~凱旋と後始末~
~凱旋と後始末~
ナッカが戻ってきて最初に報告をしたのはスウだ。
まあ、恋人だしね。説明を受けたスウは「及第点ね。次はもっとうまくやるように」という辛評をナッカに告げていた。だが、顔はうれしそうだ。それが、ナッカもわかっていたようで「頑張るよ」と言っていた。あの愚弟がこうまで変わるものなんだと思った。そして、二人が幸せそうでよかった。
すでに私は着替えを済ましている。そして、セントラルドカーケの執務室ではなく、広間のような所に謁見のような場を作っている。私の右横にはおじいちゃんが座っていて、左横にはナッカが座っている。
一段下の場所にカチュアが座っている。その横にはカチュアがいつも連れている護衛担当が鎧を着て立っている。結構かっこいい男性だ。
まあ、この『剣と魔法のストーレンラブ』は乙女ゲームだ。大体の男性はかっこいいものだ。名前は教わったが忘れた。多分ゲームに出てこないキャラなのだろう。
カチュアの反対側にはスティーブとダリアがいる。私の後ろにはアイルとハッサムが控えている。
あ、ちょっと申し訳なさそうにレッドアイ商会の担当であるオットーが立っている。ってか、いつの間にオットーはドカーケにいたのだろう?多分、スティーブあたりが今回の件で呼びつけたんだろうな。オットーの顔がかなり憔悴しているから徹夜明けなんだろう。かわいそうに。
扉付近にはユーフィリアがいる。扉を開けるのはヨシュアだ。なんだかヨシュアも疲れ切っている。多分ここにいる大半は寝ていないのだろうな。みんな元気だな。急ごしらえだけれど、謁見の間っぽくなっている。
「では、罪人を連れてきます」
ヨシュアがそういって両手を縄でくくられ、数珠つなぎになっている50名程度のものが目の前に現れた。盗賊というわりには身なりは整っている。そう、なんか荒々しさというよりも、ちゃんとしているのがわかるのだ。
「後はたまたまその場に居合わせたリョーシ・ノ・カシャーク子爵がおられましたのでオブザーバーとして参加いただけます。カシャーク子爵はこちらの椅子にお座りください」
カシャーク子爵は30歳くらいの男性だ。細い体をしているがすでに金色の髪は頭頂部が禿げ上がっていて側面だけしか残っていない。頬はコケていて目はぎらついている。
そう、この人は誰かにそそのかされては、つい乗ってしまい、失敗をするということを繰り返すのだ。なんで、疑うということをしないのだろう?苦労をしているからその頭頂部の砂漠化が進んでいるのだと思うのだが。
「では、今回捉えた盗賊50名。および元レッドアイ商会にいたガルムの処遇についてキール様より決裁をいただく」
スティーブ?いきなり私に振るのね。そう思っていたらオットーが声を上げた。
「まず、今回についてだが、ガルムの処罰についてはレッドアイ商会で行わせてもらいたい。もちろん、迷惑をかけたドカーケ子爵ならびにクルル侯爵子女であるカチュア様にはそれ相当の迷惑料をお支払いさせていただきたい」
そう言ってオットーが頭を下げる。カチュアを見ると「まあ、妥当な所ね」と言っていたので問題ないだろう。
「ええ、私もかまわないわ。それで、この50名の盗賊の処遇についてですね」
私はふと思った。冬が明けたらおじいちゃんは北の要所に戻る。そして、秋あたりその北の要所で何かが起こりおじいちゃんは戦死するのだ。だとしたら、戦力は少しでも多い方がいいはず。
クロスボウやバリスタは開発済みだし、これから秋までには最新の武器の設置は完了するけれど、人数は力だ。なんだっけ?数は力とか言った人がいたような気がする。まあ、あれは政治の世界だったような記憶があるが力は力だよね。
「その50名については隷属の首輪をつけたのち、ドカーケ領にある北の要所にて1年の訓練を命じます。肉体と精神を鍛え自らの行動を振り返りなさい。おじいちゃん。1年間彼らの価値観が変わるまで追い込んで構いませんので鍛えてあげてください」
