尋ねる。


「貴女の世界では、これほどの奇跡が一般的なのですか?」


「一般的ですね」


 どこにでも備わっていると思います。


「……」


「夏も冬も、だいたい室温一定です」


 フェルドの顔から血の気が引いた。


「神代の世界では……?」


「いや現代日本です」


 そんな壮大な文明じゃない。


 普通の家電だ。


 でも。


 この世界では違うらしい。


 フェルドは震える声で呟く。


「冬を、恐れずに済む……?」


「え?」


「寒さで死なずに済む世界が、本当に存在するのですか……?」


 その言葉に、私は口を閉ざした。


 ……ああ。


 そうか。


 この人たちにとって“暖かい部屋”って、当たり前じゃないんだ。


 私はただ、快適な生活を恋しがっていただけだった。


 でも。


 この世界では、それが生死に直結する。


「……」


 なんだか、胸の奥が妙に重かった。


 するとフェルドが、はっとしたように頭を下げた。


「申し訳ありません。深夜に取り乱しました」


「い、いえ」


「ですが……陛下が知れば、きっと希望を持たれるでしょう」


 その言葉に、私は少し眉をひそめる。


 希望。


 期待。


 そういうものは、怖い。


 また“君しかいない”が始まる気がして。


「……別に、国を救うとかは無理ですからね」


 予防線みたいに言う。


 フェルドは困ったように微笑んだ。


「ええ。承知しております」


 全然承知してない顔だった。

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