~春到来~
~春到来~
春を感じるときはどういうときか?暦で春だから春というのも一つだと思う。それは大事なことだ。
だが、このドカーケ領では雪がやんだ時だと言われている。雪かきは適度に行っていた。50人も急遽人が増えたのだ。彼らに雪かきをしてもらいつつ、寒い中訓練もしてもらった。私もなぜか一緒になって一回だけ訓練に参加させられた。
ちょっと寒かったというのもあって、温かくておいしいものを食べていたのがいけなかったのだ。
うどんを作った。醤油も味噌もない。けれど、出汁があることが分かった。川魚を使った煮干しがあったのだ。
なので、鍋を作った。川魚はつみれにした。人参や白菜のようなものもあったので煮込んだ。もちろん、今後は畑で作るように指示もしている。食事は大事。それに、こんにゃく芋を発見した時は歓喜した。というわけでこんにゃくもできた。
豚肉の代わりになるのはグレートボアだ。結構森にいるらしい。というかかなり大きな体をしているので食べるにはちょうどいいと思ったのだ。
そう、『グレートボアって食べるのにはちょうどいいよね』と私は言った。ならば、狩りに行こうとなってしまったのだ。
このグレートボアは5メートルくらいの大きさだ。かなりでかい。
「お嬢様なら簡単に倒せます」
そう言ってきたので、一緒にユーフィリアとアイルも連れて行った。おじいちゃんがいつのまにか側にいてすごいいい笑顔になった。二人から表情が消え去った。
私はまだおじいちゃんの修行方法を知らなかったのだ。支援魔法をおじいちゃんがかけてくれる。
「これで、欠損しない限り、いくら戦っても大丈夫じゃぞ」
そう言われた。確かにHPもMPもすぐに回復してくれる。だが、精神は摩耗するのだ。睡眠も不要だと言われた。
ええ、回復するんです。してしまうんです。なので、24時間連続で戦い続けられてしまうんです。ブラック企業です。黄色と黒のドリンクなんか太刀打ちできない位の魔法です。
でも、悲しいことにレベルもガンガン上がるし、スキルもいっぱい身につくんです。けれど、何か大事なものを失った気がする。
この修行はきつい。なんせ、休憩することを許されないからだ。だって、ステータス上は全快してますからね。
心が折れそうになったら、それも回復される。24時間で私は開放してもらえました。これ今までの修行を地獄といってすみませんでした。本当の地獄ってこういうのだと知った。
そういえば、あの50人の人たちは朝から雪かきをして、モンスターを倒して、木の伐採をしてとずっと働き続けです。何日も何日も。大丈夫なのでしょうか?って、それを命令したの私だった。恨んでないといいな。合掌。
「キールや、大丈夫じゃ。あいつらはちゃんと『回復』しているからな」
多分、それは大丈夫じゃないですよ。彼らが来てもう3週間以上経つ。すでに顔つきが変わっている。表情は消え去っている。まるで機械のようだ。言われたらすぐ行動をする。しなかった場合どうやら、違う魔法をかけるらしい。
「大丈夫じゃ。体は傷つけておらぬ。ちょっと脳に刺激を与えておるだけじゃぞ」
おじいちゃんは笑顔だ。だが、誰もがおじいちゃんの言葉にすぐに反応する。
「儂のかわいい孫娘が見ておるのじゃ。お前らもっときびきび動かんか」
「イエッサー」
あ、この辺りはなんかユーフィリアと似たような感じだと思った。みんななんか鍛えられたら軍隊みたいになるんだよね~
とりあえず、しばらく煮干しで出汁を取った塩味ベースの鍋が続きました。栄養満点。栄養が多すぎて太ったら訓練に連れていかれたから食べる量をセーブするようになった。
「おいしいですよ。食べなくていいんですか?」
アイルはいつだって全力で食べている。でも太っていない。うらやましい。太らないコツを聞いたら「訓練しているからです」と返答が来た。
ユーフィリアを見ると苦笑いをしている。どうやらアイルはおじいちゃんのあの訓練が苦痛でないらしい。
まあ、レベルもすでに99に到達している。今のステータスならルーファス王子を攻略できるだけの数値はあるが、いかんせんこうも食べることに力を入れているアイルを見るとなんだか今が一番幸せなんじゃないかと思ってきた。
「大丈夫ですよ。最近はヨシュアも訓練に付き合ってくれますから。まあ、近いうちに北の要所の視察に行くんでしょ。それまでにヨシュアも限界突破の条件をクリアすると言ってましたから」
アイルは『限界突破』を狙うようだ。まあ、今のアイルならいけるのではと思ってしまう。私はご遠慮願いたい。
「あ、キール様も秋に一緒に受けるって話しなので頑張ってくださいね」
逃げ出したい。だが、多分おじいちゃんからは逃げられない。というか、本当にあの人戦死するのか?
