~初陣ってこういうのを想定してなかった~
~初陣ってこういうのを想定してなかった~
朝。心地よく私は起きました。テントの外から色んな音が聞こえていましたが気にせず寝ました。ええ、あれは気にしたら負けです。私の護衛のため近くで寝ていたルースは寝不足なのか少し気怠そうだ。
だが、テントの外に出てアイルを見るとむっちゃいい笑顔をしていた。しかもなんだか褒めてという顔をしている。反対側を見て思った。直立不動の10人の坊主頭をした男性がそこに立っていた。
「「「「おはようございます。お嬢様!!」」」」
全員が私を見るなり腰を90度に曲げた。しかもちゃんとそろっている。髪はどうやって坊主になったんだろう?バリカンなんてこの世界にないし。すぐ近くにいるアイルがそわそわしている。何か褒めてほしそうだ。仕方ないな。
「アイル頑張ったのね」
「はい、頑張りました。さわやかさを出すために髪をすっきりさせた方がいいと提案を受けましたので、胆力を上げるため立たせて斬撃で散髪をしました。難しかったけれど手先の技量があがった気がします」
あれ?アイルがまともアイルだ。しかもやたらテンションが高い。内容は考えたら駄目だ。斬撃で散髪とか、胆力上げるとか、こういうのは聞いたら修行がはじまってしまう。
「まあ及第点ですね。何名か怪我をしたようですし。それとこの者たちは調べたところ冒険者や傭兵でした。すでに身辺整理も済んでおります。脅されていた者はおりませんでしたが借金があったものについてはその証拠をすでに破棄しております。そしてこの10人を雇ったのは港町リムドの地場商会のムドー商会だそうですが、ムドー商会に確認すると番頭が勝手にやったと主張。その番頭は確保しています。いかがいたしますか?」
そう言ってユーフィリアが一人の男を差し出してきた。もちろん縄でくくられている。目はどこを見ていいのかきょどっているのか色んな所を見ている。かわいそうだ。
というか、襲撃は夜だったはずなのに、もうすでに番頭まで確保している。私は番頭に向かってこう言った。
「ねえ、あなたはムドー商会に忠誠を誓っているの?何か弱みを握られているの?」
そう聞いただけなのに、「ひぃっ」と言ってぶるぶる震えだした。
「お嬢様、すみません。この者についてはまだ教育が終わっていません。午後にはちゃんと会話できるよう教育しますので。ちなみに、家族は人質に取られていました。すでに回収済みです。仕事ぶりは可もなく不可もない感じですね。まあ、切り捨てられ役として存在していたみたいです」
『切り捨てられ役』と聞いてなんだか親近感がわいた。だって、私の存在ってトカゲのしっぽ切り要員だったんだもの。この人も同じってことでしょ。
「ふ~ん、ちょうどうちって文官候補少ないから使えそうならと思ったんだけれど、どんな感じなのかなって」
「お嬢様がそこまで慈悲をかけられるとは。かしこまりました。今日の討伐時の側仕えはアンに任せるとし、私はこの者を教育いたしましょう。絶対に裏切ることのない忠誠心を植え付けてあげますからご安心ください」
え~と、忠誠心って植え付けるものなのかな?全然ご安心できません。ただ、私がこのセリフで安心できたのは討伐時に私の横にユーフィリアが居ないと言う事だけだ。
「まあ、任せるわ。それで、この10人はどうしたらいいの?衛兵に突き出して犯罪奴隷にでもするの?」
私がそう言うと10人の夜盗崩れはこう言って来た。
「我ら一同。命尽きるまでキール様にお仕えいたします。死ねと言われましたらすぐにでも死ねる所存でございます」
重い、重すぎる。でも、目がマジだ。本気だ。多分、この人たち私が「じゃあ、死んで」とか言ったら本当に死ぬと思う。それくらい目が逝っているのだ。
「ロイ、あたなの下にこの10人をつけます。上手く指揮してください。副官はルースです。今は10名ですが、ロイにはこれから軍を率いることを覚えてもらいます」
こういうのは分投げるのが一番だ。というか、この時は何も考えずにこう言ったけれど、後で大変なことになるんだよね。まあ、それはまた別の話し。
「はっ。この者たちをうまく使いキール様から頂いた恩に報います」
え~と、私って何か恩を与えたっけ?ロイって確か負けて強くなりたいから付いてきているんだよね。私って何かしたんだっけ?
