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大門 竜二

 これは夢であることはハッキリわかる。


 なぜなら、私の手には数年前から止めているはずの煙草が紫煙を浮かべているし、薄暗いこのバーはその昔よく通っていた場所ではあるが、今は潰れて無いはずだからだ。

 さらに言えば、対面に座る、不貞腐れたような顔でウイスキーのロックをグビグビ飲んでいるいかつい大男はもう死んでいる人間なのだ。


 こいつの名前は大門だいもん 竜二りゅうじ。私の婚約者だった男。


 この夢は昔の記憶。

 最近は弟の子供時代の夢ばかり見ていたが、立花が竜二の名前なんか出したから見ているのだろうと思う。


「しかし、アイツはどこ行ったんだろうなぁ?お前の家に行っても居ないから拍子抜けしちまう」


 こいつは弟の事をけっこう気に入ってて、ことあるごとに絡んでやがったから相当心配していたのだろう。実際、個人的に私と一緒に捜査資料をあたって色々調べていた。でも手がかりすら見つからない状況の当時の私は、八つ当たりするように「知るかバカ。こっちが知りてーよ!」って言ったんだった。


 竜二は灰皿に置いてた煙草を吸う。

 何かを考えるかのように口から煙を漂わせた。


「ここ最近、不可思議な失踪事件も多いからなぁ。中には高校のクラス丸ごと消えちまったっていう話もある。ちょっと気になって調べたが、心の件とよく似ているがこちらも手がかりがまるで無い」


 失踪事件は普通、うちらとは違う課がやる。だが、特殊な失踪事件は海外だとかのでかい犯罪組織が絡んでいる場合があるので話がこちらにも回ってくるのだ。


 思えば、こういう事案も異世界がらみだったのかもしれない。


「何らかの事件だろうとは思うが。全部が全部、犯罪組織が絡んでるっていうのも無理がある。何か別の……神隠し的な超常現象でも起きてない限り説明がつかん」


 竜二は頭を掻きながら小さく溜息を付く。

 いつも先頭に立って明るい竜二がそんな調子だとこっちまで気が滅入る。


 謎ばかりが深まり、好転しない状況に当時の私は本当にイラついていた。


 だからこの時「いなくなったのはしゃーねーだろ?せっかくヤクの元締めを捕まえた慰労会だってのに、辛気臭せーこと話すな!」って言ったんだったか。


 今にしてみれば、もうちょっと言いようがあったと思うが、当時は仕事一筋のバカ人間だったからなぁ。だから、アイツが怒るのも無理はない。


「何言ってんだ、このバカ!唯一の肉親だろうが?もっと大事にしてやれ!」


 アイツは義理人情とか、ヒューマニズム的な話が好きな熱い男だった。仕事でもそれはいかんなく発揮されて、それが原因で謹慎処分をくらったことも1度や2度ではない。

 それはわかってはいたが、当時はウザくて仕方がなかった。


 だから「こっちはこっちで調べてるよ。いちいちうるせーんだよ!このアホ!ほっとけ!」って言っちまったんだった。


 それからは喧々諤々の大ゲンカだ。

 売り言葉に買い言葉でしまいには次のヤマが終わったら二人して仕事を辞めて探しに行くぞ!って平然と言ってきた。この仕事が結構気に入ってる私は断固拒否する。


 そんな話をお互いの襟首を掴みながら言い合ってたら『こいつはなんでそこまで意地になるのだろう?』と、なんだか不思議な気分になった。


 だから「なあ?なんで竜二はそこまで入れ込むんだい?」って言ったんだ。

 そしたら、キョトンとした顔つきでさも当然のように言葉を返してきた。


「ダチだからだ!」


 こいつはホントに馬鹿だ。二回り近くも歳が違うのになに真顔で友達とか言ってんだ?


 「一回あったら知り合い。二回あったら友達だ」なんて豪語するお調子者だし、いつも自分の事は後回しで人様の心配ばかりする馬鹿野郎だからしょうがないか。まあ、こんな性格のヤツだから私も助かった面も多分にある。それに……ヤツのこんな馬鹿さ加減は嫌いじゃない。


 思わず笑うと、ヤツは少しだけ顔を赤くしながら「……まあ、将来的には義理の弟にもなるからな」と言い訳してきた。

 ほらみろ?私より一回りぐらい歳が上のくせに後先考えないで喋るからこうなるんだ。まあ、こういう年甲斐もなく子供ガキみたいな所も好きなところだ。


 だから「負けだ!負けだ!りょーかいしたよ!次のヤマが終わったら望み通り辞めてやんよ!」って言ってやったんだ。


 アイツは本当に嬉しそうに「流石は俺の惚れた女だ!」って豪快に笑って煙草をふかした。

 ホントに恥ずかしい事を平気で口走る馬鹿野郎だ。……ったく、今思い出してみても顔が火照ってきちまう。



 その2週間後、最後の案件になるはずだった事件の犯人に撃たれ竜二は死んだ。手帳に最後の言葉を書き残して。




 涙と口から禁煙パイプが落ちた感じがしたので目を開ける。

 そして、すぐに欠伸をするふりをして目を拭い、胸のあたりに落ちたパイプを拾って咥えた。


「珍しいですね?主任が助手席で寝るなんて。連日徹夜続きでしたから、さすがに疲れました?」


 バレてないかと少しビクつくが、誤魔化すように背伸びをして「ああ……そうみたいだな」って言ったら、立花は「ヒィ!すいません!」って言って身構えた。何やってんだこいつは?


 しばらくして「あれ?いつもだったら叩いてくるのに……?」と口から漏らす。


 こいつはいちいち癪に障るヤツだ。本当にあの竜二のいとこなんだろうか?


「なんだぁ~?タチバカぁ。私の鉄拳を喰らいたかったのか?いい趣味してんな~、おい」


 拳を握り、指をポキポキ鳴らす。


「いえ!違います!誤解ですぅ!」


 運転に支障がないように、「早く本部へ行け!このタチバカ!」と言いながら軽くカタパンしてやった。


「イタッ!暴力反対!」


 少しだけ車は変な風に動いたが、まったく車が走っていないので問題はない。

 立花が運転する車は順調に本部に向かっていた。


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