強すぎるのだが。あのおじいちゃんが勝てない相手なら誰かが勝てるとは思えない。もっと、違う方法を考えた方がいいのかもしれない。いや、そもそも普通の戦いですらないのかもしれない。根本的に何かを間違っているのでは、そう思うようになった。
「ねえ、ちょっとこういうものを作ってほしいんだけれど、実現できるかな?」
籠を編んでるのを見た時からちょっと考えはあったんだ。ただ、制御は難しいけれど、そんな移動させることは考えなければ実現できるのではと思っているものがある。
そう、作ろうと思っているのは熱気球だ。ただ、上下に動ければいい。もし、相手が冬将軍ならばかなりの大きさだ。だが、冬将軍は大きいけれど空を飛ぶわけでもない。だから熱気球を使って上空から物投という戦術も取れるのではと思ったのだ。
ある程度熱気球を固定して上空に駆け上がる。そして、バスケットと呼ばれる乗り込み口から重りを投下させるのだ。城壁からはバリスタ、上空からの攻撃、後は落とし穴。この3つができれば戦術的にはよいのではと思った。
球皮と呼ばれる気球部分についてはカエルのモンスターの皮を使おうと思っている。伸縮もいいし、耐熱もある。鶏肉だと思って食べていたらこのカエル肉だったこともあるくらいだ。
なんか沼地にこのカエルが大量繁殖していたのでかなり駆除したらしい。この皮はビニールとまではいかないけれど、結構伸縮性が高いので色々と使えると思ったんだよね。
というか、このカエルの大量発生って確かイベントであるんだよね。年に1回。これが結構いいレべリングになるんだよ。
はい、言ったら連れて行かれましたよ。私も。冬の寒い時に。軽く何かを言うとこういう事になるんだって覚えました。
覚えたけれど繰り返してしまう私です。成長したい。あ、ユーフィリア。こっそり私の胸を見ない。
そこは成長してほしいけれどしてませんよ。あなた達は大きくていいですわね。もいでやる。
閑話休題。
というわけで気球を作りました。といっても流石にいきなり乗り込む勇気はない。と思っていたらアイルが立候補したのだ。
「これ、乗っていいのか?」
「誰かが実験で乗らないといけないからね」
なんか目を星のように輝かしている。まさか食べ物以外でこんなに気合が入るアイルが見れると思っていなかった。
結果だけ言おう。
実験は成功してしまった。といってもまだ上下しかできないし、固定をしておかないとどこに行くのかもわからないものだ。
「上からクロスボウで射るのも面白そうですね。後はあの物見櫓に設置してもよろしいでしょうか?」
スティーブがそういってきた。実は試作機を作ったけれど、箝口令を引いているものがある。それは『クロスボウ』『バリスタ』そして新たに誕生したこの『熱気球』だ。
この3つは戦いが変わってしまうからだ。だから開示が難しい。だが、開示せずにドカーケ領だけで保持する危険性もわかっている。
だから、いつもと違ってレイリア様にだけ『クロスボウ』の試作機を送り、手紙を添えた。返ってきた返事は『春にドカーケ領に行く』というものだった。
そう、私はこの『春』が『いつ』なのかを確認していなかったのだ。だって、ドカーケ領では春と言えば『雪』が降らなくなった時だと思っていたからだ。
暦だとまだまだ先。だから私は油断をしていたのだ。そう、ちょうど熱気球のテストをしていた時にレイリアに発見されてしまったのだ。
まあ、雪が少ないサウスドカーケ近くで実験をしたことも一つの原因ではあるのだが。
とりあえず、サウスドカーケの領主館にレイリア様一行をご案内することにした。みんな大慌てで用意をしてくれている。胃が痛い。
「これは一体どういう経緯で作ろうと思ったのですかしら?」
