第17話
王宮へ戻ると、外とは違う静けさが広がっていた。
朝は行き交っていた使用人の姿も少なく、長い廊下には足音だけが響いている。窓から差し込む光も強く、白い石壁が余計に熱を感じさせた。
前を歩くリゼが、小さく振り返る。
「春乃様、お疲れではありませんか?」
「大丈夫です。……ちょっと暑さに慣れてないだけで」
「でしたら、少し休まれた方が良いかもしれません」
そう言いながら、リゼは部屋の扉を開けた。
部屋へ入った瞬間、私は少しだけ目を瞬かせる。
……あれ。
外より涼しい。
いや、部屋だから当然なのかもしれないけど、熱が籠もっていない。
窓際には薄布が掛けられていて、隙間から入った風がゆっくり揺れている。差し込む光も少し柔らかくなっていた。
「何かございましたか?」
「え? あー……」
私は曖昧に視線を逸らす。
「思ったより過ごしやすいなって」
「昼の間は窓へ布を掛けておりますので。多少は熱が和らぎます」
「なるほど……」
私は窓際へ視線を向ける。
布一枚で、こんなに違うものなんだな。
その時、リゼが机へ水差しを置いた。
表面には薄く水滴が浮かんでいる。
「冷たいうちにどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
杯へ注がれた水を口へ含む。
冷たい、という程ではない。
でも外の熱を帯びた空気の後だと、それだけで随分楽に感じた。
リゼはその様子を見届けてから、一礼する。
「夕食の際に、またお呼びに参ります」
「わかりました」
扉が閉まり、部屋へ静けさが戻る。
私はそのまま椅子へ腰を下ろして一息つく。
昼食はないんだ。
……そういえば昨日も無かったな。
文化の違いなのか、それとも水や食料の問題なのか。
ぼんやりそんなことを考えながら、机へ頬杖をつく。
少しだけ頭が重かった。
熱のせいか、歩き疲れたせいか。
歩き回って感覚が鈍っているだけかもしれない。
窓際の布が、風へ揺れる。
その動きを眺めているうちに、昨日の夜を思い出した。
髪が乾いた時の風。
部屋の熱が抜けた感覚。
今日、この部屋へ入った瞬間の空気。
温度だけじゃない。
風も、湿気も、空気そのものも。
別々だったものが少し、頭の中で繋がり始めていた。




