~SS「山の日イベント」~
~SS「山の日イベント」~
『剣と魔法のストーレンラブ』では、色んなイベントがある。その一つに山登りというイベントがある。
それも山の日の1日限定イベントだ。こういう限定イベントってアイテムや称号が手に入るから結構すきなのだ。
あれはそう、ゲーム開始1年目の夏に起きた「山の日」イベントだった。
「遅いですわよ」
私の前をレイリア様が歩いている。歩きやすいズボンにブーツ。腰には剣鉈がある。この格好だけを見たらレイリア様が公爵令嬢とは思えない。
ちょっと大きめのリュックを背負っていますけれど、そのリュックはマジックバックだということを知っています。そのリュックは軽いんですよね。いいな。
「ほらほら、早く登った、登った」
レイリア様の横にはシルヴィア様がおられる。この二人はよほどのことがない限り一緒に行動をしている。シルヴィア様のリュックは色々入っているのを知っている。というか重すぎて私はシルヴィアのリュックを持てなかったのだ。
「空気がきれいだね。たまにはこういうのもいいね」
いや、山の中なのになんでルーファス王子はキラキラモード全開なんですか?
「いいな~。こういうの。叫びたくなるぜ。うぉぉぉお!」
レオニード様。山で叫ばないでくださいね。モンスターがやってくるかも知れませんので。まあ、今登っている山は王都近くにあるそこまで高くもなく、険しくもないハイキング用の山だ。
ゲーム開始時だとこの近郊の山でレベル上げのためモンスターを倒していたが、最近は来ることがない場所だ。
なぜって、安全だから。後は山頂から王都が一望できるのだ。結構よい景色なのだが、一応山なので、みなさんちゃんとした登山用の服装だ。
そう、私とアイル以外は。
アイルは普通のクリーム色のズボンに白いシャツに茶色のベストを着ている。そして、アイルだけ帽子をかぶっていない。8月の日差しは焼けるように熱い。だから帽子がないと熱中症になってしまう。暑いけれど、長袖なのは枝や虫対策だ。
アイルを笑う事はできない。私も茶色のズボンに 黄緑色のシャツに帽子をかぶっているだけだ。皆みたいに水分をはじきやすい素材でできた服は着ていない。あれ高いんだよね。
「そんな恰好で大丈夫なの?」
カチュアがそう声をかけてきてくれた。いえ、大丈夫じゃないですよ。綿だから汗は乾きにくいし、通気性も悪い。
「ええ、心配しないでください。ちょっとお金がないから普段着でしか来れないんです」
アイルはこういう時ストレートに話すんだよね。結構かっこいいと思う。
「男爵というものは大変なのだな。爵位を上げる努力をこれからするよいいよ」
ルーファス王子。いいですか。爵位ってそう簡単にあがりませんよね。それに、爵位は上がると給金も上がるけれど、納税額も上がるんです。つまり、自領が発展していないのに、爵位だけあがってしまったら大変な事になってしまう。
「この素材の端材でできた商品もあるから、それならそこまで高くないでしょ」
カチュアがそう教えてくれたが、私たちは明日食べるのも必死なんですよ。それに元の値段から見たら安いでしょうけれど、その端材で出来た服1着の値段で、今私が来ている服なら20着も買えちゃうんですよ。そのセリフって、パンがなければお菓子をたべればと一緒ですからね。
「その服はあこがれますけれど、手が出ないですね。でも、大丈夫です。私にはこれがありますから」
アイルはそう言ってポケットからキノコを取り出した。ああ、MP回復用のキノコだ。見た目が紫と黒という毒々しいけれど、MPの回復にはかなりよいアイテムだ。
ただ、使いすぎると幻覚が見えるから、用量はよく守らないとダメなキノコだ。確かこの山でも手に入れられるアイテムなんだよね。アイルはここによく来るのかな?
