表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/63

幕間

 夜も更け始めた頃。


 執務室には、紙を擦る音だけが静かに響いていた。


 壁際の灯りは最低限しか点けられておらず、広い部屋の半分以上は薄暗いままだ。窓の外では、乾いた夜風が石壁を撫でている。


 机へ積み上がった書類へ視線を落としたまま、レオルドは小さく息を吐いた。


 控えめなノックの後、執務室の扉が静かに開く。


「……やっぱり。まだ残っていましたね」


 呆れたような声と共に、茶器を載せた盆が机へ置かれる。


 リゼだった。


「休まれると言っていたのは誰でしたか」


「少し確認するだけのつもりだった」


「その“少し”で倒れかけたのは、つい先月です」


 レオルドは返事をしない。


 代わりに書類へ視線を戻そうとして、机の端へ置かれた茶器へ気付く。


「……温かいな」


「冷える時間ですので」


 リゼは慣れた手つきで乱れていた書類を重ね直していく。


 端の擦り切れた紙には細かな文字がびっしり書き込まれていて、一度使われた跡のあるものまで混ざっていた。


 その動きを眺めながら、レオルドは小さく目を閉じる。


「春乃様も、同じような顔をされていました」


「……どういう意味だ」


「休めていない人の顔です」


 静かな言葉だった。


 リゼは書類を整えながら続ける。


「ずっと周囲を警戒しておられます。必要以上に気を遣って、無理に合わせようとしているのが分かります」


「……」


「恐らく、昔からそういう生き方をされてきたのでしょうね。昨日はゆっくりお休みになられたようで、体調はかなりマシになっていた様でしたが」


 レオルドは何も答えなかった。


 代わりに、中庭の件を思い出す。


 暖かな風と少しだけ和らいだ空気。

 兵たちの表情。


 そして。


『君しかいないとか無理なんですよ』


 あの言葉。


 冗談めかしていたが、あれは本音だったのだろう。


「……無理はさせるつもりはない」


 ぽつりとレオルドが呟く。


「だから、お前も少し気にかけてやってくれ」


「元よりそのつもりです」


 リゼは淡々と返した後、小さく肩を竦めた。


「ですが、それならご自分で話しかければ良いではありませんか」


「何?」


「せっかく顔だけは良いのですし」


 レオルドが無言になる。


 その時、執務室の扉が開いた。


「……リゼ。王へ向かって何を言っているのです」


 呆れた声と共に入ってきたのはフェルドだった。

 黒髪混じりの銀髪を揺らしながら、書類束を抱えている。


「ですが事実でしょう?」


「否定はしませんが、そういう問題ではありません」


「そこは否定してくれ」


 レオルドが疲れた声で口を挟む。


 リゼが小さく笑い、フェルドが呆れたように目を伏せた。


 短い沈黙の後、フェルドが机へ書類を置く。


「城下の報告です。雨もしばらく降っていません。貯水も減り始めています」


 空気が少しだけ引き締まった。

 レオルドは静かに書類へ目を通す。


「……予想より早いな」


「寒季の冷え込みも続いております。このままでは、今季の終わりには井戸の水位にも影響が出るかと」


 リゼは無言のまま、フェルドへ茶を差し出した。


 窓の外では、まだ誰かの足音が聞こえる。


 夜の王宮は静かだ。


 けれど、止まってはいない。


「……春乃様のお力ですが」


 フェルドが静かに口を開く。


「詳しい事は分かりませんが、本人にとって過ごしやすい環境を作っている様に見受けられます」


「空気だけではない、か」


「ええ。昨夜も見た限りでは、快適に過ごしていた様に感じました」


 レオルドは少しだけ目を伏せる。


「……中庭では負担も大きそうだった」


 フェルドは静かに頷いた。


 部屋へ短い沈黙が落ちる。


 しばらくして。


 レオルドは小さく息を吐いた。


「明日、改めて話をする」


「国について、ですか?」


「ああ」


 レオルドはしばらく窓の外を見ていた。


 冷え込み始めた夜気の中でも、まだ遠くで人が動いていた。


「……あの娘が、この国をどう見るか、だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