私がそういうとスティーブ、ダリアは苦笑いをしていた。おじいちゃんは楽しそうな笑顔をしている。
「安心しろ。儂はダリアやユーフィリアみたいに優しくはないからな。1年もあれば限界突破をさせてやれるだろう」
限界突破ってどのシーズンだったか現れたスキルなはずだけれど、結構条件が厳しいからやったことないんだよね。まあ、おじいちゃん的な冗談だろう。そう思っていました。
「そうそう、この結果に何かご意見はございますか?リョーシ・ノ・カシャーク子爵様?」
スティーブがものすごい笑顔でカシャーク子爵に声をかける。おそらくこの50人は盗賊でも傭兵でもなくカシャーク子爵の私兵だろう。
だが、隷属の首輪も付けられるし、おじいちゃんに鍛えられるのだ。身も心も。おそらく、ユーフィリアの教育以上の何かが起きるはずだ。ということは、従順な兵士になるはず。
「い、いや、問題ない。私は、そう、たまたま、たまたま夜の散歩をしていたら盗賊とドカーケの皆さんが戦われていたので、保護してもらっただけだからな。な」
動揺しすぎでしょ。目とかむっちゃ泳いでるし。でも、多分私は後何回かこのカシャーク子爵とは顔を合わす可能性がある。だって、そういうイベントが『剣と魔法のストーレンラブ 2』にあるのだから。
「あ、そうそう。今回の再発防止として、お互いの領境付近にに物見櫓を建てようと思っておりますが、よろしいでしょうか?」
スティーブが、脂汗を流し切っているカシャーク子爵にそう話しかけた。
「も、問題ない」
「ならば、こちらの書類に署名ください」
カシャーク子爵は開放されたかったのか速攻で署名した。あの書類絶対に他にも色々な制約をつけているはずだ。冷血漢であるスティーブがそんなに優しいはずはない。
「ありがとうございました。これは魔法書です。これで精霊契約成立ですね」
魔力が込められている紙に署名をするということは、破棄することはできない。もし、破棄した場合は神からの裁きを受けるのだ。
精霊契約というのは色々なイベントで出てくるアイテムだ。ここでスティーブは使ってきたか。あ、カシャーク子爵がすごい表情をしている。
「何も問題ありませんよね。といっても、すでに署名いただいておりますので、撤回はできませんが。写しをお渡しいたしますのでご安心ください。では、当家の馬車でお送りいたします」
カシャーク子爵はどんどん顔が青くなっているが、気にせずにヨシュアが連れて行っている。ヨシュアもいい表情をしている。
「本当に思うわ。ドカーケを敵にまわしたくないって。だって、こんなのと戦うなんて非効率すぎるもの」
カチュアにそう言われたけれど、私はクルル商会を敵に回す方が怖いと思っているのは口に出せなかった。
(お開き後)
ランベルとスティーブの会話。
「おい、キールは本当に北の要塞の事は知らないのだろうな?」
「ランベル様、もちろんでございます。私たちはキール様をただの領主としての教育しかしていません」
「ここまで気づかれているのなら仕方ない。一度北の要所に連れていくか。もちろん同行するよな」
「・・・側仕えは私ではありませんので適任者を配置いたしますのでお許しください」
ユーフィリアとアンの会話
「あの50人の盗賊たちもかわいそうですわね。おそらく死ぬ方が楽だということに後から気が付くでしょうから」
「ランベル様が本気になって1年も鍛えられるのです。原型など何も残っていないでしょうね。精神も肉体も。そういえば、キール様が北の要所を視察したいと言っていましたよ。私は側仕えでないのでご一緒できませんが、ユーフィリア様はどうぞ遠慮なさらずご一緒してくださいね」
「そうね、アイルに任せましょう。そろそろアイルに仕事を任せても大丈夫だと思っていますからね」




