エゴとエゴ。
うっ、眩しい。
もう朝?
全然疲れがとれてない。
昨晩は散々だった。
夕食のメニューは、
サラダ
ミノタウロスのフリット(ビフカツ)
おすまし
ごはん
フルーツ
フリットはデミグラスに似たソースがかかっていたから、和洋食のような感じだったけど、控えめに言って最高だった。
最高だった。途中までは。
もうお通夜状態になっちゃった。
一瞬で味が分からなくなったもの。
その後は報告と言う名の尋問が続いて、
だけどお父様はブレなかった。
エリオットとリアムには、それはもう厳しかったけど、
私にはゆるゆるだった。
逆に優し過ぎて恐い、今も。
ジーモはランドルフと一緒に帰るって言ったけど、お父様が強く止めたのよね。
テレサの為っていうだけじゃないニュアンスだった。
ランドルフに預けた手紙と意味があったのかしら。
「おはよう、シルヴィア嬢」
リアムに手伝ってもらい支度を済ませると、食堂にはジーモが居た。
「おはようございます。
昨日は夜遅くまでテレサ様に付き添われていたと聞きましたが、ちゃんと眠れましたか? 」
その眼の下は何。徹夜ですか?
「ああ、ちゃんと眠れたよ。
ありがとう」
「(嘘つけー!)まあ、それは良かったですわ。
テレサ様はいかがです? 私も学校へ行く前にお伺いしたいのですが」
「まだ、目が覚めないんだ。
でも穏やかな寝息を立ててたよ。
ぜひ顔を見せてやってくれ」
「はい。
ところでジーモ様は、本日どうされますか。
必要であれば、学園にお休みの連絡を入れますよ」
「いや、大丈夫。
実は、先日から休学中でね。
気遣いありがとう。アレンが溺愛するのも分かるな」
余計なお世話だった。
何ともない様に仰るけど、半分謹慎みたいな意味を含んでますよね、それ。
宰相の指示ですか。
ああっ、私ったら、そんな時に申し訳ない!
重くなっちゃったら、どうしよう。
お願い! 神様 仏様 ランドルフ様ー!
――――――――――――
――――――
――コンコン
「失礼します。ヴェルトハイムです」
「やあ、シルヴィア。早いね」
ええ。直行して来ましたから。
「あら、エリオット様とランドルフ様だけですか?
他の皆様は…」
「今日は午後だけにしてもらったんだ。
だから僕等とシルヴィアだけだよ」
私が、朝から押しかけるのは織り込み済みってわけ。
むぅっ。
「そうですか。
では、始業まで時間もありませんので、手短に昨晩の共有をしましょう」
「私から話そう。
シルヴィア嬢。まだ全てを理解出来たわけじゃないが、あの人を助けてくれてありがとう。
父上は今回の件、子爵が騒がない限り静観すると決めた。
ヴェルトハイム公が一筆書いてくれたおかげだ」
良かったぁ〜!
でもお父様、一体何て書いたのかしら。
「とんでもございません。
ローレヌ公のお心が広くて助かりました。
ジーモ様は一睡も出来なかった様ですが、テレサ様はきっと大丈夫ですよ」
「――そうか。
父上から口止めされた。だから母上には話せていない。
君と兄さんには、申し訳ないが」
「どうしてですか?
私もジーモ様も、サラ夫人が傷付く事を望んでいません。
話したくない事は、話さなくて良いのです。
冷たい言い方になりますが、夫人は二度とテレサ様に関わりたくないでしょう。当然です。
テレサ様には……このまま静かに王都を離れて頂くのが最良と考えます」
「それでは兄さんが!
私達は、テレサ嬢を受け入れなかった。彼女が社交会で孤立する事は想像に容易い。惨めだっただろう。
私はっ! ローレヌの名を護る為、彼女と兄さんを犠牲にしたんだ。
これ以上、追いやる事は出来ない。あまりに惨過ぎる」
ランドルフは真面目過ぎだと思う。
私達、まだ子供よ?
誰が貴方を責められると言うの。
その真面目さ故に、追い詰められてしまったのね。
…少し、ゲームで機械人形と呼ばれる彼を垣間見た気がした。
「だからこそです。
ジーモ様とテレサ様、サラ夫人の犠牲で今のローレヌがあると言うのなら!
もう、自由にさせてあげるべきではありませんか?
誰も悪くないんです。
その血に流れる貴族の誇りの為に、愛する人を捨てた貴方のお父様も! 夫の側に違う誰かが居ると知りながら嫁いだ、貴方のお母様も! ただ流されるままに何もしなかったテレサ様も。貴方達、兄弟もっ。
誰も、悪くなくて、皆んな愚かなんです。
私達は、そういう生き物だから」
「っ。君はっ、何なんだ? 」
え?
「貴族の振る舞いをしながら、平然と貴族を否定する。
何故そうもズカズカと入って来れるんだ。
見返りもなく、簡単に助けてくれる。
今も、こうやって私を諭してくれる。
君は凄い人間だ。本当に天使なのかと錯覚する時もある!
……そして、恐いくらい傲慢だ」
「ごう、まん……」
ど、どうしよう。
我慢の限界ってヤツですか!
土下座した方が良い?
とりあえずいっとく?
「これ、父上から君に。
父上が言っていた。シルヴィア嬢は特出して優秀だ。
だけど、貴族であるなら、近付き過ぎてはいけないと」
手紙?
