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~夏季休暇前の視察~

~夏季休暇前の視察~


 おかしい。なぜこうなったんだ?


 私は今完成した温泉街を前にしてうな垂れている。もう疲労困憊だ。何が悪かったのか思い出してみよう。


 当たり前だが温泉街が完成したらグルニクル侯爵に報告をした。当たり前だが報告前には働く人の教育や料理のテストは事前に終えている。


「いや、これはいいものだな」


 ターメリックが温泉街に入り湯に浸かっていたが気にしたら負けだ。この場所は私の好みを入れつくした温泉宿だ。


 まず、露天風呂だ。ここは土魔法でわざと高さを作り入浴しているものが覗き見されないように工夫をした。そして、岩、竹などをうまく使い、景色にプラスしたアクセントをつけたのだ。


 次にサウナを設置した。実はサウナ文化はロンベルト王国にもあったのだが、匂い袋を入れたのだ。森でハーブが採れるので使ったらいい感じになった。


 後はマッサージもセットした。マリンケ族の人をここに多く設置できたのが強い。特に土魔法に適正がない人が多く配属できた。オイルマッサージを使い全身をほぐすのだ。新陳代謝を高め老廃物を出す。


 そういうことにこだわった。後はこの温泉も白くぬめりけがあるため肌をしっとりさせてくれるのだ。


 それとこれはアイルと何回も試行錯誤をして作ったものができた。シャンプーとトリートメントだ。


 今までの石鹸もどきで髪をあらうとごわごわになるのだ。でも、このトリートメントは本当に優秀だ。つるんつるんになるのだ。髪が輝いてみえる。


 ターメリックが試した後にカチュアとレイリアにも報告をしたら、ユーラシア王国から戻ってきたカチュアが速攻で温泉街にやってきた。


 当たり前だが、ここで開発したシャンプーとトリートメントの販売を求められた。まだ、そこまで数が作れないため、現地販売のみで落ち着いた。ただ、押し切られるのはわかっているので、この分野については目下改善中だ。


 料理にもこだわった。川を整備していたら川エビが獲れたのだ。というわけで、山菜とエビのてんぷらモドキを作った。天つゆとかないので塩とさんしょうで食べてもらっている。タラの芽、茄子、シソの葉にたけのこ、アスパラのてんぷらだ。てんぷらはかなり評判がよかった。


 運用開始前にガラとサラがやってきた。男湯と女湯で別れることを伝えるともめたので、内湯がある部屋に案内した。そういう部屋も必要なのではと作って置いてよかった。


 ガラが転移魔法でレイリアを連れてきたあたりから様子がおかしくなった。レイリアが戻った後に次に来たのが私も直接お会いしたこともない、ロンベルト王の妻、カグーイ王妃がやってきたのだ。


 ルーファスの母親であるこの人は当たり前だがものすごい権力者なのだ。その人がガラに連れられてやってきたのでもう、大変な騒ぎになった。


 視察のはずだったのに、そんな生易しい展開じゃなかったのだ。


「キール様。終わったみたいに話していますけれど、ただいまカグーイ王妃様が来られたばかりですからね。ご対応よろしくお願いいたします」


 ユーフィリアにそう言われた。現実逃避をしたくなりますよね。だって、レイリアが来た時だって大変だったのだ。事前予告もなくガラがいきなりカグーイ王妃を連れてくるからだ。現実逃避もしたくなるでしょ。終わったことにしたかった。


 ガラの空間転移はメリドと違って事前にわからないから本当に困る。


「うふふ、あなたがドカーケ子爵よね。面白い施設があるって聞いたからちょっと視察にきたのよ」


 40代半ば、夜会でチョコレートが出た後に食べ過ぎから太りやすいということを主張した人の一人だ。というか、夜会でダンスをすればいいのではと思ったがカグーイ王妃はロンベルト王の横にいつも座っている事が多い。ちなみに、カグーイ王妃は内政官のトップでもある。つまり、粗相を絶対にしてはいけない相手でもある。