「ここで話していても非効率だ。先に進もう」
ターメリックがそう言って歩き出した。先頭はレオニードとシルヴィアだ。この二人が邪魔な枝や草を切り払い、道を作ってくれている。その後にルーファス王子とレイリア様、ターメリックとカチュア。そして、私とアイルが最後を歩いている。
「また、あなたと一緒ですか」
まあ、攻略対象の近くに行けないのは残念だと思いますが、あきらめてください。だって、ステータスが足りていないのですから。後は親密度も。
でも、この山登りイベントはターメリック、カチュア狙いだと外せないイベントなんですよ。まあ、ルーファス王子狙いの時だとカチュアを味方につける必要があるのでこのイベントは必須ですけれどね。
そう、この『山の日』イベントは特定キャラに特化したイベントなのだ。ちゃんとステータスを上げていればの話しだが。
緩やかな傾斜が続く。といっても、私はドカーケにいた時もあまり森の中を歩いたことがない。
危ないからという理由だ。過保護に育てられたなと思う。だからこのメンバーの中で一番体力がないのだ。だから少しだけ休憩をしたいとアイルに伝えた。ゲームでもこういう展開なのだ。別に私が遭難するイベントではない。私がここで休憩するからアイルが前に進めるのだ。
「じゃあ、ちょっと先に行っているわね」
「後で追いつくから」
というわけで、体力回復タイム。もうね、へとへとです。キールは体力がないですからね。回復アイテムは高いけれど、アイルがキノコをくれた。まだ食べない。これはもう少し落ち着いてからだ。声が聞こえるはずだから。
「きゃ~」
カチュアの声が聞こえた。私はその声を聞いてからキノコをかじり前に向かって歩き出した。
目の前で起きている事。それはカチュアが足を滑らせて落ちそうになっているのだ。それを助けようとしているターメリックとアイルがいた。あれ?おかしい。順番が違う。ターメリックが木をつかみ、体を支え、アイルが崖に近づきカチュアを助けるというシーンのはずだ。だが、アイルとターメリックの立ち位置が反対なのだ。
アイルがターメリックを支えている。そう言えば、ネットで見たことがある。アイルの腕力の方が高いと立ち位置が変わるのだ。確か変わるとフラグの意味が変わったはず。
「さあ、捕まって」
「ありがとう、ターメリック。助かったわ」
ターメリックとカチュアの二人の親密度が上がるのだ。特にカチュアは結構ターメリックの事が好きなのだ。髪型や服装を変えるくらいだ。だが、まだイベントはあるんだ。この山にはレアモンスターがいる。この山の日イベントだと高確率で出会えるのだ。
「もきゅ?」
私の後ろにそれはいた。かわいい一本角の白いうさぎだ。
「ラッキー。最高じゃん」
え?なんで先頭にいるはずのレオニードが私の後ろに?
「大丈夫そうですね。はぐれたのが見えたので引き返したのです」
私の天使であるシルヴィアが横に。ああ、このままその胸に抱かれて死んでいきたい。結構理想的な展開だよね。
「あ、ありがとうございます」
さすがにぐふふとか言えないのでちゃんとお礼をいった。至近距離のシルヴィアはまじで美人だ。凛々しい姿に負けそう。いや、勝とうと思ったことなど一度もない。
「そうね。体調が悪いのならちゃんと言うべきよ。これは課題なのですから」
いつの間にかレイリア様まで近くにおられた。
課題。そうなのだ。この山に登り、野営をする。それが学園からの課題だ。
野営する場所の候補はもらっている。だが、それ以外の場所でも問題はないらしい。私が遅れていたるためか、目的地にたどり着けそうにないことがわかった。
「この近くに小川がありましたね。その近くにしましょう」
シルヴィアがそう言ってくれた。本当にマジ天使だ。レイリア様は私に目線だけ送ってきた。目線の先にいたのはアイルだ。アイルは隙あらばルーファス王子に話しかけようとする。
「ねえ、アイル。ここから小川までの間、小枝を拾っていきましょう。枯れている木でないと燃えないそうですし」
アイルが一気に残念そうな表情になった。というか、ヒロインがしていい表情じゃないよね。というか、こんな顔芸キャラだったっけ?
