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新作発表会と〈祈り〉の香水。1



「そうでしたか。ありがとうございます」



「シルヴィア。王族である以上、僕は国と君であれば、国を選ぶだろう。

でも最後まで味方でいると約束する」



「私が剣を向けてもですか?」



「ああ、約束する」



「ふふっ、何ですの、それ。矛盾してますわ。

敵であっても味方だなんて……。

もし、そうなった時は信じてますわ」



彼は聡い人だから、何か感じ取ったのかもしれない。

でも笑っちゃうわっ、告白するみたいな顔で言うんですもの。

私が何も知らないシルヴィアだったら、素直に喜んで、彼と一緒になれれば幸せなんだろうな。



「シルヴィア、おかわりぃ」

 

……いつの間に、蒸溜水飲んだの。君達。

まあ、今回欲しいのはオイルだから良いけど。



「良いわよ。でもまずはお片付けが先。

オイルをブレンドしたいから、戻りましょう」



慣れた手付きでエリオットとリアムが片付けを進める。有能。



「お嬢様、終わりました」



「うん、ありがとう」



全部やらせてすみません。



「オーベロン様、屋敷の中へどうぞ。

甘いものはお好きですか?」





室内に戻り、スチュワート、マリエラ、トマス、

マルニーさん、ミルラ様、ライアン様に事情を説明する。

〈祈り〉の事は、エリオットもリアムも黙ってくれていた。


マリエラはお母様に報告しに行き、スチュワートさんとマルニーさんは急いでお茶の準備。

トマスは頭を抱えながら厨房にダッシュ。

リアムとライアン様はテーブルセッティング。


マルニーさんは、ウチの執事だったんじゃないかと思えるぐらい、茶葉やら食器やらの場所を把握している。

リアムの先生をしてくれていたから、まだ分かる。

ライアン様、貴方は近衛騎士よね。

何、執事(使用人)と仲良くテーブルセッティングしてるんですか!

え? リアムと一緒に覚えちゃった?

……じゃあ仕方ないか。

「「(仕方なくないよ、シルヴィア

   仕方なくないですよ、シルヴィア嬢)」」

エリオットとミルラ様から、ため息が。

私なの?



「お待たせ致しました!

さぁ、お嬢様、いつでもどうぞ」



「やり切った顔ね、リアム。(ライアン様も)


オーベロン様、準備が整いましたのであちらの部屋で」



「うむ、そうか」



私は、ブレンドの準備ね。

今後は調香師も雇っていかないと。

そういう職種ってあるのかしら?


夫人の病み具合がエリオットからの話では分からなかったけど、宰相の妻が公の場を控えるというのは、

あまり良くない状態なのかもしれない。

ジーモとテレサにもケアが必要よね。

どうにか接触出来ないかしら。



「お嬢様、何故追加で香水を?

ロベルトさんが慌ててましたよ」



「ローレヌ公爵夫人にプレゼントするの。

せっかくご招待するんだもの、手土産が必要でしょ?」



本当は香水よりも、毎日アロマを焚いてもらった方が効果あるけど、仕方ないよね。

「コレを毎日お部屋で焚いて下さい!」なんて言ったら、変な子認定されてしまうかもしれないもの。



「なるほど、だ(・)か(・)ら(・)そ(・)の(・)ブ(・)レ(・)ン(・)ド(・)な(・)ん(・)で(・)す(・)ね(・)」



リアムは目的に気付いたみたいね。

まあ、その裏に毒殺事件があるのは、分からないと思うけど。



準備したエッセンシャルオイルとエタノールを混ぜて、香水の完成!

一応、蒸溜水を混ぜたオードトワレもつくっておこう。


ムエットにひと吹き、うん。良い香り。

すごく落ち着くし、リラックス出来る。

これだけリラックス効果、リフレッシュ効果、抗うつ効果の植物入れたら、そりゃ落ち着くよね。


みんなにも試してもらったら、好評だった。 

精霊達(ちびっこ)には、ちょっと強すぎたみたい。

鼻をおさえて悶えてる。

「植物がぁっ」「だいれくとぅ」「混ざってるぅっ」

ごめん。蒸溜水あげるから。



「娘、我にもジュースをくれ。

この茶も美味いが、それの方が好きだ」



「ジュースって蒸溜水(コレ)の事ですか?」




「そうだ。子供達はジュースと呼んでいたが、違うのか?」



蒸溜水がジュース………

不味くはないし、たまに飲むとデトックス!って感じがするけど、ジュースではないだろう。

ジュースってもっと美味しいものよ。

人間と精霊の違いかしら。



「どうぞ。他にも種類ありますけど、お飲みになりますか?」



「おおっ、それは良い!ぜひ頼む!」



あっ、威厳と神々しさが減っていく、、、

はしゃいでる姿も絵になるから、まあいっか。

精霊達(ちびっこ)と戯れる緑の王(イケメン)、非常に美味しいです。はい。



「先程、オーベロン様は成(・)功(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と仰いましたが、どのような効果が得られたのでしょう?」



「何だ、鑑定が使えぬのか?

