ハイエルン一族は面倒くさい。2
「はぁ〜」
ベッドに寝そべって今日の出来事を思い返す。
ゲラン様に聞いた兄弟愛の数々。
素晴らしかった。
特に二男のクリスファン様は、度を超えていると思うの。
もはや禁断の兄弟愛を育んでいるのではないだろうか。
ぐへへ。
私のマシンガン並みの質問攻めに、戸惑いながらも答えてくれた彼は、唐突な終わりに心底ホッとしていた。
ロベルトさんめ。
とことん、間が悪いわ。
そう。私の至福の時間は「集計終わりました! 確認お願いします」の声で、終わってしまったのだ。
避暑地での思い出話の途中だったのに!
避暑地よ? バカンスなのよ?
致し方ないから、条件付きで雇う方向にまとまった。
だって、途中だったのよっ。
まだまだ聞けば出て来そうだったんだもの!
仕方ないじゃないっ。
条件 Ⅰ
来週のオープンまでに、正式にハイエルン家から籍を外し、平民に下る又は、一族と縁のない家に入る。
条件 Ⅱ
出自の事を無闇に他言しない。
何かしら接触があった場合は、直ちにヴェルトハイム家に報告する。
条件 Ⅲ
表立たなければ、一族と自由に連絡を取っても良い。
但し、無理のない範囲でシルヴィア・フォン・ヴェルトハイムに詳細を報告する。
大事なのは、Ⅲですね。
詳細を報告する、コレ重要。
条件 Ⅱ・Ⅲ に関しては、お安い御用ですとばかりに頷いてくれたけど。
Ⅰ がネックらしい。
それをクリアしてもらわないと、何も始まらん。
いくら証書を作ったと言えど、証人が叔父では効力が薄い。
侯爵が無効だと役所に訴えを起こせば、すぐにひっくり返されるだろう。
んー、困ったわね。
貴族派の人達に隙は与えたくないし。
よし、乗り込むか。
うん。1番手っ取り早いわ。
堂々と行くと噂になっちゃうな。良い方法はないかしら。
―――コンコン
「お嬢様、パザ店長から伝言です」
「入って。何かしら」
「……少し、服を整えて頂けませんか」
は?
店長からの伝言がそれ?
「制服が嫌だったって事? 」
「いえ、まだお伝えしてません。
その、ネグリジェが乱れているので、入室しづらいです」
おや、おやおやぁ?
リアムも年相応に可愛いところ、あるじゃな〜い。
「ふふ、どうして気になるのかしら。
別に私は気にしないわよ?(ニヤニヤ)」
「何を想像されているのか知りませんが、あまりのだらしなさに眩暈がします」
あっ、さいですか。
へーへー分かってますよ。
お見苦しい姿をお見せして、すみませんでしたー。
ふんっ。
「これで良いんでしょ。早く入りなさい」
「失礼します。
アンケート結果を元にした改善案が知りたい、との事です」
やば、すっかり忘れてた。
急いで目を通さなきゃ。
どれどれ。
わー、すごく見やすく出来てる。
あの短時間でまとめたとは思えない。
小心者な性格だけど、仕事はやっぱり出来る人だ。ロベルトさんは。
カフェの奉仕は2週間にまけてあげよう。
目立つのは、コーヒーの色についてね。
特に女性は勇気がいるみたい。
苦味がウケるか不安だったけど、まずまずだわ。
苦くて飲めない、美味しくないと感じた人は全体の4%。
むしろ想定を下回った。
……ふむ。「店員に聞かないとメニューが分からない」という意見も多いな。
たしかに、この世界の人にはほとんどが知らないものよね。
メニュー表に説明を加えましょう。
ドリンクに関しては、比較表を作っても良いかもしれない。
あとは、ナニコレ。
カレーばっかじゃない。
コーヒーを褒めろ!
この「スイーツを増やして欲しい」なら徐々に対応出来るわ。
意外と接客は大丈夫そうね。
オーダーをなかなか取ってくれない、とあるけど……おそらくメニュー説明に時間がかかったせい。
メニュー表を分かりやすくすれば、即解決。増員の必要なし。はい、OK!
