(第一部完結)新たなる仙人の登場と、管仲の秘密
これで第一部は完結となります。
ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございます!
次回から『仙境編』が始まりますが、以降は不定期で更新する予定です。
引き続き、よろしくお願い申し上げます。
赤精子と名乗ったその男は、太乙真人の首根っこを掴んでズルズルと引き摺って部屋の隅に投げ捨てると、俺に向かって腰を折って僅かに頭を下げた。
「オレの同僚が迷惑を掛けたな。同じ崑崙十二大師の一人として、詫びさせてもらう」
この人も、太乙真人と同じで崑崙十二大師なのか……。
つまりは、かなり偉い仙人様ってわけだな。
赤精子もまた、俺が抱いていた仙人のイメージとはかなりかけ離れていたけれど、太乙真人に比べれば大分マシだと思う。
艶の無い黒い染付の浴衣の上に、厚手の赤い外衣を羽織っていて、派手目の色遣いながら、彼の迫力のある体躯と良くマッチしていて、漂う威厳と風格が常人とかけ離れた存在であることを予感させている。
漆黒の髪と浅黒い肌の中に、燃えるような赤い目が際立っていて、赤精子が理外の力を持っているだろうことが、聞かずとも一目に理解できた。
「うむ……。そこの馬鹿が言ったおった通り、貴様は仙骨持ちのようだな。全く、なぜこれまで放置されてきたのか……」
赤精子が、俺をジッと見てそう言った。
燃えるような赤い目に恐怖を感じる。
蛇に睨まれた蛙の気持ちが分かった気がするよ……。
「怯えることはない。オレ、いや崑崙に貴様に対する害意はないということは断言できる。だが、このまま貴様を放置するわけにもいかぬのだ……。ええい! いい加減起きぬか太乙!!」
「はいはいぃー。ねぇ英人君? 前も言ったと思うけれどさぁ、仙骨持ちの人間を人間界に置いておくのは、色々問題があるんだよねぇー」
そういや太乙真人が最初に現れた時、確かそんなことを言っていたっけ。
仙骨持ちの人間がいないか、仙境は常に人間界をチェックをしていて、それが現れた場合は、仙人が弟子にするためにスカウトに来るって話だった。
「太乙の言う通りだ。仙骨持ちの人間は、たとえ仙人としての修行を積まなくても、人に非ざる力を持つことが多い。それゆえ人間界に放置しておくわけにはいかぬ存在なのだ」
「俺……別にそんな力は無いみたいに思えるんですが?」
俺は別に力持ちでもないし、超能力みたいな力も使えないし、只の人間なんだけどなぁ。
まさに常人って感じですけど?
「人に非ざる力とは、目に見える力とは限らぬのだ。先を見通す能力だったり、異常な記憶力や判断力だったり、誰もが羨む幸運を持つ、なんて場合もあるな」
おお!
幸運力!!
俺、それが欲しい!!!
「逆に、周りを巻き込んで、とことん不幸にするような不運を持つ場合もあるけどねえ……」
太乙真人がニヤニヤと笑いながら言った。
ぐぬぬ……嫌なことを言いやがる。
心当たりが無いわけではない。
確かに俺は、両親を亡くしていたり、古代中国にタイムスリップさせられちゃったり、不幸体質と言えないこともないんだよなぁ。
「それは無いのじゃ! 少なくとも妾や銀影は、英人のお陰で幸せを感じておるのじゃ!」
「その通りだな。拙者もお館様に救われねば、既にこの世にいなかったであろう。お館様は周りを幸福にすることはあれど、不幸になどせぬわ!」
風花と銀影が、俺の左右に立って、胸を張って言い放った。
うう……ありがとうよぉ。
「ふぅむ。これが貴様が所持する2つの自律型宝貝か。ますます貴様を放って置くわけにはいかぬな。いや、いっそ壊してしまうか……」
赤精子はそう言うと、懐から一本の巻物を取り出す。
刹那に、まるで空気そのものが重くなったようなプレッシャーを感じた。
「「ぐぬ……」」
苦しそうな声に目を遣れば、風花と銀影が苦しそうに悶ている。
「赤精子さん! 一体何をした!?」
「言ったであろう、その二つの宝貝は実に邪魔だ。今ここで壊した方が良い……」
ズン……と、更に空気が一段重くなる。
それに押しつぶされるように、風花と銀影の二人は、這いつくばるように地に伏していく……。
二人を狙って能力を行使しているのか? それとも宝貝にだけ危険な能力なのか?