浄化作用が付与されている。

浄化が必要な人間には、効果が大きいだろうな。

この屋敷内には……必要そうな者は居らんな」


鑑定魔法はレア魔法よ。

その魔法1本でも贅沢出来るくらいには。

都合よく使える人が居るなんて思わないでちょうだい。

ん?

そういえば、リアムは何でこのブレンドが夫人に最適だって分かったのかしら。

いつの間に、ハーブの効能なんて調べたの。  


まさか、鑑定魔法使ったなんて言わないわよね?




* * * * * *

ランドルフ視点



エリオットがシルヴィア嬢と帰ってしまったせいで、

生徒会の仕事はお開きになった。

進めておきたい内容もあったんが、まったく。


でも仲が良さそうで驚いた。 

エリオットは、あまり自分の話をしないし、人と楽しそうに話しているところを見た事がない。

注視しないと分からないレベルだが、

彼女の前ではコロコロと表情が変わっていた。


9歳の時、婚約者選びが始まったと言って、面倒そうにしていたが、大丈夫なようだな。

彼女も、才女だとか聡明だとか言われていて、

どんなすました人間かと思っていたら違った。 

シルヴィア嬢は、自分の気持ちに正直なんだろう。

さっきは、顔に「嫌だ」「面倒くさい」「帰りたい」と書いてあった。

それを見たエリオットの、なんとも言えない表情が面白かったな。



「「「おかえりなさいませ、お坊っちゃま」」」



「ああ、ただいま。母上は?」



「奥様は気分が優れない様で、今日はずっとお部屋に」



「そうか」



―――コンコン



「母上、ランドルフです。入りますよ」



ドアを開けると、母上は窓際に置かれた椅子から、

ボーっと窓の外を眺めていた。

私に気付いているのか分からない。

少し前までは、積極的に公爵夫人としての役割を果たしていた。

だがそれは、この1〜2年で崩れてしまう。


たった一言だった。

夕食でいつも褒めない父上が、兄を労ったのだ。

「卒業試験、2位だったそうだな。1位はヴェルトハイムか……良くやった」


私が中等部に入学した時、ヴェルトハイム家のアレン先輩が生徒会長、兄は書記をしていた。

中でもアレン先輩の活躍は素晴らしく、他の役員がほとんど霞む程だ。

だが、兄は徐々に存在感を増していった。

アレン先輩と一緒にいる事が多くなり、いつもセットで行動している様に見えた。

当然、父上の耳にも入っていただろうし。

家では小さく見えた兄が、学園では大きく見えて、

誇らしく思えた。

だから、父上の言葉が素直に嬉しかった。

「兄さんは認められたんだ!」そう思ったからだ。


だけど褒められたはずの兄と、黙って食事をしていた母上は違った。 

兄は困った様に笑い、母上は唇を噛みしめた。 


夕食の後、母上は父上に言った。

「ランドルフは、年度末の試験で1(・)位(・)をとりましたのよ」と。

それで、兄が何故困った顔をしたのか分かった。

1位をとった嫡男より、2位の庶子が褒められて戸惑ったのだ。

たしかに父上は私を褒めなかった。

だけど年度末の試験と卒業試験では重みが違う。

だから何の疑問にも思わなかった。  

しかし、兄と義母にコンプレックを抱く母上には、

十分だったのだ。


その晩の日から、少しずつ精神を病んでいくようになった。

父上が気付いた頃にはもう遅かった。



「母上、今日シルヴィア嬢に会いましたよ」



「シルヴィア嬢? 」



「ええ。『シルヴィー化粧品』のシルヴィア嬢です」



「まあ、そうなの」



反応が薄い……か。

気分転換になればと思ったんだが。



「そのシルヴィア嬢が、新作発表会に母上を招待して下さるそうなんです。行ってみられませんか? 」



「新作……」



「そうです。内輪向けの発表会だそうで、発売はまだ先ですが、特別にと仰って下さったんですよ」



「特別に……私を? 」



「そうです!だから参りましょう、私もお供します」



「ええ、そうね。せっかくだもの、行ってみようかしら」



「―――っはい!服装はどうされますか?

『シルヴィー化粧品』本店で行われるそうなので、

シンプルな服装が好まれますかね」



「ふふっ、ランドルフったら嬉しそうに。

貴方もシルヴィアさんのファンだったの? 」



ああ、母上が笑ってる。

ほんの一瞬だったけど、こんな柔らかい表情を見るのはいつぶりだろう。



「え、あ、いえ。ハハッ、そうかもしれないですね」




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