「ロイを支える役として私を指名していただきありがとうございます。公私ともロイを支えます」
まあ、ルースとロイはセットじゃないと危険だ。ルースが実家に帰ってしまったら刺客が送られてくるんだから。ん?公私ともにってことは結婚するのかな。それって私安全な展開だよね。これはいいことだ。
「ロイ、ルース。お互いが結婚することについては止めない。だが、あくまでそれは業務に支障がないと判断した場合のみだ。それを忘れるな」
ユーフィリアが場を締める。というか、もうユーフィリアが仕切ったらいいんじゃない。って、思った。
でも、この10人を放置されたら困る。これで落ち着いた。うん、なんか服の袖をひっぱられた。ひっぱった相手を見たらアイルだ。
しかもなんかすねている。ああ、そうか私がロイとルースを重用したからだ。アイルはたまに残念になるが基本的にスペックが高い。
「アイル。あなたに軍を任せないのはあなたを信用していないわけでも、能力がないわけでもないの。アイルは強いしなんでもできる。逆に私は弱いし、何もできない。剣も魔法もつかえないの。だからこそ私の騎士として側にいてほしいの。アイルだから安心して任せられるのよ」
実際にアイルは『剣と魔法のストーレンラブ』の主人公だし、ステータスは高い。たまに残念アイルになるがハイスペックなのは確かだ。
「わかったわ。それだけ私のこと評価しているのね。そっか。そっか」
なんかアイルがニヤニヤ笑っている。私は未だにアイルのキャラがつかみ切れていない。
「お嬢様。安心してください。剣も魔法も使えるよう特訓すればいいのです」
ユーフィリアが恍惚とした表情で私を見ている。恐怖だ。というか、なんか10人衆が「仲間がいる」みたいな目で私のことを見ている。ぜんぜんうれしくない。
「朝から騒がしいな。もうすぐルークセニヤ公爵がやってくると言うのに」
メガネを押し上げながらターメリックがそう言って来た。ターメリックは無駄にイケメンでクールだ。
だが、カチュアの婚約者。間違っても変な噂をたてていい相手ではない。確実に私が抹殺される。というか、社会的に抹殺される。だからターメリックとはできるだけ距離を取りたいのだ。
「「「「「おはようございます!!」」」」」
大きな声が響く。ターメリックは動ずることもなく声をした方を見た。
「おい、こいつらは昨日のやつらじゃないのか?」
「ターメリック様、ちょうき、いえ、教育済みです。大丈夫ですよ」
ユーフィリアが笑顔、しかもかなり口角があがった笑顔でターメリックにそう話す。目は笑っていない。圧を10人衆にぶつけているのがわかる。あのプレッシャーはヤバい。
「大丈夫です」
いや、どうしてターメリックにもその圧をユーフィリアはぶつける。仕方が無い。フォローするか。
「ターメリック様。大丈夫ですよ。彼らの身辺整理もすんでいます。裏切るようなことはありませんし、もしも裏切ったら死ぬよりも怖い現実が待っているだけです」
ちょっと脅しも入れてみた。だが、10人衆は私の言葉では動じていない。多分、こんな優しいセリフじゃなくもっと心をへし折るようなことをユーフィリアにされてきたはずだ。一旦破壊され、そして、認められ、今に至る。手順は洗脳に近い。
「そ、そうか。ならばよい。ではルークセニヤ公爵を迎え入れるために移動しよう。それで隊列はどう考えているのだ?」
私は昨日と違いズボンに剣を帯剣している。そして、白いレザーアーマーに白いマントを身に着けている。
白色にこだわりはなかったのだが、ユーフィリアから返り血を浴びた時に赤が鮮明に見えるから白色がいいですよと言われた。ユーフィリアの発想が怖い。んで、隊列についてだ。
「10名を含む私が先発隊、中衛はルークセニヤ公爵にお願いし、後衛をターメリック様率いる監査員20名で考えています」
これはある程度の場所を案内できるのが私だからだ。本来ならばターメリック率いる合計20名と先発隊をお願いしようかと思っていたが、ロイとルースそれに10人の忠実というか洗脳された兵士がいるおかげでこの布陣にすることができる。
