ハイエルン一族は面倒くさい。1
無事? プレオープンは終了した。
エリオットは帰らせました。
珍しくマルニーさんも居座ろうとしてたけど、
ミルラ様が引きずって行ったわ。
「皆さん、お疲れ様。
スタッフの皆さんは後片付けを。店長は懸念をまとめて。
ロベルトさんは、アンケートの集計ね。それが終わったら、店長とミーティング」
「「「はい! 」」」
「え。私が全部集計するんですか」
「そうよ。すぐ読みたいから、お願いね。
さっ、パパッと終わらせましょう。
あ、そこの貴方。貴方はこちらに来て下さる? 」
「? はい」
約1名ものすごく不満そうな人がいたけど、気にしない。
ロベルトさんの恨み節をBGMに、厨房の隅で私は問題児と向き合った。
どうしましょう。どう切り出せば良いのやら。
呼び出してから、5分。沈黙が続いている。
「お嬢様、私もご一緒して宜しいですか」
「ええどうぞ」
・・・・・。
ナチュラルに聞いてくるから、許可しちゃったわ。
リアムは私のすぐ隣に座り、自分のお茶を淹れ始めた。
ここ家じゃないからね。
目の前の従業員は、侯爵家らしいぞ。
一緒に聞いてたよね、さっき。
「……リアム、おかわり」
「二煎目でしたら、すぐに」
「私って主人よね」
「はい」
「そう、よね」
「で、二煎目で宜しいですか。淹れ直しますか」
「それでいいわ。もったいないし」
「かしこまりました」
「(いいんだ)」
なんか一気に疲れたわ。
もういいや。
サクッと話して、お帰り頂けば良いのよ。
「こほん。商業ギルドからの紹介と聞いたのですが、お名前をお伺いしても? 」
「ゲランです。何を聞いたのか、大体想像はつきます。
私は雇って頂いた身なので、その様な言葉遣いは必要ありません」
「では、ハイエルン家の方というのは事実ですの? 」
「今は関係ありません」
いやいや信じないよ。
例え本当だったとしても、私にリスクがあるのは変わらないから!
そんな無害そうな顔して、、、騙されないぞ。
「失礼ですが、ハイエルン家から除籍されたお話は聞いた事がありません。
ご事情がお有りでしょうが、私としては考えなければなりません」
噂にならないなんて、あり得ない。
家出なら侯爵家に送り返さないと。
逆にもし除籍が事実だったら、ハイエルン侯爵が徹底的に隠蔽したって事でしょ?
関わりたくない。ご遠慮願いたい。ロイドで精一杯です。困ります。さようなら。
「それは理解出来ます。
しかし、私の話を聞いて頂けませんか」
嫌だ。聞きたくない。
「私は―――…」
えー。勝手に話し始めちゃった、この人。
――――――――――――
――――――
―――
(ゲラン視点/シルヴィア視点)
俺は7代に渡り、近衛騎士団を任されるハイエルン家の三男に生まれた。
歴代最強の呼び声高い父と、その父に瓜二つの長男。武芸では劣るが、軍師として力を発揮する二男。
兄2人のどちらにも似ず、運動も勉強も平均の俺。
常に優秀な家族と比べられ、馬鹿にされ続ける毎日に辟易していた。
お前らだって、俺と成績変わらないじゃねーか。
なのに見下されるのは理不尽だ。
しかし、馬鹿にされる理由はそれだけではない。
父、母、兄…全員容姿が整っているのだ。
俺を除いて。
不細工なわけではない。平凡すぎた。
何を取っても平均なのに、容姿まで平凡ときた。
そうなると、どうなるか。
「ハイエルン家の三男は、夫人の不義の子ではないか」
これが、物心ついた頃からの俺に対する疑念だ。
父と長男は、仕事でほとんど顔を合わせる事はなかったし、下の兄も騎士学校の宿舎に入って居ない。
残された母は、俺の扱いに困った。
何をしても普通な為、褒めることも出来ない。
顔は夫にも自分にも似ていない。そのせいで、親族や一部の心ない人には陰口を囁かれる。
俺もスレたというか、陰気だった。
余計に可愛くなかったのだろう。
次第に俺を避ける様になった。
母との溝が深まったのは、高等部に上がった時。
二男が卒業し、帰って来た。
兄はすぐに違和感に気付き、使用人達から話を聞いたそうだ。