詳細は分からないけれど、赤精子が取り出した巻物が、二人を苦しめる原因なのだけは確かだった。
「や、やめてくれ! この二人は俺の家族なんだ!!」
「家族……? 宝貝がか? ふんっ! 何処かの誰かのようなことを言う……」
赤精子が不敵な笑みを浮かべた。
ヤバイ……このままでは、本当に二人が殺されてしまう……!?
ズドン!!!!
突然、空間に巨大な鐘が現れて、赤精子をその中に飲み込んだ。
同時に、重苦しかった空気がフッと軽くなり、声も出せずに苦しんでいた風花と銀影は、束縛から開放されたようで、四つん這いになりながらも、肩で大きく呼吸を開始していた。
「ダメだよぉ赤精子。儂がそういうのが好きじゃないって知っているだろぉ?」
太乙真人が、コンコンと鐘を叩きながら言った。
(九竜神火罩か。それで? オレを焼き殺す気か? 太乙よ……)
大鐘の中から、赤精子のくぐもった声が聞こえる。
どうやら、赤精子を閉じ込めたのは、太乙真人の仕業らしい。
ってことは、この大鐘は太乙真人の宝貝か?
「君の太極図があれば、そこから抜け出すことくらい簡単だろう? だけどさぁ……これで儂が本気だってことが、君にも伝わったんじゃないかなぁ? 英人君の宝貝には手出し無用を願うよ?」
(ああ、怠け者の貴様が、虎の子の宝貝まで使ったのだ。その二つの宝貝は壊さぬことを約束しよう。だから、早くここから出せ!)
神妙に頷いた太乙真人が手を叩くと、大鐘は一瞬で消え失せ、苦笑いの赤精子だけが残されていた。
「太乙よ。貴様は余程、この男を買っているらしいなぁ」
「まぁねぇ。英人君は儂の弟子にするからね? 赤精子、君は出しゃばらないでくれるぅ?」
「それとこれとは話が別だな。オレもコイツには興味がある」
「またまたぁ、君は暇なだけでしょう? それに君には別の仕事もあったじゃないかぁ」
「それは既に片付いている。お前の予想通りで、恐らく間違いないだろう」
「やっぱりねぇ。気持ち悪かったでしょう? あの人」
気持ち悪い……?
管仲のことか?
というか赤精子! 俺の家族を殺そうとしておいて、あっさりしすぎでしょう!?
「ちょっと待ってください。貴方たちは一体何しに来たんですか? ちゃんと説明してください!」
「いや、だからさぁ。英人君を仙境に連れて行くことにしたのさぁ。儂の弟子になりなさいよぉ」
それは……まぁ話の流れ的に理解している。
それに、それを断ることが出来ないであろうことも何となく分かる。
どうせ拒否権なんて無いんだろう?
「あ、アンタの弟子になるかどうかはともかくとして、仙境に行かなくちゃならないってのは解りました。赤精子さん? 貴方は一体何しに来たんですか?」
「ああ……。オレは太乙真人から『気になる奴がいる』と聞いてな。それを確認しに来たのだ。確か、管夷吾とかいったか?」
やはり管仲さんのことだったか。
仙人どもが、只の人間である管仲さんに、一体何の用があるってんだ?
これ以上、俺の仲間に危害を加えることは許さねぇからな!
「管仲さんが何か? あの人には仙骨は無いんでしょう? 放って置いてくださいよ!」
「確かに仙骨は無かったな。だが、あれは只の人ではない」
「管仲さんが人で無いって言うなら、一体、何だって言うんですか!?」
さっきから偉そうにしやがって。
仙人だかなんだか知らねぇけど、管仲さんを悪くいう奴は、俺が許さん!!
「管夷吾……あれは恐らく、オレたちの友人だ」
「そういうことぉーーー」
管仲さんが、赤精子と太乙真人の友人?
コイツら……マジで何を言っているんだ???




