デート
郊外にある大型家具店では京子が手際よくメジャーを持ち出して本棚を選んでいた。バックの中から本棚を置く場所の大きさを書いたメモを持ち出して一生懸命選んでいた。
そして、選ぶと店員を呼んで、支払いと配送の手配を済ませ店を出た。
時間が時間だったのでその近くのファミレスで昼食をする。
俺はチーズが中に入ってるハンバーグのランチ。京子は和定食という名の焼きサバがメインのランチだ。
料理が運ばれてくるあいだ、京子に思っていた疑問をぶつける。
「なあ……この買い物。俺は必要なのか?」
そういうと、京子は顔を真っ赤にして机をたたき強い口調で言い放った。
「なっ!なにを言っている!!必要だ!ぜっったいに必要なのだ!!!」
その迫力に少しだけ「ひっ!」と言って身を縮めた。
周りにいる客もその音に少しだけ注目する。
京子はその周りの痛い視線に気がつき、「コホン!」と咳ばらいをしたあと、「すまない」と頭を下げた。その姿を見た周りは安堵し、通常通りの光景に戻った。
京子は少し反省しているのか、困ったように眉をハの字にして、もじもじする。そして、少しだけ上目遣いをして「……楽しくないか?」と聞いてきた。
その顔をみて、自分の無神経な質問を恥じた。
『あんな言い方したら俺が不機嫌だと勘違いするだろうが!せっかく久しぶりに会えたのに無理やりついてきてる感じを出したら……怒るのも当然だな』
だから、笑顔で思っていることを言った。
「楽しいよ。京子とこうやって話をするのも久しぶりだからな。ただ……役に立てなくて残念に思っているだけ」
ソレを聞いた京子は「……そうか。良かった」と、安心したように笑った。
「お待たせしました~!チーズハンバーグ定食に和定食で~す!」
ちょうどその時、店員の若い女性が明るい口調で料理を運んできた。
だから、俺たちは料理を受け取り「いただきます」と言って食べ始めた。
ガツガツと食べる俺と、上品に食べる京子。俺のほうが早く食べ終わったのは言うまでもない。
よく見ると、二人とも水が無くなっていた。
『そういえば……ドリンクバー頼んでたよな?』
いつ貰ったかも忘れてた、ドリンクバーの割引券出して、二人分注文していたことをすっかり忘れていた。気分転換に炭酸の飲み物が飲みたいし、ついでに京子の飲み物も取ってきてやるか。
「そう言えばドリンクバーを頼んでたのに水しか飲んでないや。取ってくるけど、何がいる?」
「どりんくばー?」
京子は食べる手を止め、キョトンとした顔で聞いてきた。
久々にみるこの顔は、質問の意味がよくわからない時にする顔だ。
「まさか……お前、ファミレスとか入った事無いのか?」
「ファミレスという単語は知ってるし、レストラン等は入った事あるぞ?」
「それさ……何とかガイド3つ星とかドレスコードとかのある店じゃないだろうな?」
「そうだが?」
やっぱりと思い、少しだけ苦笑いを浮かべる。
京子は普段は非常に常識人だし、俺以外の誰に対してもフレンドリーな上に、そういう雰囲気を全く見せないので気付きにくいが、超がつくほどお嬢様である。
なので、こういう風に一緒に外に出ると時折こちらの常識が通用しない場面がある。
エルも元々貴族の子女だったので同じような事が多々あったのだが、元々住む世界が違うのでこれは致し方ないすれ違いだ。
だから、京子に「知らないのなら一緒に来てみるか?」と誘う。
京子は目を輝かせながら「行く」と言った。
ドリンクバーの場所まで行くと京子は目をキラキラさせながら聞いてきた。
「裕次郎!ドリンクバーとはコレの事か!入るときに気になってたので注文しようと思っていたのだが、メニュー表に無かったから諦めていた……なんと素晴らしい!」
興奮しながら言葉を続ける。
「……で?どこに注文すればいい?お金はどこに払うのだ?」
「いや、後で食事の代金と一緒に払うんだよ。ちなみに、ココにある物どれでも、何杯でも飲み放題だ」
「なに!飲み放題だと!大丈夫なのか!?採算は!?……ハッ!もしや、裕次郎!この私を騙しているのか?」
「そんなわけねーよ!コレがファミレスじゃ普通なんだって!常識だよ、常識」
「そうなのか?また一つ知識が増えた……本当に素晴らしい常識だ!」
「で?何を飲む?あったかいの?冷たいの?ちなみに、こっちが大人用であっちが子供用だ」