それに、戦う相手は低レベルのサハギンだ。レべリングに丁度いい相手。それも地上に上がってきているサハギンの動きは遅い。だからモブのLv1でも盾と槍を使えば倒すことが出来るのだ。それにこの10人衆の装備品はなぜかそろっていた。
「ええ、予備や不足の事態を想定して用意していました」
アンにそう言われた。というか不測の事態ってどういうことを想定していたのと聞いたら、「盗賊や強盗などを組み臥した後に引きいれることを想定していました。もうちょっと多いかと思っていました」とアンに言われた。
え?今の状態って想定内ってことなの?しかも人数が少ないって発想が良くわからない。そう思っていたら馬車がやってきた。兵士は連れ立っていない。
「皆さんお揃いのようですねぇ。昨日はぐっすり眠れましたかなぁ」
ねっとりした話し方をするルークセニヤ公爵は馬車を降りてすぐに10人衆が整列をしているのを見て怪訝な表情をした。
「おやぁ?昨日まであんな者たちはおりませんでしたがぁ、どうされたんですかぁ?」
「いえいえ、昨日の夜に縁があって出会いまして、話してみたらどうやら働き口を探しているようでしたので受け入れました。すでに夜に一通りの訓練も済んでおりますのでご安心ください。それとも何か?」
ルークセニヤ公爵の顔を見るけれど何も変わらない。この辺りはさすがだと思った。
「いやね~この街のものということはルークセニヤの領民でもあるんですよねぇ。彼らはどこかに所属していたんじゃないですかぁ?もし勝手な引き抜きだとしたら問題ですよぉ」
「なるほど。では、それぞれに聞いてみましょう」
そう言って私が十人衆を見る。皆が両腕を後ろに組み、顔を上げて揃えてこう言って来た。
「「「我々はドカーケ様にお仕えしているであります。前所属先には退職することはすでに伝達済みで了承を得ているであります」」」
軍隊みたいだ。というか、昨日と話し方も顔つきも変わっている。というかすでに別人?
「ま、まあ、問題ないのならいいですぅ。本当にあいつらは・・・」
最後の方が小さな独り言だったがちゃんと聞き取れました。まあ、襲撃の事はなかったことになっていますからね。
だって、襲撃が知れ渡るとこの10人衆はどこかに連れて行かれてしまいますから。折角手に入れた私だけの軍であり人手です。ドカーケ領に戻ったら森林開拓か農地改良かどっちかに携わってもらう予定ですし。手が欲しかったのでうれしい限りです。
「それでは、前衛は私、後衛をルークセニヤ公爵とターメリック様にお願いしたいのですが」
「いや、ここはうちの領土だからねぇ。案内くらいはするよぉ」
ルークセニヤ公爵はそう言うなり先頭を歩き出した。両横に騎士が付き添っている。結構な手練れなのがわかる。しかも、注意は周囲じゃなくこちらに向けているのが痛いほどわかる。
仕方が無い。ここは受け入れるかな。もめても仕方が無いし。それに、今日でさくっと終わらせる予定ですしね。
なんて海岸につくまでそう思っていました。今私は戦闘を眺めているだけです。レベル上げをするためと思って来たのにアンから「総大将はどしっと構えて指揮をするものです」と言われてしまった。
そして、もう一つあの十人衆を率いるロイとルースがヤバい。ユーフィリアが送り出す時にロイに何かを耳打ちしていたのだ。内容は聞き取れなかったが、その後からロイのテンションがおかしいのだ。そう、行軍の時から士気がやたらと高かった。そして十人衆もだ。
海岸について前衛はロイ率いる十人衆が受け持つことになった。洞窟にはサハギンが群れて出てきている。
サハギンのレベルは1だ。大量にいるけれどただの経験値でしかない。いいな。私もあれ倒したい。
「お嬢様。我慢してください。私だって我慢しているのですから」
アイルが私の横でそれらしいことを言っているが、アイルは海岸で獲れた貝や魚を焼いて食べている。くいしんぼキャラにたまにアイルってなるんだよね。