彼には母の気持ちが理解出来なかった様だ。
「何故、ゲランを無下にするのですか」
二男は頭はキレるが、心が綺麗すぎる。
母親が子供を無下に扱うはずがないと信じていた。
家族は無条件に大切にすべきと思っているのだろう。
人と喧嘩したり、悪口を言うところを見た事がない。
ピュアすぎるのだ。
そのくせ、軍師の名に恥じず戦略は鮮やかだ。
人は彼を聖人と呼ぶが、俺は変人だと思う。
非難されたと感じた母は、兄や父にひたすら構い、ついに俺を視界から外した。
父、自分、長男、二男の4人家族だと自分に暗示をかけ始めた。
一方で二男は俺を不憫に思い、仕事の合間にも会いに来るほど、猫可愛がりをする。
いつの間にか上の兄にも伝染し、泊まり込みだった仕事を減らし、家に帰る様になった。
初めは喜んでいた母も、存在しないはずの俺に構う息子達を見て、憎悪を向ける。
なんて事だ。そっとしておいてくれれば良いものを。
ほどなくして、母が俺に毒を盛った。
「―――それで、下の兄はショックで倒れて、上の兄は母を糾弾するし、父は職を辞そうとしたんです。
それで、親戚も巻き込んで何とか収めて。
私は卒業後、反対を押し切って家を出ました。
叔父を通して、籍を抜ける証書は提出済みです」
「そうでしたか。それは大変でしたね(いや話長いよ。てか奥様どんまい。兄弟愛ですね、分かります。
どうせなら、ご長男の溺愛エピソードも聞かせて頂けます?)」
「あの、それで。ハイエルン家とは既に縁を切ったと、ご理解頂けたでしょうか」
ええ、兄弟愛は理解しましたとも。
縁は全く切れてないと思いますが。
「一度話し合われた方が良いのではありませんか。
その上で当主が離籍を赦したなら、
再雇用しないでもありません(萌えを提供してくれる限り)」
「そんなっ。ですが、ギルドにはこちらで雇って頂けると聞きました!
ギルドと商会で契約だって結んでいるはずです!」
はうっ。尤もな訴え過ぎて、耳が痛い。
でもリスクは避けたい。
人の不幸より、私の安全が大事!
「それは申し訳ないと思っています。
でも、貴方が働く事で『シルヴィーカフェ』にどんな影響が出るか分かりません」
「しかし」
「今までのお店とは違います。
採用を見送られたのは、貴族だからでしょう」
「ですから、私はっ――」
「私は違います。その他大勢の貴族だからではなく、ハイエルン家のご子息だから難しいのです。
どれだけ貴方が関係ないと言っても、周りはそうは思いません。我がヴェルトハイムと王家の関係を邪推することでしょう」
「っここしかないんです。
仰る様に、私の出自が邪魔になっているのは事実です。
だからこそ、侯爵家より上の人物ではないと雇ってもらえません。
今それに該当するのは、ここだけです。
どうかお願い致します」
9割8分こちらが悪いのは承知してる。
でもな〜、騎士じゃなくて近衛騎士なんだよなぁ。
何かゾワゾワするし、絶対関わらない方が良い気がする。
「本当に、申し訳なく思います」
「お願いしますっ‼︎
もう、あんな家はうんざりなんです!
いっそ母の方が正常だっ。あんな毎日毎日、おはようのキスから始まり、夜は添い寝までっ……はっ、すみません。取り乱しました」
「今、なんと? 」
「あ、いえ、お忘れ下さい」
いやいやいやいやいやいやいやいや。
聞き捨てならなかったよね、絶対。
キスからの添い寝って仰いませんでしたか?
えっ誰に⁉︎
ねえ、誰に⁉︎
ちょっ、えっ、えっ?
「お嬢様、おかわりしますか」
「ええ。とびっきり冷たいやつで! 」
「めんどくさ…直ぐにご用意致します」
おおお、私のこの上がり切った熱をどうしてくれようかっ!
「まずは、家を出られるまでの生活を伺いましょうか。
出来るだけ詳しく。あ、お茶いります? ケーキも残ってたわね。
リアムー、ゲラン様にお茶とケーキを追加でっ」
「?? 」
「(ダメだ、雇う気だ。なし崩しで雇うハメになる)
お嬢様、落ち着かれた方が良いですよ」
「そうね、そうよね! ちゃんと細かく聞かなきゃね! 」
「もう結構です。ご忠告はしましたからね」




