露天風呂
新グルガストン城から、山の中を20分ぐらいウロウロと下っていたら、温泉施設っぽい建物があった。
外はすでに日は落ちて、森を切り開き作られたこの施設へと繋がる道は暗かったが、暗視スキルがあるので問題はない。
とりあえず、慎重に周りを確認する。
チョロチョロとお湯が流れる音しか聞こえないので人は居なさそうだ。
中も確認する。男湯、女湯分かれていたので一応風呂場までのぞいて確認した。
「だれも居ないか。まあ、当たり前だよね。立ち入り禁止になってるんだから」
情報によればこの村落一帯は立ち入り禁止区域に指定されているらしい。まあ、魔物による人的被害を抑えるためそうせざるをえないだろう。
しかし、それはホントに好都合である。人目を気にせずゆっくりとお風呂に入れると思うと、少しだけ開放的な気分になる。
やはり僕も、もともとは日本人であるので温泉ときくと心が緩む。
「おっと……そういえば、ターゲットも近くに来てるんだった。とりあえず確認するか」
意識を集中し、諜報魔法を起動させる。
朝と同じで麓の旅館に居るようだった。
うん。問題はない。今日は甲冑も洗濯してゆっくりリフレッシュするとしよう。なにせ、ガルクニコフの命令だからな。時間をかけても大義名分は僕にある。
「よし……そうと決まれば、どちらに入るか」
男湯と女湯の分かれ道で少しだけ考える。
『……この元居た世界で女湯に入るのは抵抗があるなぁ』
女湯に入っても問題はないだろうが、精神的にはそういう訳にはいかない。
「よし!男湯だ!僕は男なんだし!」
男湯の青い暖簾をくぐり、入って行った。
☆ ☆ ☆
「なにが10分だよ……倍はかかってるぞ?おい」
思わず愚痴が口から洩れた。
外はとっくに日も暮れて暗いし、暑い。
道のりは決して平坦ではなく目の前に見えている温泉施設っぽい建物にたどり着くまでに浴衣の下は汗でびっしょりになっていた。
「まあ、帰りは全部下り坂だし。そこまで汗は掻かないだろうけど……はぁ~」
思わず溜息が漏れた。
そんな時、露天風呂らしき方からザバー!っと豪快に水などを何か物にかける音がした。
『ほかの部隊とかの、先客でも居るのかな?』
この辺一帯は立ち入り禁止区域に指定されているはずなので民間人は居ないはずだ。しかし、旅館を出る前に確認したら、この温泉施設はこの辺一帯の旅館が共同で管理しているものらしいので別の場所に泊まる警察関係者などが利用することはありえる。
男湯の青い暖簾を通って中に入る。
脱衣所で浴衣を脱いでいると、男湯の中から「はぁ~」という気持ちよさそうな声とジャブジャブと風呂に入る音が聞こえた。
「気持ちよさそう……。俺もさっそく入るか!まあ、でも、一応魔物とか出ると困るから不可視化した剣は持っていこう。」
浴衣を急いで脱いでタオルと不可視化した剣を持ち、ガラガラと静かに引き戸を開けて風呂に入る。
「っ!……だっ!誰か!!」
風呂場の奥から可愛らしい声が聞こえた。
『はて?どこかで聞いたことがある声だな』
そう思って見回すが、かなりの湯量と熱量があるようで、風呂場全体が湯気に覆われており、よく見ると奥の方に人影らしき物が見えた。
まあ、これだけ湯気があったらここまで見えないだろうし、魔物と勘違いしたのかもしれない。なにせ、立ち入り禁止区域だからな。驚くのも無理はないか。
「ああ。驚かせてすいません。魔物じゃありませんからご心配なく。警察関係者の方ですか?」
挨拶をしようと、人影の方へ向かう。
「イヤッ!?ちょっ!?!?」
向こうは岩陰に隠れ、お湯の中に身を隠した。
『そんなに嫌がらなくてもいいのに……同じ関係者なんだから』
少しだけムッとしたが、それ以上に相手がどんなヤツなのか興味がわいたのでドンドン進む。
そんな時、足元に固い感触が当たった。
「?」
下を見ると、見たことある漆黒の甲冑があった。
「なっっ!?」
驚いて人影の方を見ると、湯気が晴れた。
そこには、カース・オブ・マイハートが顔を真っ赤にしてギリギリと歯ぎしりをしながら肩まで湯に浸かっていた。
「きっっ!きゃしゃまー!にゃんで!なんでここにいりゅんだーーー!」
「!?」
ワナワナと震え、言葉を噛みながら叫ぶ。
相当焦っているのが手に取るようにわかった。
「お前!麓の旅館に居るんじゃなかったのか!」
ははぁ……諜報魔法を人形に移したのを知らないんだな?強者の驕りってヤツだ。ざまーみろ。しかし、眼帯を外した顔を初めてみるが……妙な気分だ。
「ははっ!残念だったな!お前の諜報魔法は対策させてもらった!」
「ぐにゅにゅにゅ~~!」
剣の不可視化を解いて、構える。
「できれば穏便に済ませたい。梓さんを悲しませるわけにはいけないからな……さあ、ゆっくりこっちに来るんだ!」
カース・オブ・マイハートは少し俯き顔をさらに真っ赤にする。
「いっ!」
「い?」
「行けるかっっ!エッチ馬鹿スケベ変態!!!」
「はぁ?」
前半はともかく、エッチとか、変態とか後半の言葉の意味がわからない。語彙力が足りないのだろうか?