「拾ってくれると助かる。僕たちは食べられそうな木の実を探してくる。君たち二人には期待している」
ルーファス王子はそう言いながらアイルの肩をぽんっとたたく。
「かしこまりました。ルーファス様!」
あら、さっきまでのアイルはどこへやら。そして、ものすごくいい笑顔でした。さっきとはえらい違いです。気が付いたらアイルは高速で落ちている小枝を拾っていた。うん、何も突っ込まない。
小川付近の河原でターメリックとカチュアがテントを設営していた。距離は少し離れている。
「男女で分けた方がいいだろう」
ターメリックが色っぽい声でそう言ってきた。うん、やっぱりこの人かっこいい。でも、私の推しじゃないんだよね。それに、ターメリックとカチュアはお似合いの二人だ。邪魔したらダメだ。
「火をおこしましょう。早い方がいいですよね」
アイルはノリノリだ。手伝おうと思ったらアイルは魔法でちゃんとしたかまどを作り出した。
「シンフォニア男爵令嬢はすごいな」
ターメリックがメガネのブリッジを上げてそう話した。そう言えば、ターメリックって細やかな魔法が苦手なんだよね。勉強はできるけれど、魔力が高すぎるせいか魔法制御が苦手なのだ。
「ターメリックはすごい所が多い。気にしない」
カチュアがフォローしている。もうリア充爆発すればいい。私はその間に川魚がいるのか確認をして釣り竿を作ろうとしていた。
「電撃」
アイルが川に魔法を放つ。するとぷか~って魚が浮いてきた。私を見てサムズアップしないで。
というか、魚多すぎでしょ。そう思っていたら森の奥からレオニードとシルヴィアが出てきた。レオニードは倒したイノシシを担いでいる。おかしい。普通は山の中だと食糧確保に苦しむのに、魚にイノシシと食べ物が豊富だ。
「ふむ、魚も多いな。では、魚はスープにして、このイノシシは焼いて食べるとしよう」
シルヴィアはそう言うとリュックから色々取り出してきた。ってか、あれだけ重かったけれど、そのリュックはマジックバックだったんだ。
アイルの魔法でキッチンっぽいものも作られ、かまども作られました。おかしい。野営ってこうじゃないはずだ。だって、テントがなくなりコテージに変わっている。もはやなんでもありだ。
「いい匂いがする。ひょっとしてこれらはいらなかったかな?」
ルーファス王子とレイリアが森からやってきた。手にはフルーツと食べられる野草があった。
「それ、いただきますね。スープに入れます」
シルヴィアはそっとレイリア様から受け取り下処理をはじめる。二人にお茶を出すか。給仕はできる。というか、学園の合間でアルバイトをしているからだ。
紅茶を作る。というか、野営だったはずなのに、すでにコテージができているし、くつろげるスペースもある。野営気分を味わうためにコテージの中にテントが建てられている。つっこみが追い付かない。
お湯も簡単に沸かせられるし、茶葉もちゃんとある。
「あ、その茶葉は蒸らす方がおいしいよ」
シルヴィアと料理をしていたアイルが教えてくれた。
「ありがとう」
蒸らしてみると味わいが深くなった。そのままルーファス王子とレイリア様にお茶を出す。
「まさか野営でお茶が飲めると思わなかったな」
「そうですね。みんな張り切っていますから、後で声をかけてあげてください」
張り切る方向が違うと思いますけれどね。料理も野営とは思えない凝ったものが出来上がっていた。
料理の指揮はシルヴィアがしたらしい。ちなみに、コテージについては木を伐採したのはレオニード。
それを加工したのがアイル。組み立て指示をしたのがカチュアだ。組み立てはもちろん元気いっぱいのアイルが行いました。
私は単なる雑用。モブですからね。椅子やテーブルを並べたり、テーブルクロスを敷いたりしてましたよ。というか、なんで皆さんこんなにいっぱい持ってきているんだろう。
「みんな、これは課題だ。野営を楽しもう」
ルーファス王子は食後にそう言ったが、すでに遅かった。なぜなら、この様子を見た先生たちは頭を抱えていたからだ。
夏の日の思い出だ。ちなみに、私はアイルを見はるため寝ずの番をしていたが、アイルは全力で眠っていた。
レイリア様。本当にこの人警戒した方がいいんですかね?恋愛に関して結構ポンコツですよ。
夏の日の思い出だ。キールの中の記憶。