京子は急に顔が真っ赤になって絞り出すような声で「つっ……冷たいの」と言った。
少しだけその動きを不思議に思ったが、ガラスのコップを取り、中に氷を入れた。そして大人用のドリンクバーの機械の前に立つ。
「どれ?」
「……それ」
京子は消え入るような声で言い、プルプルと震えながら指をさした。
それは、子供用のドリンクバーの場所にある『ポップンメロンソーダ、期間限定ピンク!』だった。
俺は一瞬『メロンソーダなのにピンクって……』と思った。
「いやな!うちの母親はこういう飲み物が非常に嫌いでな!!子供のころは飲みたくても一切飲めなかったのだ!!だから……そのぉ……飲みたくて」
なぜか京子は言い訳する様にまくし立てた。
俺は何も言わず、その飲み物を二つコップに注ぐ。
「いいんじゃないの?俺もこういうの好きだからコレ飲もーっと。はい!」
そういって、ピンク色の甘そうなソーダを渡した。
「あ……ありがとう」
京子は恐る恐る受け取り、目を輝かせた。
席に戻ると、京子は飲み物を一口飲み「うまいな!」と喜んでいた。
俺は微笑ましく思いながら同じ飲み物を飲み干した。
☆ ☆ ☆
『しかし、一体どれだけ買うんだ?』
ビルに囲まれた都会の中にある中堅の本屋。もう1時間近く京子はウンウンと頷きながら参考書と睨めっこしている。
「本選びに集中したい。この辞書とかを持っておいてくれるか?他の人に買われては困る」と言って俺の手元にはかご一杯に入った辞書や参考書などの本がいっぱい入っている。
『……重い。しかし、見事に法律関係ばかりだ。というかこの店がマニアックすぎる!』
この本屋は中に入ると、法律関係の本を重点的に入れる店というのがすぐにわかった。よく見れば客層もどことなく知的に見える。俺なんかがいること自体、場違いな感じだ。
近くには有名な大型書店が2つもある本屋激戦区のビジネス街。こういうニッチな戦略を駆使して生き残りをかけているのだろう。
これまでの道中があまりにも楽だったので甘く見ていた。10冊以上ある本はかなりの重さで、それを持ち続けての立ちっぱは正直つらい。
「京子……まだか?」
思わず言ってしまった。
「ん?ああ、すまんすまん。つい読みふけてしまった。続きは帰って読むとしよう」
そう言って、かごに入れた。
総額ウン万円にも及ぶ買い物でビックリしたが、京子は涼しい顔で支払いを済ませた。店員はホクホク顔で「ちょっと待ってください!」と言って奥に行き、すぐに何かを持って出てきた。
「いつもありがとうございます!見たところ、お持ち帰り用の袋をもっていらっしゃらないのでどうぞお使いください!」
そう言って、丈夫そうな紙袋を渡してくれた。
「ありがとう。また利用させてもらう」
京子はにこやかにそう言うと店を出る。
俺は重い紙袋を持って京子の後を追った。
しかし、量が多い。法学部の連中はこれほど副教材がいるのだろうか?
地下鉄の駅に向かうまでの道すがら、京子に聞いてみる。
「法学部に入ったらこんなに副教材がいるのか?」
「いや。これは私が自習用に買ったものだ」
「自習用!?」
「そうだ。私は将来的に法科大学院に通い司法試験を受けるつもりだ。今のうちからさらに勉強せねばならん」
「は~……流石は高校時代の学年トップだな。もう将来に向けて動き出してるなんて凄いなぁ」
そういうと京子は恥ずかしがって顔を赤らめた。そして「お世辞はよせ」と言った。
「いやいや。ホントにそう思うよ。俺なんて何も考えてないもんな~」
まあ、当面の目標が異世界に行くことだもんな。将来の仕事なんて本当に考えられない。
「ふふ……自由でいいなぁ。そうだ!あの本屋に行った後、必ず行く喫茶店があるのだが行かないか?コーヒーの味もさることながら景色が非常に良いのだ」
「いいねぇ。どこにあるんだ?」
「ちょっと行ったところの水神公園の中にある。良いところだぞ?」
「……水神公園」
聞き覚えのあるフレーズに少しだけ不安になる。
『まあ、何かあったときはこの剣もあるし……大丈夫か?』
真顔になった俺を不安そうに見つめる京子。
「どうした?疲れたのか?喫茶店はまたにするか?」
「ごめんごめん!ちょっと考え事してた。……行ってみようじゃないか。水神公園へ」
「?……あ、ああ」
京子は不思議そうな顔をしたが、俺が水神公園へ歩き出したので一緒に向かった。