「状況が理解できてないのか?俺の足元にはお前の甲冑がある。丸腰のお前は圧倒的不利なんだぞ?」
「そんなことっ!わかってるよっっ!!!」
カース・オブ・マイハートは「う~~~!」と呻きながら、耳まで真っ赤にして睨みつけてくる。
肩まで湯に浸かっているからのぼせてるのだろうか?
しかし、女性と言われても違和感がない顔つきだからだろうか、妙に恥ずかしがる姿が可愛らしく感じて変な気分だ。
「お前……耳まで真っ赤にして、のぼせてるのか?熱いのなら攻撃しないからお湯から出てもいいぞ?」
「出れるか!バカ!この……変態!」
お湯の中でジャバジャバと体をくねらせながら隠そうとする。顔を真っ赤にしながらもがく姿はなぜか妖艶で、心臓がドキドキして焦る。
しかし、ヤツはなぜ体を晒す事さえ断固拒否するのだろうか?思春期特有の自分の体を晒すことに対しての嫌悪感だからだろうか?それにしては必死すぎる気がするが。
「お前……まさか、自分の体を見られるのが恥ずかしいから出れないとかそういう話じゃないだろうな?だとしたら……」
こんな時にあんまりふざけるなよ?と言おうとしたとき、ヤツが言葉を遮るように叫んだ。
「TSっっ!お前!!TSって知ってるか!」
「てぃーえす?」
なんだそれ?
「TransSexual!って意味だ!ばーか!僕は!僕の体はっ!女の子になってるんだよーー!」
「!?!?」
理解できない。しかし、ヤツが叫んだ拍子に少しだけ胸元が見えた。
そこには女子特有のふくらみが存在しており、チャプチャプと湯船に波紋を作っていた。
驚きすぎて固まってしまった。
反射的に鼻血がでる感じがした。
しかし、どうすればいいのだろうか?心が男だから問題ない?いやいや、体が女の子だから問題ありまくりだろう!?
「どうすればいいんだよ!?僕のっ!僕の裸がそんなに見たいかっ!この変態!…ハァ」
「いっ!いや!待て!誤解だ!誤解なんだ!?俺はそんなつもりで言ったわけじゃない!」
「どいつもこいつも僕の体を弄びやがって!ハァ…信じるものか!この変態ハーレム勇者!ハァ…ハァ」
おかしい。なんだかヤツがフラフラしている。
「おい!大丈夫か!?」
「あぁ……だい…じょうぶブ…ブクブクブク」
まずい!湯あたりで意識を失った!そりゃ熱い風呂の中で叫び続けてたらそうなるわな。
『ごめん!!!』
心の中で色々な人に謝りながら、カース・オブ・マイハートを湯の中から引きづり出した。
「っ!?!?!?!?」
小ぶりだが確かにある胸、丸みをおびた女性らしい腰つき、そして、存在しないアレ。その体は、まさしく女性だった。
……じゃなくて!今は助ける方が先決だ!なるべく見なように!そして触らないように抱え、脱衣所まで連れて行く。
バスタオルをかけて、ベンチに寝かせる。とりあえず水は飲んでいないようで、普通に息をしているので安心した。
ヤツを寝かせた後、急いで甲冑を回収し、起きるのを待った。
『しかし……ドキドキが止まらない!』
先ほどから心臓が飛び出すのではないかと思うぐらいバクバクいっている。
不可抗力で何回かエルの全裸は見たことあるが、ここまで変な気持になったのは初めてだ。
『なんだか……甘ったるいような変な気分もするし。なんだろう?妙だ』
変な感情がムクムクと湧き起こってきたが、エルと京子の怒り顔を思い起こして冷静になる。
『落ち着け~……これもきっと試練だ!神様は俺を試そうとしている!』
バチバチと頬をおもいっきり叩いて気合を入れる。
その後、意識を取り戻したカース・オブ・マイハートに「よ……汚された!?」とおもいっきり泣かれたが、何とか説得して、俺たちの宿舎である『恋われ荘』まで連行した。