「これはこれは、カグーイ王妃殿下。辺境の地であるドカーケにようこそお越しいただきました」


 臣下の礼として片膝を付き、すぐに頭を垂れる。


「今日の視察は非公式だから気にしなくていいわよ。なんでも、ここで湯あみをすれば肌も髪もすべすべになると聞いたのよ。気になるのよね、よね」


 そこにいたのは、美しくなりたいと思う女性の顔だった。カグーイ王妃殿下のアテンドは私がすべきなんだろうな。


「かしこまりました。では、最上級の宿と温泉とサービスを提供させていただきます」


 実際にこの温泉街には複数の温泉宿を作った。まず、このエリアに土魔法で傾斜をわざと作っているのだ。


 人工的な山のようなものだが、その最上部にあるのが一番の温泉宿だ。作りは木造ではない。傾斜がない部分は木造作り、古き良き日本というかどこかに神隠しされそうな雰囲気に作りこんである。


 これもこれで味があるが、この雰囲気を馬車で通り過ぎた先に相手の階級に合わせて宿を用意しているのだ。重なり合う事が無いようにしているのは露天風呂が覗き込まれないようにしたためだ。


 一番上の温泉宿は『ドカーケプレミアムホテル』と名付けた。いや、旅館じゃないのかと突込みが来そうだが、旅館といってもこの世界では通じない。


 だから旅館のような形をしていても名称はホテルなのだ。この辺りは諦めようと思った。


 ドカーケプレミアムホテルは5階建てだ。その最上階にある部屋には特別な温泉を用意している。内湯、露天風呂、打たせ湯、ジャグジー風呂にサウナもつけてある。その奥にはマッサージルームもあるのだ。


 ドリンクも牛乳やコーヒー牛乳モドキのダンデ牛乳やフルーツ牛乳もある。後は、温泉につかりながらお酒も飲めるようにしている。


 といっても、種類はそこまで多くない、ワインと焼酎だ。冷えたビールは湯上りに飲めるように準備してある。というわけで、ドカーケプレミアムホテルに到着した。


「ここがそのホテルなのね」


 ここは旅館色をすべて取っ払ってホテルに振り切った作りにしたのだ。まず、赤い絨毯。これは絶対だ。


 そして、吹き抜け。5階建ての吹き抜けをロビーに用意したのだ。見上げると大きなシャンデリア。といってもろうそくだと管理が大変なので魔法石を光らせてある。


 魔法石はモンスターを倒した時に入る魔石を加工して作れるものだ。ドカーケの周囲にモンスターが多くいるおかげで簡単に用意できた。


 ちなみに、このモンスターは北の要所で刈り取られたモンスターを元に作らせていただきました。


 今まで、こういう加工まで手が回らなかったそうだけれど、今は北の要所もかなり人が増えたので色んなことができるようになったみたいだ。このまま秋の難題をどうにか乗り切りたい。


 閑話休題。


 ドカーケプレミアムホテルは私のうっすい現在の記憶を元に再現をしたのだ。ちなみに、2階は宴会広場にしている。何かの時に使えるようにしているのだ。


 3階からは宿泊施設だが、どの階にも温泉を用意してある。階層によって少しずつグレードを変えているのだ。


 5階までは階段でしか移動できない。エレベーターというものは存在しないのだ。だが、ただ、階段をあがるのではなく、吹きぬけを見下ろせつつ、外の景色や絵画が目に留まるようにしてある。


 絵画は申し訳ないが私の記憶を元に模造品を作成してもらったのだ。


 落ち穂ひろいの絵や、モナリザとか脈略なくある。ひまわりとかもね。目を色んな所に向けて階段を苦痛と思わせないようにしているのだ。


「こちらになります」


 5階の大浴場に案内する。もちろん男女別に分かれている。この世界に混浴と言う概念はない。というか、あったとしても私は認めない。


 ターメリックには「一緒に入らないか」とかウイスパーボイスで言われたが断った。いや、カチュアと内湯にでも入っていればいいんだよ。あんたら婚約者だろうが。私を巻き込むな。


