第31話
試作容器の話が出てから、数日が過ぎていた。
とはいえ、何か大きく変わった訳ではない。
私は相変わらず城の一室で生活し、リゼに呼ばれれば食事を取り、時折レオルド達と顔を合わせる。
ただ、以前のように長く執務室へ集まる事はなくなっていた。
フェルドは職人達との調整に動いているらしく、レオルドも王としての仕事がある。
考えてみれば当然だった。
そもそも、この国は私一人のために回っている訳じゃない。
部屋の窓から外を見る。
昼間の熱を避けるためか、城下を歩く人影は以前より少ない。
それでも荷を運ぶ人や、水瓶を抱えて移動する人達の姿は見えた。
乾いた風が吹く度に、砂埃が細く舞い上がる。
「……する事ないな」
窓際へ肘をつきながら、小さく呟く。
前の世界では、
暇だと思う時間なんてほとんどなかった。
朝起きて仕事へ行き、
帰って寝て、
また起きる。
休みの日ですら、
気付けば仕事の連絡を気にしていた気がする。
なのに今は一日の流れが妙に遅かった。
「……いや、何かしようとして失敗したら困るんだけど」
思わず自分で突っ込む。
勝手に城を歩き回る訳にもいかない。
かと言って、何か役立つ知識がある訳でもない。
研究者でもなければ、何か専門知識がある訳でもない。
保存技術だって、テレビやネットで見た程度の曖昧な記憶しか残っていなかった。
そもそも、ほんの少し水を冷たくしただけだ。
それだって、
どういう力なのか未だによく分かってない。
少し水や空気を冷たく出来てもすぐに疲れる。
いつまでも再現出来る保証もない。
「……役に立てるとか思ったの、早過ぎたかな」
ぽつりと零れた声は、そのまま静かな部屋へ落ちた。
数日前まで、執務室では次々と話が出ていた。
保存方法。
輸送範囲。
容器の構造。
布。
水。
フェルドは紙へ何度も記録を書き足し、
レオルドも真剣に話を聞いていた。
だから少しだけ、
自分も何か出来ている気になっていたのかもしれない。
でも今は違う。
試作品を待つしかない。
実際に作るのは職人達で、
形へするのはフェルド達だ。
結局、自分は思い出した事を口にしているだけだ。
「……」
膝を抱えながら、小さく息を吐く。
暇な時間はどうしても余計な事を考えてしまう。
ここへ置いてもらえているのも、
結局は“力”があるかもしれないからだ。
もし本当に何も出来なかったら。
もし役に立たなかったら。
その時も今みたいにここへ居ていいんだろうか。
レオルド達は、
出来なくても構わないと言っていた。
あの言葉に嘘はなかったと思う。
でも、だからといって不安が消える訳じゃない。
人の役に立てない人間は必要とされない。
ずっとそういう場所で生きてきた。
頭では違うと思っていても、
簡単には切り替えられなかった。
窓の外へ視線を向ける。
陽射しは強く、遠くの石壁が白く霞んで見えた。
この国では今日も誰かが水を運び、
食べ物を運び、暑さの中で生きている。
その中で自分だけが止まっている気がした。
「……駄目だ、やめよう」
頭を振る。
こういう時の思考は、放っておくと止まらなくなる。
その時だった。
控えめなノック音が部屋へ響く。
「春乃様」
聞こえてきたのはリゼの声だった。
「フェルド様がお呼びです」
私は反射的に顔を上げる。
「……試作品ですか?」
「恐らくはそうかと」
私は慌てて立ち上がった。