口調は丁寧だ。だが、顔は笑っていない。そりゃそうだ。普通に考えたら巨大な塊が空を飛んでいたのだ。目につくに決まっている。
「これは新作の試作機として作っていたものです。名前を『熱気球』といいます。ドカーケ領には北の要所と呼ばれる場所があります。偵察や上空からの攻撃ができるものとして考えました」
レイリアに嘘は通じない。嘘を見抜くスキルでも持っているんじゃないのってくらい嘘が通じないのだ。
「ドカーケ領が北の要所に人を割いているのは知っています。これはこの国の上層部なら知っていて当然の事実です。それで、北の要所で何か異変でもあったのかしら?」
異変って何だろう?というか、北の要所って有名なの?私実はあんまり知らないんだよね。みんなちゃんと教えてくれないし。
「ってか、ひょっとしてキール。北の要所について知らないなんてことないわよね」
レイリア様にそう言われた。嘘は通じない。だから正直に答えてしまったんだ。
「知らないです。というか、みんな教えてくれません」
そう言った瞬間、スティーブが空を見上げた。目を手で覆っている。ダリアは不動のままだ。だが、いつもの笑顔は消えている。この変化は何だろう。
今回レイリア様が来られるということで、普段とは違い側仕えはスティーブとダリアが行っている。
お茶もケーキも流れるように提供されていた。それでいて、二人ともの存在が気にならない。気配があまりないのだ。いつの間にか背後にいる。いつでも殺されそうだ。こわい。
「ということは、わざと彼らはキールに教えていないということなのね。でも、私としては教えないわけには確認ができません。ランベル様はおられますか?」
いきなりおじいちゃんをご指名と来た。すると扉がノックされた。そこには普段の武骨なレザーアーマーとは異なり、夜会にでも出れそうなくらい正装したおじいちゃんがいた。
「お呼びと聞き馳せ参じました」
というか、部屋で話していたらおじいちゃんが来るってどういうことよ。レイリア様もびっくりしているじゃない。
「さ、流石、英雄ランベル様ですこと。どこまでその耳は優秀なのでしょうね?」
「いえ、音が聞こえる範囲ならば聞き取れますが、遠くなると耳では確認できません。もう年寄りですのでな」
そう言ってにやりとおじいちゃんが笑っている。というか、なんだか含んでいる笑い方が。
「そういう事にしておきましょう。それで、北の要所に変化はあるのですか?」
「いや、大人しいものじゃ。だが、その大人しさが不気味でもある。動きがあるとしたら今年の秋から来年にかけてじゃろうな。これはまだ確証はない。ただの儂の勘じゃ」
やっぱり何か動きがあるんだ。そして、その予兆もある。ということは私が今していることは無駄じゃなかったんだ。
「それで、今回のこの熱気球についてランベル殿はどう考えているのか教えてもらえないでしょうか?。使えそうなのですか?」
レイリアはすでに私という存在が見えなくなったのではと思うくらい華麗にスルーしてくれている。まあ、それがありがたいんだけれどね。おじいちゃん頑張って。
「ふむ、偵察という点では上空から確認できるのでかなり良いと思う。だが、攻撃となるとどうだろう。試してみないことには何とも言えんな」
攻撃は難しいんだ。まあ、実際私もそういう使い方をしたことはないからな~
ちょっと乗せてもらったことはあるけれど、実は怖かった。身を乗り出してものを落とすとか考えるだけで足が震えそうだしね。
「ならば、この『クロスボウ』というものはどうですか?」
レイリアは平和主義者でもなければ戦闘狂でもない。いたってバランスの取れた考え方の持ち主だ。カチュアに渡せば売り飛ばすことしか考えなかっただろう。でも、レイリアなら複合的に判断してくれると思った。だから、レイリアにだけ試作機を送ったのだ。