「あ、この魚おいしいですよ。毒見したので大丈夫です」
アイルがそう言って渡してくれた。いや、もうあまり食べる所残っていませんからね、それ。
「うぉぉぉぉ!!!」
十人衆が叫びながら戦っている。盾で防ぎ、槍で攻撃する。ダンジョンのモンスターは倒すと死体は消えてアイテムやら何かに変わっていく。その回収をターメリック率いる監査員が行っている。
今回は王の命令でここに来ている。つまり戦利品は王にすべて献上しないといけない。だからこそ、彼らが回収し後で目録を作る必要があるのだ。
「お嬢様が見ているんだぞ。お前らが戦えることを証明しろ!無価値だと判断されたら地獄の訓練が待っているぞ」
寡黙なロイが珍しく叫んでいる。というか、地獄の特訓?アンを見るとものすごくいい笑顔で返された。『特訓』を避けるためにみんな頑張っているのか。
徐々にサハギンの数が減ってきた。まあ、楽勝だと思っていたら洞窟の奥からファイアーボールが飛んできた。2名が魔法で弾き飛ばされた。洞窟の奥に紫のフードをかぶったものが居る。あれはネムール教だ。
「アイル。あのフードをかぶったものを倒してきて。できれば生け捕りがいいけれど無理なら倒していいわ」
私の横でバーベキューを楽しんでいたアイルが「わかった」と言って走り出した。走った場所は洞窟に至るまでの壁。ってか、壁って走れるものなの?それってワイヤーアクションとかで見かけるけれど、実際を見たことなんてないんだけれど。
「お嬢様も壁走りを行いたいのですね。わかりました。特訓に入れておきます」
入れないで。ってか、あれ出来るって人類辞めているから。
気が付いたらアイルは洞窟の中にたどり着いていて中にいたフードたちを殲滅し終わっていた。あれ、生きているのかな?まあ、腕とか足とか切り飛ばされているけれど気にしないでおこう。
「ま、まさか私の領土にネムール教がいるとはねぇ。あいつらは見かけたら集団でどこかに潜伏しているからなぁ」
ルークセニヤ公爵が嫌なものを見たという表情をしていた。実際にどこを拠点にしているのかはゲームで知っているが、この街に長居をさせてもらえないし、する気もないから後はルークセニヤ公爵に任せるしかない。
それに、ネムール教が脅威となるのはもっと先の未来だ。
「まあ、それはルークセニヤ領の問題ですから、そちらにお任せします」
私は自分の立場を理解している。だからそう言った。それが一番平和だからだ。
「落ち着いたようですね。私たちも移動しましょう」
アンに言われて私たちは洞窟の中に移動した。洞窟はすでにダンジョン化していた。かなり広くなっているし、サハギンだけじゃなく、海ゴブリンも出て来る。
海ゴブリンは肌の色が緑じゃなく水色なのだ。なんか気持ち悪い。サハギンは三つ又の槍を使って攻撃してくるが海ゴブリンは剣で攻撃をしてくる。
死体は消えて、金貨やアイテムに変わっていく。調査員は皆アイテムボックスか何かを持っているのだろう。
いいな~。アイテムボックスとか便利だから憧れる。ゲームだとアイテム欄があるから私も使えるのかと思ったけれど駄目だった。
やっぱりモブだから?しっぽ切り要員だから?無いものは仕方ない。
「ここまでダンジョンが広がっているとはねぇ。もしモンスターがあふれ出していたら・・・」
ルークセニヤ公爵がそう呟いている。この場所でモンスターがあふれたら塩田が破壊され、ロンベルト王国内で塩不足になるのだ。塩がなくなると料理がおいしくなくなる。だから絶対に回避したかったのだ。
「お嬢様。そろそろ出番かと」
アンがそう言った。出番?どういうこと?そう思っていたら大きな扉の前にたどり着いていた。皆がそこで休憩している。
「では、これよりボス部屋へ突入する」
ロイがそう言って扉を開けた。そこに居たのは3メートルの大きさのサハギンロードだった。
「お嬢様。5分以内に倒してくださいね」
アンもスパルタだった。ってか、これが私の初陣なの?もうちょっと楽な所からはじめたかったよ。




