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家電少女は恋を知らない 〜異世界で快適な暮らし、はじめます〜  作者: 秘色ひすい


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第11話

 夜も深まり始めた頃。


 ようやく案内された湯浴みを終え、私は借りている部屋へ戻ってきた。


「……はぁ」


 思わず長いため息が漏れる。


 気持ちよかった。


 本当に。


 湯に浸かったのなんて、いつぶりだろう。


 日本にいた頃ですら、シャワーだけで済ませる日が増えていた。


 帰宅して、倒れるように寝る。

 朝起きて、仕事へ行く。

 そんな生活を繰り返しているうちに、“身体を休める”感覚そのものが薄れていた気がする。


 私は部屋に置かれていた小さな鏡を覗き込む。


「……え」


 思わず声が漏れた。


 黒髪のセミロング。


 湯上がりの熱で少しだけ頬が赤い。


 けれど、それ以上に驚いたのは。


「……なんか違う」


 お風呂の時から違和感はあった。

 乾燥して荒れていたはずの肌に潤いがあったし、髪のぱさつきも減っていた気がする。


 現代の鏡とは比べられないけど。

 それでも、私は鏡の中の自分をじっと見る。


 目の下の酷い隈も以前より薄く感じる。


「……まるで二十代の頃みたい」


 いや。

 そこまで劇的ではない。

 でも確実に、“まともな人間”に近づいている感じがした。


 身体も軽い。


 肩が重くない。


 頭痛もしない。


 呼吸まで少し楽だった。


「……いや、前が終わってただけでは?」


 冷静に考える。


 以前の私はかなり酷かった。


 睡眠不足。


 栄養不足。


 ストレス。


 冷暖房の効きすぎたオフィス。


 終電。


 休日出勤。


 そもそも比較対象が限界社畜時代なので、多少回復しただけでも劇的に感じる可能性はある。


「……人間、ちゃんと寝ると回復するんだな……」


 私はぼんやり呟きながら、濡れた髪へ触れる。


 まだ少し水気が残っていた。


 この世界の布は吸水性がそこまで高くない。

 何度か拭いても乾き切らない。


「ドライヤー欲しい……」


 その瞬間だった。


 ふわり、と。


 温かな風が頬を撫でた。


「……っ」


 思わず目を瞬かせる。


 風。


 でも、ただの風じゃない。


 熱すぎない。


 弱すぎない。


 髪を乾かすのにちょうどいい温度。


「……本当にドライヤーだ」


 私は恐る恐る、自分の髪へ当たるように意識する。


 黒髪がさらりと揺れる。


 乾いていく。

 しかも、妙に均一だ。


 部屋の空気まで少し心地いい。


「……」


 静かな部屋の中。

 温風だけがゆっくり流れている。


 私は少し考え込んだ。


 今まで発動した力。


 暖房。

 冷房。

 乾燥した風。

 そして今の温風。


 共通しているのは。


「……快適な環境、か」


 エアコン。


 ドライヤー。


 扇風機。


 どれも、“人間が快適に過ごすため”のものだ。


 便利な家電。


 でも、日本では当たり前すぎて意識すらしていなかった。


 私はゆっくりベッドへ腰掛ける。


 夜の砂漠は冷える。

 けれど部屋の中は、不思議と過ごしやすかった。

 ほんのり暖かい。

 乾燥しすぎてもいない。


 たぶんまた、無意識に調整している。


「……便利すぎるでしょ、これ」


 人間が、“少しでも楽に生きるため”の力。

 文明の力。


 私は乾き始めた髪を指で梳く。

 さらり、と指が通った。


「……もし」


 ぽつりと呟く。


「この力で、少しでも楽に暮らせるなら……」


 この国も。

 ここで働く人たちも。


 ほんの少しは、楽になれるのだろうか。


 そんなことを考えながら。

 私は久しぶりに、“眠るのが嫌じゃない夜”を過ごしていた。

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