敵
破壊王ガルクニコフ・ガランゲイマルクは、異世界ゴンドワナでは魔族が支配していた地域の西側主要国の一つの王であった。そして、北を支配していたのルール・レキサンド・カサーノと、南を支配していたアルバーニア・ヘベリッドと共に3大魔王の一人としてその昔は恐れられていた。
人のように二足歩行であるが、体中短い灰色の毛に覆われており、4メートル近いその巨体はボディービルダーのように筋肉で膨れ上がっていた。顔は怒り狂った雄牛の様で、角は頭のてっぺんから天を突くように太く、雄々しくそそり立っていた。
左目は無く、眼帯をしている。しかし、眼帯からはみ出すように深い古傷が頬のあたりまで伸びていた。よく見ると胸、左手、右足といたるところに大きな古傷を持っており、歴戦の跡を物語っていた。
ガラクニコフは玉座に座り、肩肘をついて、暗黒騎士カース・オブ・マイハートの前に座っている。
ガラクニコフの隣には、同じように支配者の風格漂う巨大な獣が居た。その大きさも3メートルはあり、豪華絢爛の金糸銀糸をふんだんに使った赤いクッションの上に横になり、顔だけ暗黒騎士の方に向けていた。
その名は、獣王ヤーベル。南方地方のある島国で、その昔は神として崇められていたが現在では廃れた存在である。体中長い毛で覆われており、その色は赤、黄、緑とカラフルで幾何学的な模様をしていた。足はなぜか3本しかなく、顔は目が大きい虎のようでギョロリと暗黒騎士を見つめていた。
暗黒騎士はかしづき、頭を垂れている。
「面をあげろ。協力者、カース・オブ・マイハート」
野太い声でガラクニコフはつまらなそうに言い放った。
その声で暗黒騎士は顔だけをあげる。
それを確認したガラクニコフとヤーベルはチラッとアイコンタクトを交わし語りだした。
「貴様の報告ではタイチコフの糞野郎が居たと聞いているが?」
タイミングを見計らっていたかのようにヤーベルが甲高い男性の声で語る。
「余の体を切り刻んだ、七色刀についても追加報告があるとも聞いておる」
カース・オブ・マイハートは少しだけ息を吸い込み、気合を入れて凛とした声で語る。
「そうです!まず初めに、ガラクニコフ様の件について経緯を説明すると……」
そこまで言ったところでガラクニコフが「もういい!」と怒鳴り、言葉を制した。そして立ち上がり、憤怒を抑えるようにワナワナと震え、「ゴアァァアアア!」と咆哮を発した。
カース・オブ・マイハートは驚いたが、何とか耐えて静観している。
「この傷もっ!この傷もっっ!この傷もっっっ!全部あの糞野郎につけられたモノだ!国が滅んで十数年……ついにっ!!ついに見つけ出したぞーー!はーはっはっは!」
ガラクニコフは歓喜に打ち震えさらに語る。
「経緯なんてどうでもいい!!この世界にあの糞野郎がいる!俺様が地上に出る十分すぎる理由だ!」
歓喜の雄たけびを出そうとするガラクニコフにヤーベルが強い口調で「まて!この単細胞!」と怒鳴る。
「あぁ?」と憤怒の入り混じった声で返答するガラクニコフ。二人の交わる視線には火花が散っているような錯覚さえ見える。しばらく睨みあった後、ヤーベルは「はぁ~」と溜息をついて語りだした。
「……余の報告をまだ聞いていない。報告によっては余が出なければならぬ場合もある。事をそう焦るのは愚者のすることじゃ。そう勇んで喚くと五月蠅くてかなわん」
ヤーベルは一呼吸おいた後「しかしのぉ」と言葉を続ける。
「お主のその気持ち……痛いほどよくわかる。余の探しておる七色刀も、お主のその古傷をつけた者の様に、余の体を切り刻んだ物じゃからのう」
「たしか……8本ある足の5本を切った上に、体の半分を両断したという伝説の剣でしたか?」
カース・オブ・マイハートが前に聞いた話を補足として言う。