 大浴場からの案内は係の者に任せる。そういう担当をつけているのだ。貴族は自分で体も髪も洗わない。全て身を任せるのだ。スペシャル対応を受けてもらおう。


 一回だけ受けたエステを再現してみたんだけれどね。というわけで2時間経過しました。もうね、ものすごく充実したカグーイ王妃が出て来られました。


「これ癖になるわね。また、来てもいいかしら?」


「ええ、どうぞお越しください。ちなみに、食事はどうされますか?」


 ガラに予定を確認しているが、なんでも色んな会合や打ち合わせをずらして無理やり一日開けたらしい。


「ええ、最近のドカーケはかなり変わったと聞いています。楽しみです。そうでしょう。ランベル」


 振り返るとおじいちゃんが後ろにいた。北の要所に居たはずだよね。


「カグーイ王妃が来られていると聞き馳せ参じました」


 こういう時のおじいちゃんは化け物みたいだ。というか、元々化け物なんだけれど、どこから情報が伝わっているのだろう。そして、そんな簡単にたどり着ける距離でもないはずなのだ。


 それこそ、早馬を延々と走らせるとかしない限り。あ、おじいちゃんの特殊スキルならできるのか。馬もかわいそうに。


 というわけで、5階にある特別ルームで食事をとりました。特別ルームは王族が来ても対応できるように作ったのだが、はじめに使うのがカグーイ王妃になるとは思ってなかった。


 料理はパンにはちょっと合わないのだが、前菜として鶏肉モドキの蒸したものとサラダ、後はジャガイモスープ、てんぷら盛り合わせ、白身魚のムニエル、ビックボアのピカタ、最後に出したのはふわとろプリンだ。


 このプリンを作った時はアイルが延々とプリンを求めたのだ。最初はプリンもどきだったが、今はかなり完成度の高いプリンだ。


 おじいちゃんは初プリンだ。食べた後表情がいっきに優しくなった。てんぷらはみんな不思議なものを見る感じで恐る恐る食べるのだが、食べた後にはまるのだ。


「この最後のデザートですが、レシピをいただけるかしら?」


「もちろんでございます。すでにまとめているものがございますので、戻られましたら料理長にお渡しください。ただし、卵をつかっておりますのでくれぐれも取扱いには注意ください」


 もう、卵で第三王子殺害未遂事件など起こしたくないからだ。


「うふふふ。そういえば、そういうこともあったな。ああ、記録上は違う話しにすり替わっていたわよね。ドカーケ子爵はルーファスにも好かれているみたいだし、今度二人で話してみるといいかもね。面白いことになるかもしれないよ」


 絶対にいやです。レイリアを敵にまわすようなフラグを立てないでください。というか、カグーイ王妃は話し方は穏やかだけれど、圧があるんだよね。語尾の節々に。


「ありがたいお話しですが、私はこのドカーケを盛り立てることで手いっぱいでございますし、私は今以上を求めておりません」


 やんわり断れたかな?


「ドカーケ子爵は無欲であると聞いていたけれど、本当にそのようですね。気に入ったわ。この地に私の別荘を作る。土地はまだ余っていそうだから後で担当官を寄越すわ。宜しくね」


 別荘問題はこの後色んな貴族から申し出があったのだ。カグーイ王妃の影響力を甘く見ていた。


 というわけで、本格オープンを迎えた温泉街は郊外に貴族街が出来てしまったのだ。


 そして、この場所にクルル商会の支店もできてしまった。そりゃ、ここまで貴族が集まればそうなるよね。


「ってか、私もここに住みたいけど駄目みたいなのよね」


 カチュア。あなたが居る場所は王都でしょ。諦めなさい。そして、ターメリックを王都に連れて帰ってください。と言うわけで夏季休暇がはじまりました。直接対決開始です。


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