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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい


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第21話

 翌朝。


 目を覚ますと、部屋の空気は少しだけ冷えていた。


 昨夜より寒い。


 私は毛布を肩へ引き寄せながら、ぼんやり窓の外を見つめる。


 朝日が石壁を白く照らし始めていく。


 まだ完全に暖まりきっていない時間らしく、中庭を歩く使用人たちも厚手の布を羽織っていた。


「……寒暖差すごいなぁ」


 呟きながら身体を起こし、昨夜のことを思い返す。


 空気。


 風。


 少しだけ和らいだ乾燥。


 杯に浮いていた水滴。


「……気のせい、ではないんだよね」


 自分の手を見る。


 何かが見える訳じゃない。

 特別な感覚がある訳でもない。


 でも。


 少しだけ、触れる事ができた。

 そんな感覚が残っていた。


 その時、控えめなノックが響く。


「春乃様。お目覚めでしょうか」


 リゼの声だった。


「はい」


 扉が開き、リゼが盆を持って入ってくる。


 湯気の立つ器と、小さな干し果実。

 それから、紙束まで抱えていた。


「……紙?」


「本日、陛下がお話をされる際に使うものです」


 机へ置かれた紙を見て、私は少し目を瞬かせた。


 紙質は粗い。

 端も少し擦り切れている。


 しかも、一部には薄く古い文字の跡が残っていた。


「……これ、使い回してます?」


 リゼが少しだけ驚いた顔をする。


「よくお分かりになりましたね」


「いや、なんとなく……」


 私は紙へそっと触れる。

 日本ではコピー用紙なんて山ほどあった。


 ミスしたら捨てる。

 片面だけ使って捨てる。


 やっぱりこの国では違う。

 でも、もしかしたら元の世界でも同じように困っている国が、今もあったのかな、なんて。

 ふと、頭によぎった。


「紙も貴重なんですね」


「ええ。城でも、使えるものは出来るだけ使い回しています」


「……なるほど」


 昨日の執務室を思い出す。


 積み上がった書類。


 擦り切れた紙。


 重石代わりの小石。


 私は小さく息を吐きながら椅子へ座った。


「陛下はもう起きてるんですか?」


「既に執務へ入られております」


 呆れた様にリゼへ目を向けると、彼女は少し困ったように笑った。


「ですが、本日は春乃様とのお話を優先するよう仰っていました」


「……」


 少しだけ、言葉に詰まる。

 優先してほしくないなぁ、なんて。


 召喚された理由。


 この国の現状。


 自分の力。


 考えないまま先送りにしていたことを、今日はちゃんと話すのだろう。


 私は無意識に、机へ置かれた杯へ触れた。


 ……本当に、自分がやったんだろうか。


 未だに実感は薄いけど。

 多分、私にはなんらかの力が間違いなくある。


 異世界召喚だけでも意味が分からないのに、その上で空気まで変わるなんて信じたくないけど……


 私は小さく息を吐く。


 助けるとか、救うとか。

 正直、まだそこまでは考えられない。


 でも。


 身寄りもなく、この国でお世話になるしかない以上、何も知らないまま逃げるのは違う気がしたから。


 支度を終えた後、私はリゼと共に部屋を出る。


 王宮も、朝はまだ静かだった。


 夜ほどではない。


 けれど、城下のような喧騒もない。

 廊下では、使用人たちが静かに行き交っている。


 水瓶を抱える者。


 布を運ぶ者。


 小さな灯りを消して回る者。


 誰も急いで騒いではいないのに、止まっている者もいなかった。


 その時、廊下の向こうから兵士が一人走ってくるのが見えた。


 腕には書類束を抱えている。


 角を曲がる直前、抱えていた紙が数枚床へ落ちた。


「あっと……!」


 兵士は慌てたようにしゃがみ込み、すぐに紙を拾い集める。


 破れていないか確認するように、端へ指を滑らせていたが、安心した様な素振りでまた歩き出した。


 多分、大丈夫だったんだろうな。


 その後もただ静かに廊下を歩いていく。

 やがて、重厚な扉の前で足が止まった。


「陛下がお待ちです」


 私は小さく息を吐く。


 まだ、この国をどうするかなんて分からないけど。


 でも。


 少なくとも、話くらいは聞かなければならない。


 そんなことを考えながら、私は静かに扉の向こうへ視線を向けた。

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