「そうじゃ。おかげで体の長さは半分になり、足も……ホレ、3本になってしもうた。……しかし、前に語ったことを覚えていてくれておるとは、本当にお主は愛いヤツよのう?カース・オブ・マイハート」
満足そうに頷き、嬉しそうに褒めるヤーベル。
その態度に「チっ!」と大きな音で舌打ちするガラクニコフ。
「俺様は人間が嫌いなんだよ!特に!糞野郎と同じ異世界の人間ってヤツはなぁ!同類であるお前は、役に立つから使ってやってるだけだ!使ってやってるからって勘違いすんじゃねぇぞ!!」
ガラクニコフに指さされ、恐縮しながらも「わかっております」と頷く。
「で?余の件の方はどうじゃ?」
「はい。目標は現在も移動中です。このまま行けば、特異点を通ることは間違いないかと」
「そうかそうか……では、余が先に出るという事じゃ」
嬉しそうに頷くヤーベルに、ガラクニコフは「待て!」と怒鳴り、言葉を続ける。
「お前を切った使い手はとうに死んでいるのだろう?今はそのひ孫がその刀の使い手だと聞いているが?」
無言を貫くヤーベルの代わりに、カース・オブ・マイハートが「そうです」と呟いた。
「積年の恨み……晴らせるのか?」
またも無言を貫くヤーベル。その代わりにカース・オブ・マイハートが語る。
「情報が不足しています。使い手との接触はタイチコフとその娘に阻まれできませんでした。それに、使い手には随行者もいて、その随行者もまた、別の方が探されているとの噂です」
ガラクニコフとヤーベルは同時に「なに?」と訝し気に言った。
「随行者の名前は『勇者ユウ』。探されてる方は、魔王ガルエン様です」
「ふむ」
「ガルエンの野郎が探してるって言われれば……こっちがおいそれとは手を出せねぇな」
ガラクニコフとヤーベルは考える様に天を見上げる。
二人は無言のまま考え込んでいたが、お互い良い案が浮かばなかったようだった。
そんな時、ガラクニコフが「チッ!」とまた大きな舌打ちをして語りだした。
「しょうがねぇ……俺様の配下でまたつっついてみるか。できるか?カース・オブ・マイハート?」
「仰せとあらば」
「しかしガラクニコフよ。この間の弱い魔物ではまた邪魔が入るやもしれんぞ?」
「ああ……だから、今度は特別なヤツをあてがってやるよ。『魔将 バルヒトニス』だ」
「強いのか?」
「まあまあだ。だが、いくら”我らの神”から、……何と言ったか”てんいぼーなす”と言ったか?とにかく強くしてもらったからといっても、しょせん我らの”恨み人”には敵わないレベルだ」
「そうか。まあ我らがでる場面では無いからのう。ちょうど良い相手というわけか」
「そうだ。随行者がどれほどの強さかわからねぇが……まあ、この程度で死ぬようだったら、それはそれで他の奴らにも言い訳がたつ。『しょせんお前の恨みもその程度だった』ってな」
おどける様に肩をすぼめ笑いながら答えるガラクニコフ。
「なるほど……流石は一国の王であっただけはある。良い判断じゃ。単細胞と罵ったことを詫びよう」
「ふんっ!まあ、賞賛という事でその言葉、素直に受け取っとくか。では、カース・オブ・マイハート頼むぞ」
そう言うと、巻物ような羊皮紙を投げる。
カース・オブ・マイハートは見事にキャッチして、一礼して下がった。
ガラクニコフとヤーベルはその場に残り、語り合う。
「しかし……お主も面倒見がいいのう。余は孤高の神であったから手足がない。前回に引き続き、配下を好きでもない異世界の転移者に貸すなどようやるわい」
「ふんっ!俺様は動いてくれるヤツを正当に評価して、必要な物を渡してるだけだ。糞野郎と同じ人間は死んでも嫌いだ」
「嫌よ嫌よも好きのうちって感じかのう?」
「バカ言うな。俺様の恨みは海より深い。それを認められたからこそ”我らが神”にあの糞野郎を八つ裂きにして喰らうチャンスを貰えたんだ」
「そうじゃのう。いつの日か……我ら”恨み人”を抹殺する時を夢見て」
二人の目には恨みの業火が灯っていた。