「この『クロスボウ』や『ほかのもの』は役立つでしょうな。それこそ、今回だけでなく色々な場面で。しかも、そこまで難しいつくりをしておらぬ。だからこそ、気をつけねばならぬ。他国に知れ渡ってしまったら量産されるだろうな」
そうなのだ。今までのダンデ茶やチョコレートとは違う。これは武器なのだ。そして、その武器の使い勝手がわかるものが、大量に生産してしまえば戦争が有利になる。
戦いを考えていなかったものも、『有利』ということだけで戦いを考えてしまうかもしれない。戦力を持つということは使いたいと思うものが出て来るのだ。それは歴史が証明しているい。悲しいことに。
「おそらく、キールもそういう事を考えたからカチュアに送らずに私にだけ送ってきたのでしょうね」
「はい、そうです」
多分レイリアはラジエル様の時も私が真実を言っていないことに気が付いていたはずだ。けれど、問いたださずにいてくれた。だって、本当のことなんて話しても理解してもらえると到底思えない。ただ、レイリアはロンベルト王国に対して正しい選択をする。
「それで、『クロスボウ』をどうするつもりで考えているの?」
レイリアがそう私に聞いてきた。いや、レイリアが解決してくれるのだと思っていたら私に振ってきた。
ドカーケだけが所持していることが問題になる。反意ありと思われちゃうしね。ならばロンベルト王国が所持してしまえば問題ないんじゃないかな?
ただ、他領が持ってしまうと他国に技術や製品自体を売り飛ばす人も出てくるだろう。おそらくかなりの確率でカシャーク子爵は目先の利益につられて絶対に売り飛ばす。多分他にもそういう人はいるだろう。
「ロンベルト王国の軍で取り入れることが可能かどうか模索してほしいです。ただし、所持は軍と王が許可した先のみにしてもらいたいです」
「却下ですね」
レイリアに速攻で断られる。
「まず、許可制などにしてしまっては貴族間でいざこざが起きます。国だけが所持を許されるというのもまた王への批判が集まります。そして、問題なのはある程度似たようなものが作れてしまうということです」
確かにそうなのだ。技術的に難しいわけじゃない。だからこそ、一旦人の目に触れてしまったら広まることを想定しないといけないのかもしれない。
「なので、ある程度の個数を確保できてからこの『クロスボウ』を公表するしかないですね。それ以外の選択はないです」
ということはリバーシーと同じ展開か。ただ、片方は遊具で片方は武器だ。その違いは大きい。
「ちょっとだけ待ってもらえぬか?といっても1年だけじゃ。おそらくこの1年大量に生産をして北の要所に配備したい。それが終わってからの開示じゃダメかのう?」
おじいちゃんが提案の意味が私にはわかる。それだけこれから起きる北の要所での戦いは激化するのだろう。もっと私にできることはないだろうか?
「まあ、私が知らなかったことにすれば問題ないでしょうね。戦争は時に大きな技術革新を産むこともあるし。ただ、こちらとしては知らない立場ゆえサポートはできないので、何が起きても自己責任ですわよ」
「問題ない。それにそれまでの間に孫娘ならまた面白いものを提供するだろう。それに期待するのじゃな」
いきなり無茶ぶりが来た。だが、そういう事で解決になったのだ。その後、緊張感がある中でお茶会が開かれた。そこで私は知ったのだ。
「そうそう、キールに反意の嫌疑がかけられているわよ。というか、そういう噂が王都で流れているの。あまりいい噂じゃないから気を付けた方がいいわね。まず、噂の出所を調べなさい。早急に」
反意とか誤解ですからね。でも、そう言っても通じない。とりあえず、レイリアに言われたから噂の出所を調べないといけなくなったのだ。