「はい。これを渡しておいて。
あとは店長に任せるわ」
説明の文言を書いた紙をリアムに預ける。
改善案と呼べる様なものは、これくらいしかなかった。
つまり、結果は上々と言う事でしょう。
「ねえ。秘密裏にハイエルン侯爵にお会いしたいのだけど、無理かしら」
「無理ですね」
即答だと。
「殿下にお願いすれば宜しいのでは」
「余計にバレない? 」
「そこは殿下の裁量です。
そもそも、ハイエルン侯爵もご長男も王城にいらっしゃいます」
そらそうだ。
なんなら、クリスファン様も第1騎士団所属だからワンチャン会える。
「明日、相談して来ます」
「それが良いでしょう」
「はい」
3日後。
ひょー。
いつ見ても荘厳だわ。
よく考えたら登城するの久しぶりかも。
エリオットと会うのは、家か学園だし。
「やあ、シルヴィア。待ってたよ」
「エリオット様、お招き有難うございます(お出迎えは断ったはずなのに! )」
「早速部屋でお茶でも飲もう。
シルヴィアが好きな焼き菓子も用意したんだ。
それから――…」
「まあ! 嬉しいですわっ(本題忘れてないでしょうね)」
「(せっかく色々集めたんだげどな)
……さ、入って。ああ、今日はライアンとミルラの代わりに、彼等が護衛係なんだ」
後ろに控えている男性2人が一歩前に出た。
「お初にお目にかかる。
近衛騎士団所属、ギルベルト・フォン・ハイエルンだ。
こちらは団長のカリス・フォン・ハイエルン」
「シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムです。
いつもライアン卿とミルラ様に良くして頂いております」
もっとイカついムキムキマンが出て来ると思ったのにっっ!
さすが乙女ゲームの世界っ。
強面を差し引いてもイケメン!
30代くらいに見えるカリス団長と鋭い眼光が逆にエロい、ギルベルト様。
直接は関わりたくないけど、ずっと眺めていたい。
その色気は何なんですか、修羅場を潜り抜けたからですか。
しまって下さい。
本当にゲラン様……いやゲランきゅんと血が繋がっているの⁈
そりゃ、邪推されるよ。違い過ぎだわ。
だからこその溺愛ですね。分かります。ぐ腐。
あー、ヒロインに早く萌えを提供してもらわなきゃ。
私が腐界から戻れなくなってしまう前に。
「では行こうか。
今日はリアムだけじゃないんだね」
「え゛っ、彼は新人でして。連れて来ちゃいました? 」
実は、ゲランきゅん連れて来ちゃった。わりと強制的に。
一応、帽子を目深に被らせて来たけど、意味なかった気がする。
申し訳ないが、オーラゼロ、怪しさゼロ。
とにかく影が薄い。
普通は気付くのが当たり前だけど、むしろ良く気付きましたねレベルなのよ。
ある意味すごい。
「さて、もう下がっていいよ。
団長も居るから安全だしね」
エリオットは入室するなり、お茶一式を運ばせ人払いをする。
「カリス、どうだ」
「気配はありません」
「そう。じゃあ、シルヴィア自由にして良いよ」
「それではお言葉に甘えて」
私はゲランきゅんを隣に座らせた。
それを見て、団長とギルベルト様は「?」マークを浮かべている。
「いつも、こうなのですか」
にわかに信じられない、という顔でマジマジと私達を見るギルベルト様にエリオットは笑いながら応える。
「いや、今日は特別だよ。
君達も座りたまえ」
「いえ、そういうわけには」
「まあまあ、座りなよ。
シルヴィアが話があるんだってさ」
「ヴェルトハイム嬢が我々に? 」
いやー、訝しげですねー。
大丈夫です。そんなにワガママは言いませんから。
ちょっと、ゲランきゅんの籍を抜いてくれるだけでいいんです。
「はい。実は折り入ってお願いがございまして。
今日の警備の配置替えも、それが理由です。
騙す様で申し訳ありません」
「……説明して頂きたい」
「もちろんです。
その前に、ご紹介いたします。
ウチに就職希望のゲラン様です」
満面の笑みで紹介すると、ピタッと固まって動かなくなった。
あれ、ゲランきゅんまで?
親子ねー。3人揃って。
ブクマ&評価有難うございます!
次回も宜しくお願い致します。羊