宰相から。
というか、そんな納得しました みたいな顔で言われても
私にはサッパリなんですが。
「「・・・」」
「ひとまず、共有は終わったかな?
あと15分でベルが鳴る。教室に向かった方が良い」
エリオットの声で、時間の流れが戻った様な気がした。
そうね、そろそろ移動しなきゃ遅れるわ。
「とりあえず、テレサ様の事は保留という事で宜しいですか?
お手紙、確かに頂戴しました。
後ほど拝読させて頂きます。
それでは、エリオット様、ジーモ様、ごきげんよう」
去り際にエリオットに「泣きたくなったら、いつでもおいで」と、囁かれた。
解せぬ。
「あら、シルヴィア様。
今日は執事と一緒じゃないのですね」
「ええ少し用事があったもので。
おはようございます、エリザベス様」
教室に入れば、エリザベスがにこやかに手を振ってくれた。
「おはようございます。
……どうかされましたか? 」
「え? 」
「いえ、気のせいだったら良いのですが、悲しそうな表情をされているので……嫌な事でもあったのかと」
私が、悲しそうな?
だからエリオットもああ言ったのかしら。
自覚はないけど、そっか。
悲しかったのかも。
“傲慢”
まさしく私にピッタリだけど、ちょっとへこむな。
「シルヴィア様? 」
「ふふっ、違いますわ。
少し疲れが顔に出てしまったんだと思います。
ありがとう、エリザベス様。
もしその時は、ぜひお話聞いて下さいませ」
「えっ!
私がですかっ⁉︎ もちろんですわ!
いつでも仰って下さい。最優先で伺いますわっ! 」
「あ、いえ、そこまでしなくても」
「お任せ下さいませ! 」
「あ、はい」
あれ、少し気分が軽くなったかも。
すごいわ。エリザベスパワー。
違うな、エリザベスセラピー?
――――――――――――
――――――
「すまない」
「何がだ? 」
「止めてくれて。
どうかしていた。年下の彼女に当たるなんて」
「そうだな、らしくなかった。
君にも感情的になる事があると知れて良かったよ」
「…すまない」
「少し、分かるよ。
シルヴィアはたまに、全く違う視点からものを言う時がある。僕より、遥かに優れていると言われている気がしてね。だから彼女に追いつけるか必死なんだ」
「まさか」
「本当だよ。
あの子は僕のずっと先を歩いている。
おかしな話だ。けど、必ず追い越す」
「大切なんだな」
「ああ。力を得るには常に優れていなければならない。
でないと、シルヴィアを護る事は出来ないからね」
* * * * * * * *
(アレク視点)
「昨夜から子爵家のメイドが見当たりません。
どうやらグラビエル邸にも戻っていないようです」
「そうか。シルヴィー達に聞かれれば、グラビエル家へ戻ったと言っておいてくれ」
「宜しいのですか」
「ああ、ハッキリするまでは」
可能性が高いのは3つ。
1つ、ミレー自身が今回の件に関与していた
2つ、何者かに囚われている
3つ、消された
彼女の言葉や戸惑いが嘘だったとは考えにくい。
1はないだろう。
2か3か。
昨日の口ぶりではスペント子爵の上、伯爵以上を疑っている様だった。
となれば、2でもない。
綻びが出る前に始末するのがベストだ。
つまり――
「彼女は既に死んでいる可能性が高い。
捜さなくていい」
「それはっ」
「もし、殺されていたなら、それは彼女の考えが正しかったと言う事だ。
伯爵家以上の者が絡んでいる。
刺激すべきではない」
「真相を暴かなくて良いのですか」
「シルヴィアやアレンを危険に晒さない為なら、些細な事だ」
「出過ぎた真似を申しました。
そのように」
2日後、グラビエル家の制服を着た女性の死体が用水路で発見された。
特に不審な点がない事から、足を滑らせた事故死と断定され、荼毘にふされたらしい。
机の引き出しから、小さな瓶を出す。
コレは彼女から預かった物だ。
彼女は偽物の瓶を持って行った。
だが殺された。
ならば罪を認めたも同然。
明言は避けていたが、恐らくボルテー伯爵家だろう。
実行はスペント子爵家だろうが。
全く素晴らしい忠誠心だねぇ。
テレサ嬢も、良いメイドを育てた。
あまり踏み込み過ぎてはいけないと忠告したのに、困ったな。
しかし、おかげでシルヴィー達が首を突っ込まずに済んで良かった。
あの子達なら、調べ上げてしまいそうだからね。
優秀な情報屋とも、いつの間にか繋がり持っちゃって。
「ありがとう、ミレー。
君の尊い忠誠心のおかげで、子供達は暫く大人しく過ごすだろう」
さて、可愛いシルヴィーはショックを受けるに違いない。
何か良いケアはないか探しておこう。
テレサ嬢とジーモ君にも気をかけないと。
せっかく天使が拾って来たわけだし。
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――――――
―――
「お嬢様っ! 落ち着いてお聞き下さい。
今朝方、発見された女性ですが……
ミレーさんではないかと」
マリエラは何を言っているの?
ミレーはグラビエル家に戻ったって、スチュワートが言ってたじゃない。
「―――うそよ」
私達だけが何も知らないまま、ミレーの死と供に事件は幕を下ろした。




